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「隠された物語」

8月13日


 再びこの日がやってくる。あれから何度もタイムリープを繰り返した。少しのことでも変えてみよう、そうすれば二人は助かるかもしれない。そんな希望をもって。でも、現実はそんなんじゃなかった。


 何をやっても二人は救われない、俺には結末を変えることなんてできなかったんだ。何度も何度も俺の目の前で二人が死んでいく。そのうち、『しぬ』ということ自体の意味がわからなくなってくる。死んでもリープすればまた元にもどる。なら、ずっとリープしていれば俺の中で二人は生き続けるんだ。違う! 俺が求めていたのはそんな結末じゃない! 何のために俺は今まで頑張ったんだ! 二人を救うため。それはもちろんだが、あの日の失敗を繰り返さないため、償いのために俺は頑張っているんだ。もう、つらい現実から逃げないって、そう決めたんだ。


「なあ、大丈夫か?」


未来の俺が話しかけてくる。


「ああ、大丈夫だ」


大丈夫ではない。でもそれを言葉にしてしまうと負けた気になってしまうから。俺はここで負けるわけにはいかない。二人を救わなくては、過去の失敗から俺を救わなくてはいけないんだ!


「ちょっと提案があるんだが」

「何だ?」

「先生のところにいってみたらどうだ?」


先生というのは柏木先生のことだろう。彼女は若い先生だが、しっかりとしていて、よく生徒の相談にも乗ってくれる優しい先生だ。8月13日の日直が柏木先生だったはずだから、学校にいるだろう。だから、相談しに行けといっているらしい。


「わかった。行ってみる」

「ああ。それがいい。新しい方向からの意見をくれるかもしれない。しかし、リープのことは言うなよ。なんかこう、やんわりと聞いてみてくれ。例えば夏祭りの脅迫状についてはどう思いますかー? とか」

「了解」


まずは行ってみなくてはいけない。


 学校に着いたのは昼過ぎ、駐車場に先生の車があるところをみると、先生は学校にまだいるのだろう。


「すみませーん」


チャイムを鳴らしながら声を出す。


「どうぞー」


中から彼女、そう柏木先生の声が聞こえてきた。扉を開けて職員室へ向かう。どうやら彼女以外に誰もいないようだ。


「ああ、一君? 何か用事?」

「はい、少し相談したいことがあるんですけど」

「そうなの? 珍しいわね」


そういいながらパソコンをスリープ状態にする。


「さて、じゃああっちに行きましょうか」


先生に案内されて、二回の相談室へと向かった。


 誰もいない学校は静かだ。その静けさを先に先生に破られた。


「で、相談ってなに?」

「ちょっと、恋愛に関係することなんですけど」

「ほー、恋愛ねー。先生もいい恋したいなー」


生徒に向かってこの先生は何を言ってるんだ? ったく、さすが柏木先生だな。


「今、好きな人がいるんですけど、なかなか声をかけられなくて、どうしたら仲良くなれますかね?」

「好きなこと仲良くなる方法? そうねー、やっぱり勇気を持つことかな。やっぱり基本が大事だね。意外と見落としやすいから」


基本が大事か。


「そうですか」

「あと、スタート、結構大事だよ。最初が肝心。まあ、もしそのスタートに失敗しても、挽回のチャンスはいっぱいあるから」


最初が肝心。


「ありがとうございます。なんだか、どうにかできそうな気がしてきました」

「そう、ならよかったわ。まあ、あなたならなんでも乗り越えれると思うから。何度でもあきらめないでね!」

「はい、了解です!」


よし、なんとなくやる気が出てきた。よし、やってみるか。よし、俺、がんばるぞ!


 家に帰り、少し考えてみる。基本が大事、最初が肝心。なんだか思いつきそうだ。この事件の基本ってなんだ? それは、加奈と五木を救うこと。いや違う。基本は『櫓の爆発から遠ざける』だったはずだ。たしかに櫓に関係の無い所でも加奈は死んでしまった。しかし、櫓の爆発自体がなければ夏祭りに行っても安全だ。じゃあ、二人の死なない世界を目指すんじゃなくて、爆発や事故が起きない世界を目指せば、自然と二人の死は回避されるのだろうか。


「うむ、いい案だと思う。だが、そう簡単にはいかなそうだな」

「というと?」

「まず、どこから手をつければいいか見当がつかない。櫓を建設したところっていったいどこだ?」

「それが、ネットで調べても何も情報が無いんだ」

「ますます怪しいな。何か裏がありそうだが…。詳しい人いないだろうか?」


詳しい人ね、俺の周りにいたっけな?




