道を塞ぐモノ
「それじゃ、出発だ」
山に入ったときと同じように、僕が前で台車を引き、先輩が後ろで支えるスタイルで、山奥の発射台を目指した。
単純距離で考えると、山小屋の時点で全行程の半分はとうに越えていたが、ここから到着までにかかる時間はきっと、これまでのものと同程度になるだろう。
斜面の勾配は徐々に急となり、自分の身一つではなくエネルギーも一緒に運んでいるので、重いし正直つらい。
さすが、山小屋出発後が第二関門と言われるだけのことはある。
発射台は比較的なだらかなところにあるが、そこまでの道のりが急で険しいのだ。
例えるなら、お皿に盛り付けられたプリンといったところか。
……プリン食べたくなってきた。
「先ぱーい、プリン食べたくないですか?」
「はあ? 突然どうしたんだ」
残念。先輩には伝わらなかったらしい。
その急勾配の道で二泊して、三日目の朝、僕らはついに目的の平らな地点に到達した。
「つ、着いた……」
体にかかる荷物の重みが、いくらか楽になった。
「あとは施設内の発射台に設置するだけだな」
だが、人々の期待の重みから解放されたわけではない。
それに、設置するだけと言ったが、本当にそうだろうか?
ここまで特に、運搬を妨害する何かとは出会わなかった。
つまり、問題はきっと施設内の中だということ。
ちなみに、施設といっても、山をくりぬいただけの道の先に、発射台といくつかの監視システムがあるだけのものだ。
「疲れているか?」
「いえ、大丈夫です! それより、所謂原因というやつがこの中にいると思うんですが……」
「ああ、ここまで特別邪魔をするようなものはなかったからな」
「エネルギーを一旦置いて行った方がいいですかね?」
「いや、何があるか分からない分、この中に入るのは二人の方がいいだろう。エネルギーの見張りがいないのは危険だと思うが?」
「あっ、確かに。先輩の言うとおりですね……」
「俺が前を行くから、お前はいつでも逃げられる準備をしておけ。何かあったら、エネルギーを安全なところへ運ぶんだ」
先輩の指示通り、僕は後ろから一人でエネルギーの乗った台を引っ張って運んだ。
エネルギー以外の生活用具たちは入口に置いてきたので、運べないほど重い訳ではない。
車輪がとられて横に倒れないように注意すればよかった。
中は薄暗く、外の日の光はほとんど入っていなかった。
先輩が懐中電灯で先を照らしながら進んでいく。
僕はというと、両手で持ち手を握っているため、頭にライトのついたヘルメットをつけている。
僕の背後では、エネルギーが梱包されているにもかかわらず、薄ぼんやりと幻想的な星の色で明るく光っていた。
綺麗だな……。
僕は、早くこのエネルギーを、あるべき空へ送ってやりたいと強く思った。
そのとき、
ドォン!!
何かがぶつかる音が響いた。
「おい、どうした!?」
「え、いや、僕じゃないです」
「じゃあ、なんだ……?」
一瞬こちらを振り返った先輩はすぐさま視線を前に戻した。
しばらくの沈黙。
そして、
ドォォン……!
またもや、何かがぶつかる音だ。
少し地面が揺れた気がする。
壁にぶつかっているのかな?
「……先輩」
「なんだ?」
「さっきより、近くなっていません?」
「ああ……モノが落ちたとかではなくて、生きているようだ。どんなのか気になるか?」
「ええ、まあ……」
「よし、俺が見てくる」
「えっ、そんな、危ないですよ?! 先輩が行くなら僕も――」
「いや、お前は残れ。あまりいい予想はできない。念のため、エネルギーを入口まで戻してくるんだ」
「ですが……」
「これは隊長命令だ。わかったな」
「……う、はい」
先輩に言われるまま、僕は台車の向きを百八十度回転させた。
それを見ると先輩は、じゃあ見てくるからと、軽く手をあげ懐中電灯片手に前へ進みだした。
僕も一緒に行きたい気持ちもあるが、相手との距離がじわじわと着実に縮んでいる現在、二人で一旦エネルギーを置いてから挑むというのは、現実的ではないことも分かっていた。
僕は、エネルギーを引きながら考えた。
あの生き物はどんなやつだ?
どんな特徴がある?
暗闇にいた。
僕らが入ると動きだした。
音からしてある程度の大きさがある……。
あの壁にぶつかる動きはどういう意味だ?
動く、まわりの地形が見えないくらい、興奮……歓喜? それとも怒り?
前者なら、餌を感じとった喜び、後者なら、テリトリーを侵害された怒りといったところか……?
どうしよう! やっぱり先輩が危ないじゃないか!
逸る気持ちを抑えて、僕は入口に到着した。
ここにエネルギーだけを放置するのもどうかと思ったが、先輩をずっと一人にしておく方が問題だ。
コストがかかるとはいえ、何度も生み出せるエネルギーより、人ひとりの命だ!
僕はエネルギー台が勝手に動き出さないようタイヤに輪留めをし、再び暗闇の中に舞い戻った。
今度は僕も懐中電灯で、地面と前方を交互に照らしながら進んだ。
頭のライトもそのままつけてきたので、かなりの明るさが保たれている。
先ほど先輩と別れたところに着いたとき、人の走る足音が響いてきた。
「先輩!!」
「はっ……お前、戻ってきたのか?!」
先輩は遠くから、走りながら応えた。
施設の土むき出しの壁に反響して、先輩の声がいっそう重々しく聞こえた。
「逃げるぞ! やつは俺を見た途端、狂ったように追ってきている!!」
ここらへんからようやく、ジャンルのアクションと呼んでもいい気がする。
小説のジャンル分けすごい困った。