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「裏切りの物語」

8月15日


 その日は図書館でひたすらサハラ建設について調べていた。あの後未来の俺と相談したのだが、何もいい考えが浮かばず、まずは調べることになった。開館したのが9時。お昼はジャムパンをコンビニで買って食べ、そのあとずっとここにいて、今は午後6時。休憩が30分だとしたら、さて俺は何時間調べ物をしているでしょうか? って、俺はなにしてるんだ。もう、なんだか頭がおかしなことになってきた。はぁ、タイムリープに続くタイムリープの上、何時間もの調べ物、これじゃあ色々まいっちゃうよ。7時に閉館だから、そろそろ情報をまとめて帰る準備をするか。


 その日は大きな成果はあまりなかった。しいていえば、サハラ建設にいい噂はない。そしてサハラ建設は危ない。これだけだ。まあ、これも以前からしっている情報だったのだが・・・。それ以外には、タイムリープについて調べたり、因果律について調べたりしていた。まあ、俺が調べてもよくわからないことが多かったが、それでも少しは理解できた。これもタイムトラベルのおかげなのかな。但し、二人を救う方法はどうかというと、やはり未だに具体的な案は無かった。


「これからどうしようか。せっかくいいところまでいったけど、サハラ建設についてわからなくちゃ犯人も特定できないよな」


未来の俺も全く同じ意見。結局振り出しに戻ってしまった。そうこうしているうちに今日は終わってしまう。きっとどこかで加奈と五木は死んでしまっているのだろう。それを阻止すべく俺はまた戻った。



8月13日


「俺、行くよ」


それはその日の夜8時のこと。俺は決めた。サハラ建設に潜入する。そして、犯人特定に使えそうな情報を手に入れる!


「お前、それはだめだ! 彰浩さんにも注意されただろ! それにお前自身調べてあの会社の危険性がわかったはずだ!」


そう。危険性はわかっている。もし、あの会社に不利なことを続けていると、社会的にも殺されてしまうらしい。具体的な例はあまりない。それもサハラ建設のせいだとか。


「わかってる。でも、ここでやめるわけにはいかないだろ?」


未来の俺の目を見る。自分と向き合うなんて、実際の行動のするとおかしな感じだ。普通は自分のこれまでの言動と向き合うという意味なのに、本当に向き合うなんて。


「そうか、本当に行くんだな? 不法侵入だぞ?」

「いいよ。人を見殺しにするよりましだ。見つかる前に、犯人の情報と木材が違法である証拠を見つけ出せばこっちのもんだ」

「よくいうよ・・・」


実際、今すでに足が震えている。怖い。そりゃあ、あれだけ調べた後だ、どんな会社かよくわかっているからね。でも、立ち止まらない。これは俺に対する償いだ。あきらめるな。自分を信じろ。前へ進め。その先にきっと、何かが待っているはずだから。


 本当にきてしまった。俺は、自転車をこいでサハラ建設事務所まで来た。大きな建物だ。今は夜11時。親にばれないようこっそりと出てきた。さっさと帰らないと怒られるな・・・


「いいか、俺もアドバイスをするからよく聞けよ」


ゲーム機の中からは未来の俺が語りかけてくる。もしなにかあったらこれですぐにタイムリープをすればどうにかなるだろう。さて、早速どこから侵入すればいいだろうか・・・?


「ちょっとまてよ、まず正門まで行け」


どうやら未来の俺は俺の情報をもとにマップを作製し、さらに自分の分析したデータと組み合わせて侵入ルートを考えていたらしい。


「了解、それで次は?」

「近くに木がないか? 少し小さめの木。あと自動販売機」

「あったあった」

「その近くに裏口があるはずだ。きっと鍵がしまっていると思う。だから、その上の窓から侵入しよう」

「って、二階の窓から? 一体どうやって・・・」

「まず、その木に登れ」


木のぼりか……。ちょっと苦手だけど頑張ってみるか。まずここに右足をかけてそのあと腕で体を引き上げる。そのまま左をこうしてっと。ふう。どうにか登れた。


「そしたら、次は自動販売機に飛び移る」


えぇ、この高さから? いや、やってみよう。とうっ!


「あぶねっ!」


落ちるとこだった。どうにかバランスを取りなおす。よし、自販機の上にきたぞ。次はどこだ?


「そしたら、あの壁をのぼれ」


ん、ちょっと厳しそうだが、陸上で鍛えた脚力をつかえば、いけるぞ!


