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「選択の物語」

8月14日


 あれから家にこもりっぱなしだ。あの言葉、一体どういう意味だ? あきらめろ。俺が過ごした三日間はいったいなんだったんだ? 和仁さんはいったい誰を救いたいんだ? 本当に犯人は和仁さん? 考えれば考えるほど謎は深まる。もう、考えるのをやめたくなるほどに……


「俺、騙されていたのか……?」


未来の俺はずっとそのことを考えている。それもそのはずだ。『救うため』という理由で二人で協力してタイムマシンを開発していた。でも、それは違う人物を救うためだった。まるで騙されたような感覚になるだろう。


「それにしても、これから一体どうしようか……」


どうするか。見当もつかない。きっと和仁さんが言うからにはなんらかの理由があるはずだ。その理由がわかれば二人を救うことを諦めなくても済むかもしれないが……


「理由? そんなの決まってる。現在の俺のタイムリープの技術では行くことができない時間枠に原因があるということだ」

「それか、俺たちには到底変えられないこと、例えば国の政治とか、流行とか、そういったものか」

「後者は考えにくいだろう。しかも、もし変えてしまったら二人を救うどころか誰がどうなるかわからない世界になってしまう。世界を大きく変えるのはあまりに危険だ」

「そうか、じゃあタイムリープしても無理な範囲に原因があるのか……」

「待てよ、ということは逆をとると未来の和仁さんは原因をしっていることになるな」

「そうだな。でも、それを追求するのは無理なんじゃ……」

「いや、不可能じゃないぞ」


そういうと、未来の俺はメモ帳に何かを書き始めた。どうやら、推理をして原因を探り出すようだ。

今までの情報らしきものをずらずらと書き進めている。


「よし。じゃあお前に質問をする。まず、和仁さんが無理だといった理由は?」


それはさっき言ってたな。


「タイムリープ不可能な時間枠に原因があるから」

「そうだ」


タイムリープ不可能な時間枠、つまり8月13日から15日以外の時間に原因があるということだ。


「そのことから、和仁さんは原因を知っていると予想される。では次だ、なんで和仁さんは二人が死ぬことの原因を知っていたんだ?」


それは、誰かから情報を得たから? 違う。そもそもあの和仁さんは未来の和仁さんだ。今の時代に信頼できる情報をくれる人などいないはず。じゃあ……


「和仁さんが原因をつくった?」

「そうだ。和仁さん自身が原因をつくったんだ。さて、そろそろ核心に近づいて来たぞ。では次だ。和仁さんは何のためにタイムリープをした?」

「それは、誰かを救うため?」

「まあそうだが、もっとかみ砕いて。誰かを救うためという大きな目標ではなく、そのために必要な小さな目標だ」


小さな目標……和仁さんの発言を思い出せ!!




「よく、きいてほしい」


いよいよ真相が語られる。その開いた口からはとんでもないことが話された。


「私はある人物を救うため、ある人物を殺した。それは美咲だ」

「美咲!?」


美咲を殺した。一体だれを救うため?


「誰を救うためかは言えない。その美咲の死体を一旦十和田湖の森に隠したんだ。それを木を伐採しに来たサハラ建設に見つかってしまったんだ。それがばれれば俺は色々とまずい。だが、もしサハラ建設が死体を発見したことを公表すれば、なぜ発見したかといことになる。それはサハラ建設にとってもダメージがある。だから私は交渉に出た。『死体発見を公表するな。さもなくば夏祭り、爆発させる』と」

「じゃあ、櫓を爆発したのは……」

「そう。櫓の証拠を消すため。結構派手に爆発させているから、跡形もなく燃えてしまう。そうすれば櫓の素材を調べられることもない」

「もし、櫓について世間にばれたら和仁さんの武器であるサハラ建設の弱みはなくなる……」

「そうするとサハラ建設はどうするかわかるよな?」

「もちろん、立場を逆転される。和仁さんの弱みを武器にするでしょう」

「その通り。だから私はああするしかなかったんだ」

「でも、そしたら矛盾が生じます。『爆発の原因が爆発を阻止するためのもの』ってことになります」

「それは違う。もともとタイムマシンはこの爆発を防ぐために作られたものじゃないんだ」

「どういうことですか? 未来の俺と開発したんじゃ?」

「たしかにそうだ。でも、未来のお前が爆発を阻止したかったかどうかはしらん。私は未来のお前に『ある人物を救いたい』としか言っていない」

「ある人物……」


きっと、未来の俺が思っている人物は五木か加奈。でも、和仁さんは違う。別の人物を救いたいのだ。じゃあそれは誰? まあ、さっき教えないと言っているから教えてはくれないだろう。


