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「必死の物語」

 五木が死んだ。その後加奈に連絡をとったが加奈は生きていた。加奈を救うと五木が死ぬ結果になるのだろうか。それであれば、俺はいったいどうすればいいのだろうか……


「まだ、諦めるんじゃないぞ」


未来の俺が語りかけてくる。そりゃそうだ。ここであきらめたら全く持って意味がない。五木も救わなければ。


「まずは、一旦13日に戻ろう。そこから再スタートだ」


そう言われ、俺はタイムリープのアプリを立ち上げる。そして、ヘッドホンを装着する。それと同時にあの感覚、時間が戻る感覚が再びきた。




8月13日


 頭の奥に電話の音が鳴り響く。その日は電話で目が覚めた。ぼんやりとする視界の中で時計を探してみる。午前九時。また戻ってきたのだ。これでこの景色を見るのは3度目だ。電話には応答せずにまっさきにビデオチャットを立ち上げる。


「戻ったのか?」

「ああ」


戻ったのか? というのは「過去に戻ったのか?」ということだろう。普通なら理解しがたい質問だが、俺にはすんなりと意味が理解できた。


「加奈が祭りに行くと死ぬ。それを回避するために五木と行くと五木が死ぬ……。一体どうすればいいのだろうか」

「俺なりに考えてみたんだけどさ、別に二人きりで祭りに行く必要性はあるのかな?」


というのは、最初は加奈と、その次は五木と祭りに行った。そして、そのどちらとも死亡する結果となる。ならば、皆で行けばその結末は回避できるかもしれないという考えだ。まあ、俺は世界の仕組みについて詳しく知っているわけではないので、簡単な答えしか出てこないのだが……


「『二人きりで祭りに行く』という事象は変化してしまうが、まあ助かる見込みはゼロではないだろう。しかし、爆発が起きるということ自体の解決にはなっていないから、なんともいえんが」

「まあ、ものは試しというし」


ものは試し、そんな簡単に人を殺してしまっていいのだろうか。俺がしっかりと考え、過去を変えると五木は死なず、加奈は一度死ぬだけで世界は変わったかもしれない。もしかしたら、また前と同じ失敗を繰り返しているのではないだろうか、また俺は命を奪ってしまっているのではないか。そう思った。しかし、すぐにそれは違うと自分を説得した。なぜなら、今は勇気、自信を持っている。自分の行動が正しいと信じている。二人を救いたいという信念を持っている。前は周りに押され、気がついたら「殺し屋」の名がついてしまっていた。今はそんなことはない。周りになんと思われようと、俺は二人を救うんだ。二度と同じ失敗を繰り返すものか。後悔するものか!


 加奈に電話をかけなおしたのはその日の夕方だった。今回は加奈と行くのはもちろん、五木も誘って三人で行くことにした。五木には「加奈と二人っきりで行かないとだめだろ!」とかなんとか言われそうだったが、今はそんなこと気にしている場合じゃない。とにかく、あの結末を回避しなくてはいけない。


「もしもし、加奈?」

「あ、そうですけど、一君?」

「うん、あのさ、ちょっと話したいことがあるんだけどいいかな?」

「うん、いいよ」


ここで約束が成立することはもう知っている。それを知っていながらいいかな? と質問するのは少し気がひけたが、これも加奈のためなんだ。許してくれ。


「今年の夏祭り、一緒に行かない?」

「私と? 本当?」

「もちろん、ただ、五木も一緒だけどいいかな?」

「うん、もちろん! やったぁ、楽しみだな」

「俺も楽しみだよ」

「じゃあ、六時に広場に集合ね」


了解、と言おうとして少し考える。爆発に巻き込まれないようにするには早く祭り会場に行くべきだろうか。うん、それがいいや。


「いや、五時からでいいかな?」

「五時から? うん、いいよ。じゃあ五時に広場ね」

「了解!」


それで電話は終わった。そして、世界は変わる。今度は『加奈と五木と俺の三人で夏祭りに行く』という世界に……



8月14日


 気がつくと日付は変わっていた。一応未来の俺と連絡をとったが何も変化はないようだった。そこで、早速作戦の第二段階に入った。今日は五木の家に行く約束をしていたはずだ。そこで、五木に加奈と俺との三人で夏祭りに行こうと誘うことだ。一体、どのタイミングで切り出せばいいか……そうだ。あの時は