 ふう、どうにか登りきった。二階のテラスらしきところにきた。ここから、あの窓を開けて飛んではいるんだな。きっと、二階だから大丈夫だろうと思って鍵をしめてないんだな。その予想通り、鍵はしまっておらず、手で押すだけで簡単に開いた。そこへ向かって飛びこむ。無事、建物に侵入できた。


「よくやった。そしたら後はお前次第だ。どこかに脅迫状そのものがあったり、犯人の候補リストが

あったりするかもしれない。とにかくそれっぽいものを持ってすぐ出てくること。いいな?」

「了解」


そこでいったん通信を切る。さて、一体どこから探っていこうか。その時だった。


「誰だ!」


急に声がする。下の階からだ。警備員だろうか? とにかく気をつけて進まなくてはいけない。その人物はどうやら二階へあがってきたようだ。階段を上る足音が聞こえる。まずい、このままでは見つかる。どこかに隠れる場所は……。

 

 とっさに近くの部屋に入る。なんだか高級そうなソファーと棚に大事そうな書類が沢山ある部屋だ。社長室的な場所だろうか? さっきの人物はこの部屋に用事があったらしく、どんどんと足音が近づいてくる。部屋に入っただけでは隠れきれなかったので、近くのロッカーに身をひそめる。ロッカーの上部にはスライドがあり、中から少し外の様子をうかがえた。しばらくして一人の男がやってくる。どうやらこの社長らしい風貌だ。すこし髭を蓄えている。それにしても挙動不審だ。何かを探している? そんな感じだ。視線をきょろきょろと変え、落ち着きがない。


「いいぞ」


その男は扉の外に向かって声をかける。どうやらもう一人誰かいるようだ。さっききょろきょろしていたのはその人物との会話を誰にも聞かれたくなかったからだろうか?


「それで、あの件、しっかりと考えたのか?」

「いやあ、私だけの問題ではないので・・・」

「あと三日もないんだぞ。早く選択をしないとどんなことになるか・・・」

「それはもちろん承知ですよ」


どうやらその人物にさっきの男は頭が上がらないらしい。いったい誰なのだろうか。


「それにしても、爆発ってのは少しやりすぎじゃないですか?」


爆発・・・。どうやら話している相手は俺の探している人物で間違いなさそうだ。でも、そんな堂々と相手の前に出てきていいのだろうか? もし恨みがあって爆発するのなら、こっそりとやらないと俺が調べたように社会復帰不可能になるくらい痛めつけられる。この会社はそういうところだ。でも、相手は抵抗できなさそうだ。ということは、サハラ建設に恨みがあるわけではない・・・? もしくはサハラ建設の弱みを握っているのだろうか。それにしても、その人物の顔が見えなければどうにも・・・


「そうでもしないとお宅、やめないでしょう」

「そうですけど・・・。でも、そこまでしてあの事件は隠さなくてはいけないんですか?」

「もちろん。外に漏れたら厄介じゃすまないレベルだ。君も誰にも話していないだろうね」

「そりゃあね。私もそれが知られたら色々とまずいですし・・・」


あと少し、あと少しで顔が見える。服装は白衣? のようなものを身につけている。ずいぶんと変わった人物だ。それで、ひょろっと痩せたシルエットだ。し研究者っぽい雰囲気ではある。眼鏡をかけて、髪の毛は少しぼさっとしている。そして、顔を見る。俺はその顔をよく知っていた・・・


「和仁さん!?」


思わずロッカーから飛び出る。


「一君!?」

「だれだ!?」


一瞬部屋に沈黙が訪れる。


「和仁、これはどういうことだ。君の知合いのどうだが・・・」

「私には何も・・・」


あせっている和仁さんの顔をよく見る。俺が知っている和仁さんよりずいぶんと老けているが、間違いなく和仁さんだ。


「和仁さん、どうしてここに!?」

「君こそなんだここにいるんだ!?」


みんな混乱している。一体どう整理すればいいのだ? 爆破予告の犯人は和仁さん。じゃあなぜそんなことを? それは本人から直接きくしかない。それより今はこのピンチをどう切り抜けるかだ。


「隆、ちょっとすまないが私はこれで帰らせていただく」

「どうやら、そうしたほうがいいみたいだな。その坊やが話を聞いていても、理解できるとは思えんし。まあ、私の方も下手に手出しはできない。安心して帰りたまえ」

「ありがとう」


どうやら和仁さんのおかげで場は丸くおさまったようだ。ほっとした安堵感と同時に和仁さんは手をひっぱてくる。


「こい!」


その声からは、何とも言えない強さが感じられた。怒り? 苛立ち? 違う。何かに必死になっているときの声だ。


 和仁さんに連れてこられたのは官庁街の近くの公園だ。そのブランコに一旦腰を下ろす。


「まず、なんで君はあそこにいたんだ?」


まあ、その質問をするのがあたりまえだろう。でも、今はその質問には答えられない。というか、どこから話せばいいのかわからない。


「えっと、俺は何度かリープしてきて・・・」

「そうか、やはりそうなんだな・・・」


やはり? 何かしっているのだろうか?


