作戦開始
そして、出発当日。
前日ぴったりに出発地点である山の麓に届くよう生成された星空エネルギーは、日が昇らない内に、荷物担当によって台車にしっかりと括りつけられることになっている。
一方、実行班は任務に備えて、前日は早く寝ることになっていた。
僕は、わくわく感や緊張からあまり寝付けないかと思っていたが、案外すんなりと眠りにつくことができ、目覚めはかなりさっぱりとしたものだった。
「おはようございます!」
まだ空が明るくなりきっていない時間だが、僕は先輩に元気よく挨拶した。
「おはよう。体調は万全か?」
「はい! 絶好調ですよ!」
「それは何よりだ。急いで朝食を食べたら出発だ」
食堂で朝食を済ませると、ルートと持ち物の最終チェックが行われた。
山歩き用の丈夫な靴、上着、ズボンを身につけた僕ら二人は、何人もの社員に見送られて出発した。
僕が前でエネルギーの乗った台車を引き、先輩が後ろから押さえて運搬が始まった。生活のための荷物はある程度荷台にまとめて積んでいるが、個人的なものはそれぞれが持っている。
僕らはこれから一ヶ月の間、キャンプをしながら炉のある山奥へ進んでいかなければならない。
台車分の距離のせいもあってか、僕らは必要最低限以外の会話はせずに、黙々と歩を進めた。
日が暮れ始めたころ、僕らは足元の石が大小不揃いに散らばるのが目立つところまで辿りついた。
ここから先は、いわゆる第一関門と言えるだろう。
先ほどまで通ってきた平坦な道と違って、訪れる人も少ない。脇にはまだよく整備された地面があるが、この道はうねうねと山道を蛇行していて時間が余計にかかってしまうため、今回は通らない。
後ろで荷物を支えていた先輩が口を開いた。
「ちょっと時間からすれば早いが、今日はここらで休もう」
「あっ、はい! そうですね!」
「向こうの沢で水を汲んできてくれ」
僕が両手に水でいっぱいのバケツを持って戻ってくると、先輩はすでに集めた枯れ木で焚き火を始めていた。
「よし、飯にするか」
持参した簡易蒸留器で濾した水を沸かし、粉末を溶かしたスープで温まりながら、パンとレトルトのおかずにかじりついた。
食事が終わると、火が消えても寒くないよう、焚き火の周りを石で囲み、火の熱を伝えて暖かさを確保すると、僕らは荷物を風除け替わりになるように置き、寝袋の中で早々に眠りについた。
翌朝からは砂利道を慎重に進み、時には休んで、三日後には山森の入り口まで辿りついた。
なかなか順調だと思う。
山林に入ってからは、地面は湿った赤茶の土が主となり、歩く分には衝撃を吸収するクッション代わりとなって歩きやすかったが、エネルギーを載せた台車のタイヤは更に回りづらくなり、総合的に見れば進むスピードは落ちた。
その上、山では夜から早朝はひどく冷え込むので、覚悟していたとはいえよく眠れずに、疲れを取るのが難しくなっていた。
「先ぱーい、熱い湯に浸かりたいですー」
「阿呆。無理に決まっているだろ」
「言ってみただけですよぅ……」
山に入って一週間も経った頃、僕は先輩にこぼしていた。
毎日食事をとるので、その分だけ荷は若干軽くなっているはずだが、運搬を続ける中でちっとも楽になった気はしない。
日々蓄積する疲労に、一度すっきりと解消させたいと思って言った言葉だった。
「まあ、そろそろ距離的には折り返しだろうし、目印の山小屋では充分に休めるだろうさ」
「あっ、そうでした! 山小屋目指してもう一踏ん張りできます!」
「その意気だ。無理し過ぎない程度に頑張ろうな」
ずんずん進むよ