夕方になり、そろそろ帰ろうする。


「そうだ! よっしー、加奈とはどうなった?」


珍しくその話をしないと思っていたら、最後に話題になってしまった。


「一緒に行くことになった」


そうだ、夕方、家に帰るころになってその話題を五木からしてくれるはずだ。それまで待って、そこから話を持っていこう。


 五木の家に行ってからはやはり前とほとんど変化が無い。科学雑誌を発見する。ゲームで遊ぶ。そしてすぐ夕方になった。


「そうだ!よっしー、加奈とはどうなった?」


そのセリフを聞くのは三回目だ。一回目は一緒に行くことになった。二回目は五木を誘った。そして三回目。


「加奈、誘ったよ。ただ、五木も一緒に行くことになっちゃった……」

「ええ!? 二人きりじゃないと意味ないでしょ!」

「そうなんだけど……」


すまない、ただ、いまだけは許してくれ。


「まあいいや。三人で行くの?」

「うん。五時に広場って約束だから、よろしく」

「わかったよ。ただし、告白はするんだよ!」


告白、そうだ。すっかり忘れていたが、俺が告白していれば加奈が気を使って競争をしようと提案しなかった。競争をしなければ加奈は櫓に近づかなかった。櫓に近づかなければ加奈は爆発に巻き込まれなかったんだ。よし、今回は勇気を出して、告白、しよう。


「了解」

「ものわかりがよろしいようで」

「なんだよ、それ!」


さすが五木。少し変な空気になったのを一瞬でもとに戻す。ああ、俺もそんな性格だったらな。



8月15日


 いよいよこの日がやってきた。夏祭り当日、加奈か五木が死んでしまう日だった。今回こそはそれを防がなくては。五時前の四時頃から俺は祭り会場に到着していた。そして、加奈の死亡の原因ともいえる櫓のそばに行ってみる。なにも変わったところはない。そういえば、これを使ってなにかイベントをすると言っていたが、結局爆破されてしまうので何に使われるかわからずじまいだったな。櫓について詳しそうなのは……。そうだ、健太のお父さん、十和田市のなんたらかんたらって言ってたな。もしかしたら、櫓について知っているかもしれない。それにしても結構高さがあるな、少しずつ後ろに下がっていっても見上げるくらいだ。


「うわあ」

誰かとぶつかってしまった。


「おっと、すまないね」

「すみません!」


後ろを振り向き謝ろうとしたが、その男の姿はもう遠くへ行ってしまった。ん? あの男、どこかで見たことがあるような……


 五時になる。鐘は『ふるさと』を演奏していた。六時からは祭りのために鐘を止めていたので久しぶりに聞いたような気がする。実際にはそんなに時間が経っていないはずなのだが、俺は数回三日間を繰り返している。だから、そのへんの人より数日長く生きていることになる。そう考えるとなんだかおかしくなってきた。そして、あることに気がついた。あれ? 俺にとっては何度も三日間を繰り返しているけれど、周りの皆はそれに気がつかない、というか俺の三日間は無かったことになっている。無いことになるんだ。この三日間は。なら、何してもいいんじゃないのか? っと、何を考えているんだ? 俺は。まさか、そんなことするわけないよな、この俺が……


「よっしー! おまたせー」


ふと顔をあげると五木が駆け寄ってきた。もう五時になったのか、時間は早いな。よし、ここからが

俺の腕のみせどころとなるな。どうやって二人を爆発と事故から遠ざけるか、そこが一番の問題だ。それさえ回避すれば後はどうにかなるだろう。


「一君! 五木君! まったー?」


今度は加奈がやってくる。とうとう三人がそろった。時刻は五時十三分。


「じゃあ、早速屋台見てまわろっか」

「わたしね、綿あめが食べたいからあっちから回りましょ?」


加奈の指さす方向には綿あめの屋台とともにあの櫓があった。加奈の死の原因となるあいつが。しかし、今は爆発する時刻ではないから安全なはずだ。さらに未来の俺によると……




「それと、世界を書き換えるうちに気がつくと思うが、世界が書き変わった後の世界、これは大幅に変わるものではないんだ」

「どういうことだ?」

「んー、実際に法則やルールがないから何とも言えないんだが、ある程度似た世界に書き換えられる。親殺しのタイムパラドックスで言えば、もし子が親を殺したら『親がその時刻に殺される』という事象は変化せず、死因やその状況が変化する」