「いいか。私が、君の助っ人、未来の五木の兄、大谷和仁だ」


俺の助っ人。そういえば言っていたな・・・




「俺はタイムリープできないが、ある人物が未来からお前の時代に来ているはずだ。そいつを頼ってくれるといい」


ある人物?


「それっていったい誰なんだ!? 俺の知ってる人か!?」

「ああ。身近な人だよ。ただ、今はどこにいるかわからないんだ」

「そうか…」


いったい誰が俺を手伝いにきてくれているのだろうか。気になったが、未来の俺は教えてくれなかった。どうせわかることなんだし、教えてくれたっていい気がするのに。




助っ人が爆破予告の犯人。爆破を止めるためにタイムマシンで助っ人がきた。あれ? これっておかしくないか? 俺は爆破を阻止するためにタイムマシン研究をする。その原因は未来で完成するタイムマシンに乗ってきた和仁さん。和仁さんが犯人。それを阻止するためにタイムマシンをつくって・・・ リープしてしまう。どういうことだ?


「よく、きいてほしい」


いよいよ真相が語られる。その開いた口からはとんでもないことが話された。


「私はある人物を救うため、ある人物を殺した。それは美咲だ」

「美咲!?」


美咲を殺した。一体だれを救うため?


「誰を救うためかは言えない。その美咲の死体を一旦十和田湖の森に隠したんだ。それを木を伐採しに来たサハラ建設に見つかってしまったんだ。それがばれれば俺は色々とまずい。だが、もしサハラ建設が死体を発見したことを公表すれば、なぜ発見したかといことになる。それはサハラ建設にとってもダメージがある。だから私は交渉に出た。『死体発見を公表するな。さもなくば夏祭り、爆発させる』と」

「じゃあ、櫓を爆発したのは・・・」

「そう。櫓の証拠を消すため。結構派手に爆発させているから、跡形もなく燃えてしまう。そうすれば櫓の素材を調べられることもない」

「もし、櫓について世間にばれたら和仁さんの武器であるサハラ建設の弱みはなくなる・・・」

「そうするとサハラ建設はどうするかわかるよな?」

「もちろん、立場を逆転される。和仁さんの弱みを武器にするでしょう」

「その通り。だから私はああするしかなかったんだ」

「でも、そしたら矛盾が生じます。『爆発の原因が爆発を阻止するためのもの』ってことになります」

「それは違う。もともとタイムマシンはこの爆発を防ぐために作られたものじゃないんだ」

「どういうことですか? 未来の俺と開発したんじゃ?」

「たしかにそうだ。でも、未来のお前が爆発を阻止したかったかどうかはしらん。私は未来のお前に『ある人物を救いたい』としか言っていない」

「ある人物・・・」


きっと、未来の俺が思っている人物は五木か加奈。でも、和仁さんは違う。別の人物を救いたいのだ。じゃあそれは誰? まあ、さっき教えないと言っているから教えてはくれないだろう。


「私から話せることは以上だ。次は君の番だぞ、と言いたいがどうもうまく整理できないようだね」

「はい」

「きっと、私が開発したプログラムを使用して、記憶のタイムリープでも行ったのだろう。未来のお前は『二人を救いたい』と言っていたからな。それに使用したのだろう。まったく、無茶するよな・・・」

それは今の俺に向けてではない。未来の俺に向けてのセリフだった。

「それで、二人を救うためには爆発を阻止する、そのためにはサハラ建設・・・そんな流れだろう」

「そうです・・・」

「ほんっと、変わらないな。今も昔も」


和仁さんは、月を見ながらその言葉を吐いた。


「最後にこれだけは言っておく。二人を救う。そんな考えは捨てろ。お前は普通の人生を生きろ! というか、今の状況じゃあ、二人は救えない。だからあきらめろ。以上だ」


それが最後の言葉だった。


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