櫓について詳しそうなのは…。そうだ、健太のお父さん、十和田市のなんたらかんたらって言ってたな。もしかしたら、櫓について知っているかもしれない。それにしても結構高さがあるな、少しずつ後ろに下がっていっても見上げるくらいだ。




健太のお父さん! それだ! よし、早速健太に電話をしてアポをとってもらおう。


「もしもし、吉田一ですけど、中道健太さんのお宅ですか?」

「はい、健太ですけど、一先輩ですか?」

「うん、俺だけど、ちょっと頼みごとがあってね」

「頼みごとですか?」

「ああ。今から健太の家に行きたいんだけど」

「いいですよ!」

「それで、少しお父さんとお話がしたいんだ」

「僕のお父さんとですか?」

「ああ。すこし、許可をとってもらえるか?」

「ちょっと待ってて下さい」


電話は保留モードに変わる。メヌエットが聞こえてきた。そういえば以前も聞いたっけ。加奈に電話した時……


「大丈夫だそうです!」

「良かった。じゃあ、今から向うから待っててください、と伝えておいて」

「わかりました」


電話を切る。そして世界が変わる。俺が櫓の真実を暴く世界へと


 意識が戻ったのはすぐだった。そこから自転車をこいで健太の家に向かう。


「すみませーん。一ですけどー」


チャイムを鳴らし、声をかける。


「一先輩、どうぞー!」


中から健太が出てくる。


「お父さんの書斎はこちらです」


案内された部屋の扉はいかにもそれっぽい感じの扉で、中はかっこいい書斎って感じなんだろうという雰囲気が伝わってきた。


「失礼します」


ノックをして、扉をあける。


「こんにちは、君が一君かい?」


中には優しそうな健太のお父さんがいた。もしかしたら初めて健太のお父さんを見たかもしれない。健太とは違い、ダンディな感じの男性だった。説明は難しいけど、健太とは反対のイメージだった。


「はい」

「いつも、健太がお世話になってるね。ありがとう」

「いいえ、こちらこそ。ところで、お名前、教えていただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ、知らなかったかい? 私の名前は中道勇太郎なかみちゆうたろうだ。よろしく」

「わかりました。勇太郎さんですね? よろしくお願いします」


それから、コーヒーをすすめられ、一杯頂くことにした。コーヒーを淹れながら、勇太郎さんは話しかけてきた。


「それで、今日は健太じゃなくて私に用事があるらしいけど、何の用だい?」

「少しお伺いしたいことがありまして、夏祭りに関してですけど」

「ああ、もうすぐだしね。まあ、私の話せる範囲のことだったら話してあげられるよ」

「ありがとうございます。では、早速。あの櫓って一体どこが建設しているんですか?」

「!?」


ん? 何だこの反応。今、明らかに動揺したよな。一体なにか隠しているのか?


「それを知って、どうするつもりなんだい?」


どうするつもりか…。


「いや、普通は公表するはずなのになぜか全く情報が無い。ただ、ネットでサがつく建設会社がどう

こうという情報しか流れていなくて。それも本当かどうか不確かなので…」

「それは、答えになってないよ。私が聞いたのは『知ってどうするか』だ」

「もし、知ったら、その建設会社について調査します」


ここで嘘をついても話は進まない。下手に誤魔化してもこの人ならすぐ見抜くだろう。そう感じ、正直に話した。


「調査かい?」

「はい。ちょっと色々事情がありまして、あの櫓について知っておかなければいけないんです」

「事情とは?」


それは、言えない。俺が未来からリープしてるなんて。


「まあいいでしょう。健太といつも仲良くしてもらってるお礼としては何ですが、まあ私の言える範囲のことは教えます」


よし! 心ではガッツポーズを決め、言葉ではしっかりありがとうござますと言う。


「あの櫓、打ち上げ花火と同時にあるイベントを行う予定なんです」

「そのイベントって?」

「それは言えません」

「そうですか」

「それで、あの櫓を建設しているのはサハラ建設らしいんです」

「らしい、って確証はないんですか?」

「はい。あくまで私は広報担当なので。詳しいことは知らないのですが、サハラ建設はあまりいい噂がないようで……」

「たとえば?」

「まあ、不正な材料を使って建築したり、それで浮いたお金を政治家と半分こ。よくあるらしいですよ」

「そんな……」


税金がそう使われている、そのことに対する衝撃もあった。それより、そのせいできっと脅迫状が届き爆破された、そのことに腹が立った。


「まあ、深く追求するのはやめておいた方がいいですよ」

「ありがとうございました」

「他に何か用事はございませんか?」

「大丈夫です。ではこれで」


扉をあけ、お辞儀をしてから部屋をでる。ここにきて新たな事実が発覚した。櫓の建設には不正な行為が行われていたかもしれない。そして、それに腹をたてて爆破させた。じゃあ、次は何をするべきだろうか?そうだ、建設といえば、詳しい人がいるじゃないか。よし、明日はあそこに行こうか。




