障害の正体
先輩の言った通りだった。
先輩の走るリズムに合わせるように、ズドン、ズドンと音が響き、地面が揺れた。
僕は後ろを振り替えりながら、またもや入口へ舞い戻る。
ズドン、ズドン、ズドン……。
得体のしれない生物は、壁というより、高くはない天井に、一定間隔でぶつかっているように思えた。
僕は何度もちらちらと後ろを振りかえり、その特徴を捉えようとした。
ズドン、ズドン……。
あれは、単に先輩を追っているというよりも……。
そのとき、脳裏で何かがキラリと光った気がした。
いや、光っているのは……。
「先輩! 懐中電灯です!」
「は?」
「やつに向かって、ぶん投げてみてください!!」
「ど、どういう――」
「いいから、僕を信じて!」
先輩は怪訝そうな声を発したが、僕の言葉を信用してくれたみたいで、勢いよく踏み出した右足を軸にぐるっと後ろを向き、その勢いのまま右手にあった懐中電灯をあの生物めがけて投げつけた。
先輩はそれからまた前を向いて走り出したが、謎の生物はその場から動かなかった。
あ、あ、合ってた……。
そいつは僕の読み通り、自身に向かって飛んできた懐中電灯を、まるでフリスビーを追いかける犬のように、体を伸ばして口でキャッチした。
そしてそのままゴリゴリと音を立てて噛み砕いている。
いや、訂正だ。
まるでエサを食う、だな。
その大きな犬モドキは、しばらく光を味わっていたが、やがて次のエサを発見、ロックオンしたようだ。
――つまり、僕の持つ懐中電灯とヘルメットライトだ。
のぞむところだ!
今見つからずにやつが奥へ戻っていったとしても、結局はどこかで遭遇するのだ。
今のうちに、なんとしても片付けておかなければ!
「先輩!」
僕は隣で走る先輩に声をかけた。
「入口前に置いてきたエネルギーを、もっと離れた安全なところに移してください。そして、網が何かで、あの生物を捕らえる準備をしてください」
「エネルギーはいいが、捕らえるなんて、んな無茶な……」
「僕はやつを入口まで誘導するので、頼みます」
半ば強引なことは分かっているが、この方法しか思いつかなかったのだ。
「……わかった。なんとかしてみよう」
「先輩! ありがとうございます」
「礼は上手くいってからな。では、こちらは頼んだぞ!」
先輩はそう言うと、先ほど謎の生物から追われ、走って逃げていたとは思えないくらい速く、入口へ消えていった。
……よし。
僕はよたよたと追ってくる生物に集中した。
さっき見た通り、あいつは光に寄ってくる。
そう思って、僕は頭のライトを消した。
やつの意識を、懐中電灯の光に集中させるためだ。
僕はそれを、上下左右に動かした。
その動きに合わせて、やつは酔ったようにどったんばったん壁にぶつかり始めた。
おお、地面が揺れるう。
僕は昔、猫を光でじゃらしていたことを思い出した。
ちらっと雑誌で見たのを試しにやってみたら、本当に獲物を追っているみたいでおかしかったよなあ……。
こいつは体のサイズはてんで違うけど、本能的には猫に近いところもあるのかもな。
僕は光で生物を振り回して、先輩の準備が整うための時間稼ぎをした。
でも、じわじわと距離を詰められ、気付けば入口はすぐそことなっていた。
そのとき、突然謎の生物の動きが鈍った。
あれ?
ここで止まられても困るんだけど?
僕は生物を誘いつつ、勢いをつけて外へ出ることにした。
非常に関心が向くように、懐中電灯を激しく小刻みに動かしながら、僕は走りだした。
獲物を追うように、やつは顔のような部分を左右に振っている。
ついて来い!!
「先輩、行きます!」
「ちょっ、まっ」
先輩の準備が終わっていない旨の声が聞こえたが、もう止まれない。
生物は光目掛けて飛びかかっている。
くっそ! どうにでもなれ!
暗がりに慣れた目が、急に昼間の光の中に出たことで、一瞬何も見えなくなった。
それでも、僕は止まらずにもう数歩走って、生物の足音が止まるのを聞いてから走るのをやめた。
僕は目をこすりながら、後ろを振り返った。
そこで僕が見たものは……。
生物に襲われ、傷だらけの先輩、ではなく、声もなくその場で身をよじる生物の姿だった。
昼の光をいっぱいに浴び、身体を光に溶かす光景を、僕も先輩も唖然と見届けた。
生物は始め苦しげだったが、最後には目のような部分を閉じ、穏やかなようにも見えた。
あとには、先ほど食らいついていた懐中電灯の残骸と思われる欠片が散らばっていた。
ちょっと数日、投稿があきます。
いつとははっきり言えないのが心苦しいですが…