任務遂行
「聞いたことがある……」
ぽつり、と先輩は零した。
「ここには、人やモノの想いを吸収し、蓄える生き物がいると。そいつの好物は光だが、弱点も光だそうだ。多すぎると毒になってしまうとか」
「じゃあ、あの生物は……」
「空へ打ち上げたかった運搬者の気持ちと、空へ行きたかったというエネルギーの気持ちが、あいつの中でいっぱいだったのだろうな。最期が満足げだったのがその証拠か」
「へえ……」
「ただのお伽噺だと思っていたが、実在したとは……。さ、もう道を塞ぐものはいなくなったぞ」
「はい! 運搬を再開しましょう」
「おう、いよいよこれで最後だな」
すでに二回通った角を曲がり、施設の中心に向かって、蝸牛の殻のようにぐるぐると緩いカーブに沿ってひたすら進んだ。
目指す発射台に着くまで、いくらもかからなかった。
「よっし、やっと着いたー!」
「こらこら、喜ぶのはまだ早いぞ」
そう言う先輩だって、どこか嬉しそうだ。
「早速エネルギーを設置しましょう!」
ここまで長い間共に過ごしてきたエネルギーの梱包を解き、先輩と、せーのと声を合わせて台から下ろした。
エネルギーの輝きが増したような気がして、こいつも喜んでいるように思えた。
もうすぐだからな。
僕は心の中で輝くエネルギーに声をかけた。
発射台にエネルギーを設置し終えると、僕らは発射台から降りて脇の操作パネルの前に行った。
「ええと、どうするんでしたっけ?」
「ばか、忘れたのか? ほら、この鍵を使え」
「あっ、はい」
先輩に渡された鍵を、パネル脇の穴に入れて回した。
ウィィイン
システムが起動した。
そこで、前もって渡されていた数字八桁の管理者コードを入力。
次に、運搬に出発する前にあらかじめ設定しておいた暗証番号をタップで打ち込んだ。
これで、僕らに許可されているシステムが使えるようになる。
点灯したパネルから、台上のものを固定し、発射口を開くよう選んだ。
打ち上げの仕組みは、設置したエネルギー直下で初めに小爆発を起こし、それによって、上部のエネルギー付近に溜まっている気化させた燃料に引火、大きな爆発の威力で、エネルギーを空まで打ち上げる、というものである。
「エネルギー装填、準備完了」
先輩は大きな声で叫んだ。
「これから打ち上げを開始する!」
がらんとした、発射台を中心としたドーム形の空間に、声が響きわたった。
「天井、開放!」
僕も負けじと叫んだ。
指先で手元のパネルのひとつを軽く叩くと、ゆっくりゆっくり、天井が四つに分かれて開いていった。
向こうには、いつの間にか夕暮れがかった空が覗いている。
ああ、なんてきれいなんだろう。
気づけば、目尻には涙がたまっていた。
僕らのこのひと月は、無駄にはならなかったんだ……。
「よし、やるぞ」
天井が開ききると、先輩は言った。
僕は強く頷いて同意を示した。
あとやることはただ一つ。
発射ボタンを押すだけだ。
そのあとは、発射台の下部にある燃料炉が点火され、自動的にエネルギーは空へと打ち上がる。
僕と先輩はボタンに人差し指をおき、目で合図してから同時に押した。