8月14日


 再び学校に来てしまった。といっても今回用事があるのは学校そのものではなく、工事現場のほうだが。そう、学校の工事を担当している丸山建設に情報をもらいにきたのだ。


「すみませーん、誰かいませんか?」


プレハブ小屋に声をかける。そのあたりに寝転がっていたおじさんがこちらへ向かってくる。


「あ! あの時の坊主!」


このおじさん……




シャーっとその坂を下りていく。その時急にクラクションが鳴った。あわててブレーキを握る。勢いよく下りていたせいで、曲がった道の車に気がつかなかったようだ。

「すみません!」

自転車を止め、車に向かって頭を下げる。

「大丈夫だったか? 今度はきをつけろよ!」

優しそうなおじさんだったため、怒られることはなかった。しかし、もし少しでも遅れていたら死んでいたかもしれない。そう考えるとぞわっと鳥肌がたった。




あのときのおじさんだったんだ。まさかこんな形で再開するなんて。


「久しぶりかな? 俺の名前は沢田彰浩さわだ あきひろだ。お前は?」

「僕は、吉田一といいます」

「んで、坊主。なんか用事か?」

「あの、少しお伺いしたいことがあるんですけど……」

「いいけど、そんな堅くなんなって。もっとこう、お父さんと話す感じでいいよ。じゃあ入って入って」

「わかりました」


進められて座布団に座る。予想と違ってプレハブの中はいいにおいだった。ああ、あそこにある芳香剤のおかげかな?


「んで、知りたいことってなんだ?」

「えーっと、十和田市の夏祭りで櫓建ててること、知っていますか?」

「ああ、あれか」


ん? なんだこの反応は。何か知っているのか?


「何か知っているんですか?」

「あ、いや何も知らないな」


嘘だ。さっきの反応からして絶対何かしってる。知っているけど話したくないんだ。一体あの櫓、そしてサハラ建設には何が隠されているんだ?


「聞きたいことってそれだけか? じゃあさっさと帰るんだな」


さっきまで俺のこと歓迎してたのに、急に俺を返そうとしてきた。絶対何か知ってるぞ。


「サハラ建設……」

「ん!? 今なんて行った!?」

「サハラ建設です。櫓の建設をしている」

「お前、それをどこで知った?」

「知り合いから聞きました。何か知っているんですか?」

「そうか、そこまで知っているのか、じゃあサハラ建設の噂も?」

「はい」

「じゃあ、なおさらだ。君が首を突っ込んでいいことじゃあない。今すぐ帰るんだ!」

「だめなんです! 俺の大切な人のためにも……」

「大切な人?」

「そうなんです。詳しく事情は言えませんが、俺の大切な人の命がかかってるんです。少しだけでも知っていること、話して下さい!」

「そうか、しかし……」


ここで引き下がるわけにはいかない! 何としても話しを聞かなくては!


「お願いします! このとおりです!」


土下座をする。これしかない。今まで俺は土下座なんてしたことが無かった。だからこそ意味がある。俺の本気を見せつけなくてはいけない。プライド? 恥? そんなもの今の俺にはない。二人を救う。それだけが頭にあったんだ。


「しかたない、本当はだめなんだが、君にだけ特別教えよう」

「ありがとうございます!」

「ただし、絶対誰にも言うんじゃないぞ」

「はい」


すると、彰浩さんは小さな声で話し始めた。


「サハラ建設が今つくってる櫓、あれに十和田湖の森の木が使われているらしいんだ」

「十和田湖の木?」

「そう。もちろん勝手にな。それで、担当の人とお金を山分けしているらしい。まあ、証拠がないけど、あいつらならしょっちゅうやってる話だ。ただ、今回は少し違う」

「何かあったんですか?」

「脅迫状だよ。あの祭りに脅迫状がきただろ? あれ、サハラ建設に対するものなんだよ」


サハラ建設に……。やはり俺の推理は間違っていなかったんだ。誰かがサハラ建設を恨んで、脅迫状を出した。でも、少しやりすぎじゃないか? たしかに、勝手に森の木を使うのは違法だ。しかし、それを脅迫状を出し、本当に爆発させるまでする必要があるのか? 何かがひっかかる。


「それって、本当にサハラ建設を憎んでる人の犯行なんですかね?」

「だろうな。それしか考えられないからな・・・」

「そう、ですよね」


やはり、俺の推理道理なのだろうか? 考えすぎだったようだ。


「ありがとうございました、では、僕はこれで」

「ちょっと待て」

「なんですか?」

「お前、これ以上この話に首突っ込むなよ」

「どうしてですか?」

「サハラ建設、ヤバいからな」


やばい? いったいどういう意味で? まさか、人殺しとかしているわけじゃないよな……。


「わかりました。肝に銘じておきます」

「わかればいいが。それにしても、ここ最近おかしなことが続いているんだよな……」

「おかしなことですか?」

「ああ。最近は、ほらお前さんを轢きそうになったあの日、俺は『校庭に変な物がある』って担当に言われて、俺がここの責任者だからあわててかけつけたってわけなんだ。でも、いったら何もなくて、一体なんだったんだろうか?」

「おかしなこと、ですか……」


一体それはなんだったんだろう? 気にはなるが、今はまずサハラ建設の件をどうにかしなくては。


「それでは、さようなら」

「おう、じゃあまたな!」


おじさんを背に、おれはプレハブ小屋を出た。


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