「私から話せることは以上だ。次は君の番だぞ、と言いたいがどうもうまく整理できないようだね」




「美咲の殺人を隠すため?」

「そうだ。美咲を殺すことによって和仁さんはある人物を救った。さて、ここまでくれば答えは簡単。二人の死の原因は?」


和仁さんはある人物を救うために美咲を殺す。その殺人を隠すためにタイムリープし、爆破予告を出す。その爆破が二人の死の原因となる。


「ある人物が救われることか、美咲が死ぬこと?」

「そう、なるな。そして、直接爆破にかかわっているのが」

「美咲の死」

「よって、二人の死の原因は美咲の死にある。そして、美咲が殺されたのは行方不明になった日だろう。それは8月9日。つまり、タイムリープできないということだ……」


ようやくたどり着いた答え。何度も何度も、世界で一番長い三日間を繰り返してたどり着いた答え。それは意外な物であり、新たな絶望を俺にたたきつけた。そう、『救うことは不可能』ということを……




8月13日


 数十回、数百回近くのタイムとリープをしても、二人が生きて夏祭りが終わる世界は無かった。それだけやっても、爆発が起きる。爆発を止めても、なんらかの形で二人は死んでしまう。そんな二人を見ていると、だんだん心が冷たくなっていくのがわかった。二人を見ても何も感じなくなっていった。俺は、人じゃない。人の形をした何かになってしまっていた。ただただタイムリープを繰り返すだけのロボットになっていた。


 朝ごはんを食べに下へと降りて行った。朝ごはんは基本ご飯を食べる。ただ、休みの日は簡単にパンで済ませることが多い。今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。まるで、今の俺のこころとマッチしているかのように冷たい声。やらされているという感じが伝わってくる。最初は例の脅迫状、次に昔に起きた女児殺害事件の真犯人が見つかったこと、そして人口知能の話題へと変わっていった。人工知能か。もしかしたら、俺も本当にタイムリープするだけの為に生れた存在なのかもしれない。どうせ、なんどリープしても結果は変わらない。でも、リープをやめてしまえば二人は死んでしまう。なら、俺はこれを続けるしかない。だから、おれはリープを続けるために生れた存在なのだ。俺がそのようなことを以前未来の俺に話したっきり、連絡はしていない。もう、彼には用がないから。俺はずっとリープを続ける。だから、未来なんて来やしない。俺は俺の時間を生きるんだ……



8月15日


「くそおお!」


なんでこうなった。いつからこうなった。俺は結局逃げてしまった。誰も救えなかった。多くの犠牲の上に俺は期待にこたえれなかった。なかったことになっているとはいえ、多くの失敗をし、多くの二人を殺した。それでも、俺は諦めてしまったんだ。本当にこれで、いいのだろうか……。ずっとリープを続け、それで気がついたことがある。一つは、軽々しくずっと○○してたいと言ってはいけないこと。もう一つは、決断するべき時がくるということ。


 俺は本当にずっとリープする気持ちでいた。でも、それは不可能。未来の俺がいる以上、なんらかのきっかけで時間は進みだすんだ。だから、いずれは選択する時がくるだろうと思っていた。『加奈の死』か『五木の死』かを。そして、そのことについて考え始めた今が決断の時だった。いつだろう。ファイナルファンタジー10をやったときのアーロンのセリフを思い出した。「さあ どうする! 今こそ決断する時だ 死んで楽になるか 生きて悲しみと戦うか! 自分の心で感じたままに 物語を動かす時だ!」今、俺は死んでいる。死んで楽になろうとしている。


「それじゃあだめなんだ! でも、それじゃあ……」


俺が死んで二人が死なないなら、それも選択の一つだろう。そして、俺が生きてどちらかが死ぬ。それも物語としてはありだ。要するに俺の思うままに物語を動かさなくてはいけない。さあ、どうする!? どう物語を動かす!?


五木を犠牲にする……9-Aへ


加奈を犠牲にする……9-Bへ


自分を犠牲にする……9-Cへ


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