「じゃあ、タイムパラドックスというのは……?」

「ない」


断言された。タイムパラドックスは無い。まあ、あっても困るのだが。




つまり、今の状況だと『加奈が櫓の近くに行く』という事象を変えずに『加奈が爆発に巻き込まれる』という事象を変えるということだ。どちらの事象も変えてしまうと五木の死につながる可能性、又は新たな死の可能性があるからだ。


「そうだね、じゃああそこから一周、ぐるりと回ろう」


俺の提案に皆は賛成し、早速屋台を順番に見て回った。


 八時となった。加奈が爆発に巻き込まれるのは九時。つまりあと一時間ある。さっさとこの祭り会場から居なくなった方が安全なのだが、今はそういうわけにはいかない状況になっていた。健太たち率いる陸上部のメンバーに会い、更に担任の柏木かしわぎ先生に会い、そこからゆっくりまったりとおしゃべりを始めてしまっていた。


「でさ、あの時なんて言ったと思う?」

「先生! あれ買ってよー」

「俺、これもらったんだよ」


人数が多くて誰が何の話をしているのかさっぱりだ。しかも、俺は大人数で行動するのがあまり好きでない。だから、五木と加奈と俺という極力少ない人数で夏祭りに来たんだがだめだったようだ。そっと集団から外れたところに五木といく。皆が話終わるまでここで待ってようか。


「ねえ、よっしー」

「なんだ?」

「よっしー、何かあったの?」


唐突に聞かれた。このトーンは真面目なトーンだ。いつもふざけているときとは違う。まてよ、このシーンは……


「なあ、よっしー、何かあったの?」


唐突に聞かれた。このトーンは真面目なトーンだ。いつもふざけているときとは違う。俺はあの時も聞いたことがあるトーンだ。


「いや、何にもないよ。どうかした?」

「様子変だから。まあ、何もないんだったらいいけど……ま、無理すんなよ!」


そうだ、前回もこう言われたんだ。


「ちょっと疲れててさ」


少し回答を変えてみる、まあこれくらいで世界が変わるとは思えないが。


「やっぱり? 最近様子変だったからさ。……ま、無理すんなよ!」


案の定変化はない。


「よし、じゃあ先生が綿あめおごってあげる。ただし、一番早く着いた人だけねー」


そう言って皆人通りの少ない方の道に移動する。中心部は人が多いが端っこのほうは人が少なく、まあ走っても迷惑にならないだろう。ん? 走る? ちょっと、まてよ……


「スタート!」


皆が一斉にダッシュする。待て! それはだめなんだ! 体が自然と走り出す。


「お! よっしー、がんばれー」


五木! なに悠長なこと言ってんだよ! くそ!


「加奈! とまれ! 加奈!」


叫んでみるがちょうど太鼓にかき消されてしまう。どうすればいいんだ? これじゃあまた同じじゃないか……


「やったー! 一等賞!」


その声を聞いた瞬間だった。一瞬で加奈を煙と日が包み込んだ。冗談だろ……


「加奈! 大丈夫か、返事をしろ!」


するわけがない。だって死んでいるのだから。それはわかってた、でも信じたくなかった。しかし、そこで悲劇の連鎖は止まらなかった。


「うわああああああああ」


皆が叫び声をあげて四方八方に逃げていく。五木もその中にいた。このシーンも見たことがある。



「なんか、皆逃げてるから、よっしーも逃げよう!」


腕をぐいと引っ張られる。お、ちょっと、うわ。バランスを崩しそうになるがどうにか走りだす。人ごみの中をかき分けて走っていたが、五木が急に方向を変える。


「こっちのほうが人、少ないよ」


五木は俺より足が速いので追いかけるのがやっとだった。


「こっちこっち、速く!」


デジャブというのだろうか、以前も似たような体験をしたことがある。これはまさか……


「おい、五木待てって!」


五木は走って十字路に向かう、次の瞬間、右から来た車にぶつかり、五木は高く飛ばされた。


「五木、待て!」


しかし、周りにかき消されてしまう。どうにか追いかけるので精いっぱいだった。


「よっしー! こっちこっち、速く!」


くそ、このままじゃ同じじゃんかよ! 俺の馬鹿!!


「おい、五木待てって!」


五木は走って十字路に向かう、次の瞬間、右から来た車にぶつかり、五木は高く飛ばされた。


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