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最後のしごと

 カチッ


 システムが作動する音がした。

 僕らにあとできるのは、ただ待つことだけ。


 ……。

 …………。

 ……………………。


 あれ?


「……何も起こらない?」

「お、おかしいな」

「もうちょっと待ってみますか?」


 …………。

 ………………。


「いくらなんでも、時間がかかりすぎじゃないか?」


 先輩がそう言ったとき。


 ……プシュー。


 発射台が、なんとも情けない音を発した。

 軽く空気が抜けたみたいだ……というか、本来なら、あれで打ち上がるのでは?


「悲しいくらいに弱々しいな」

「はい……そうですね……」

「最後にもうひとつ、やらなければいけない仕事があるらしい」

「原因はひとつではなかった、ということですね」

「さ、落ち込んでばかりはいられないぞ。早く炉の調査にとりかかろう」


 操作パネルの点検項目を開き、燃料炉のボタンに触れた。

 これで炉の中に人が入っても安全なよう、点火がロックされる。

 それから入口の解錠を選び、内部のライトを点灯させた。


「よし、中に入るぞ」


 先輩のかけ声に押され、すでに設置したエネルギーの脇から、すり抜けるように中に入った。



 縦に伸びた梯子を下り、一番下まで辿りついた。

 中には小さな非常灯が点々と点いてはいるが、それでも薄暗かった。

 僕は周りをぐるっと照らしてから、中央を照らした。

 スイッチを押すと、この受け皿に点火され、爆発の威力でエネルギーが空へ打ち上がるはずなのだが。


「うわっ」


 本来ならば不揮発性の油で満たされていて、点火すれば大火力となるはずの所に、親指第一関節ほどの大きさをした虫の焼け焦げた死骸がたくさん溜まっていた。


「これは……なんとも言えない気持ち悪さがありますね」

「こいつらのいる分、燃料が入らなくて、火力不足になっていたんだな」

「前の人たちが何人も火をつけようとしたから、こんなに焦げ焦げなんですね。とりあえず、きれいにしましょうか」


 山道の運搬と入り口の生物で、ヘトヘトな身体と心に鞭打って、僕は掃除に取りかかった。

 上へ戻って、ゴミ袋と手袋、液体の吸収性が高いペーパーなどの道具を揃えた。

 虫の死骸を掻き集めてゴミ袋に捨て、元々入っていた古い油を拭き取った。

 最後に予備として持ってきていた油で満たすと、今度こそ準備完了だ。


「これで大丈夫ですかね……」

「うむ……。掃除していて気づいたのだが、着火までにもかなりの時間を要していただろ? そもそも火を熾す機能が弱くなっているのではと思ってな」

「ええと、つまり?」

「システムによる着火でなくて、俺たちが手動で火を点けた方が確実だということだ。調子の悪い機械を無理に何度も動かしても、壊れる危険性が高まるだけだしな」

「わ、分かりました。でも、手動だなんて、どうするつもりですか? 火のついたマッチを近づけるのはあまりにも危険ですよ?」

「たしか、ロープを持ってきていたはずだから、あれを導火線代わりにして、今注いだ油に火を点けよう。火を点ける役目は俺がやるから、お前は上で見てな」

「え、でも……」

「いいから。心配すんな。さ、ロープを探してくるんだ。いつまでもエネルギーを放っておくことはできないぞ」


 ロープを探すため、一人で上に上がる途中、僕は先輩の引き受けた役目のリスクを考えて震え上がった。


 もともと導火線用として持ってきたロープではないから、長さが十分かは不確かだ。

 それに、うまく火が点くかも分からない……。


 そんなことをぐるぐると考えながら、僕はとうとう目当てのロープを見つけ出してしまった。


「はあああ……」


 僕は額に手をあて大きく息を吐き出してから、意を決した。


 これからするのは、ロープの長さを測るだけ。

 短かったら、諦めるよう先輩に言おう。

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