表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/29

「繰り返される物語」

 まもなくして、加奈は救急車で運ばれ死亡が確認された。あの爆発に巻き込まれたら、生き残れる確率のほうが低いだろう。加奈の死は悲しかったが、不思議と涙は出てこなかった。それよりも、自分の情けなさに腹が立って、悔しくなって。時間、巻き戻せたらって思った。もし、あそこで俺が告白さえしていれば加奈の運命は変わったのにと思った。結局また俺は殺してしまったんだ。自分の意思を伝えられずに。そのとき、鞄に入れているゲームが振動した。俺のゲーム機は振動はするが、電源を切っていたはず。不思議に思い鞄からゲームを取り出す。どうやら、ビデオチャットに連絡が来ているようだ。五木だろうか? とにかく、病院の中で話すのはまずいので、いったん外に出てイヤホンをして公衆トイレで話をすることにした。


「もしもし?」


その直後、キーンという音が頭に響く。脳が揺れるような音。


「何だ!!」


たまらず声をあげてしまう。


「誰だ! いたずらのつもりか!?」

「すまない、驚かせてしまったね」


男性、30代くらいだろうか。姿は見えず汚い部屋、まるで研究室のような場所の一角を映し続けている。


「加奈が死んでしまった。そうだね?」


なんだこの男は? それよりなんで加奈の死を知っているんだ? たった今起きた出来事なのに……


「お前は誰だ!」


いたずらにしては少しおかしい。


「おっと、申し遅れたね。私、いや俺の名前は吉田一。よろしく」


吉田一? それは俺の名前だ。


「そうか、それで俺になんの用だ?」


吉田一という人物はいったい何の用事があっておれにビデオチャットをかけてきたのだろうか。いや

まて、ビデオチャットは相手と番号を交換しないと連絡をとることができない。おれは吉田一という30代の男性と番号を交換した覚えはないぞ。じゃあ、一体『吉田一』って誰なんだ?


「いや、用事の前に、なんで俺の番号を知っている?」

「その質問に答えるのは後だ。今は時間がない。急がなくていけないから」


急ぐ? 何をだ?


「一、お前は加奈を救いたいか?」


加奈を救いたい? そんなことできるなら、この命かけてでもやるよ。できるならね。


「そりゃあ救いたいけど、それがどうした?」

「そうか。じゃあ、さっそくタイムリープをしてくれ」


話が突拍子すぎてついていけない。急に同姓同名の人物からビデオチャットがきたかと思ったらタイムリープしろ。一体なんなんだ?


「なんの冗談だ!」

「冗談じゃない」


その言葉にはすこし怒りが感じられた。


「さっそくアプリケーションを入れさせてもらう」


入れさせてもらう? その言葉の意味が理解できないうちに、俺のゲーム機は何かのアプリを勝手にダウンロードし始めた。


「お、おいちょっと! なに勝手にダウンロードしてるんだよ! お前か? お前何かしたのか?」

「八月三日 PCの占いで『冷静沈着。でも、感情的になりやすい』という結果が出る。八月十一日 美咲のキーホルダーを拾う。八月十三日 加奈に夏祭りに誘われる。 八月十四日 五木と遊ぶ。そしてお前にとっての今日、加奈と夏祭りに来る。そして告白しようとするができず、加奈と競争をして櫓付近で爆破が起こり加奈が死亡。そうだな?」

「な!?」


こいつは何を言いたいんだ? 確かにこれは俺が経験してきたことだ。だけど、これだけの出来事をぴたりと言い当てれるわけがない。さらに、『告白しようとする』なんて俺の心の中のことだ。こいつは一体、誰なんだ? いや、おおむね予想はついている。タイムリープのアプリ、俺と同姓同名、俺の経験したことを知っている。そのことから導かれる結論は……


「お前は、俺なのか?」

「おお、気づいたか。そう。俺は未来のお前だ」


といっても、信じられるわけがない。ますます怪しい。本当に未来の俺なのか? それを確定できるほうほうはあるのか? そんないくつもの疑問は、彼のつぎの発言によって打ち消された。


「加奈のこと、好きなんだろ? また、ウサギの時みたいな失敗を繰り返すのか? 今回は防ぐチャンスがあるんだ。回避できるんだ! たのむ、信じてくれ」


ウサギの時の失敗。それは俺の近所の人ならみんな知っていることだ。その言葉で彼を信用したわけ

じゃない。ただ、その声に信念が感じられた。彼が未来の俺でなくても、加奈を救いたいという気持ちが伝わってきた。どうせ、この後加奈が死んで後悔していくなら、やってみる価値はあるかもしれない、そう思った。


「わかった。やるよ」

「ありがとう!」


それは、心からのありがとうだった。そんなありがとうは聞いたことがなかった。


 それから、タイムリープの仕方の解説を受けた。どうやら、このタイムリープのアプリでは、2015年8月15日から2015年8月13日までのリープができるらしい。逆にいうとその時から時以外のリープは不可能なのだ。だから、加奈を救えなかったら再び8月13日にリープする必要がある。もし、その日付を越してしまうとタイムリープはできない。そして、タイムリープの仕方は、アプリを立ち上げてからタイムリープのボタンを押すだけ。ただし、そのアプリを使用するときは必ずヘッドホンかイヤホンをつけなくてはいけない。なるべくヘッドホンのほうがいいらしいが。今回はあいにくイヤホンしか持ち合わせていないので、イヤホンを使用することにした。


「それと、過去に行ったらここにビデオチャットをかけろ」


そういって、俺のビデオチャットのアプリにかってに連絡先を追加した。名前は未来。そのまますぎて、シンプルなものが好きな俺でさえ、もう少しひねれなかったのかと思う。


「了解」

「それじゃあ、健闘を祈る」


その言葉を最後にビデオチャットは切れた。さっそく時計のマークのアプリを立ち上げる。中身はシンプルで現在時刻とボタンがあるだけ。イヤホンをプラグに差し込み、深呼吸をする。生まれて初めての時間跳躍ってどんな感じだろう? いや、生まれて初めてというより人類初めてかな? まあ、もしかしたら誰か先に時間跳躍してる人がいるかもしれないから人生初めてにしておこう。そんなことを考える余裕があった。いや、そんなことを考えていないと不安で仕方がなかったんだ。一瞬ボタンを押す手が動かなくなる。前に進まなくなる。加奈を救うんだろ? 自分に問いかける。そして、ようやくボタンを押す。それと同時に、景色が歪んで、吸い込まれるような感じになって、ぐらぐらっとして、最後には何もなくなった。




8月13日


 頭の奥に電話の音が鳴り響く。その日は電話で目が覚めた。ぼんやりとする視界の中で時計を探してみる。午前九時。休みの日はいつもこれくらいに起きている。俺はどっちかというとインドアタイプだから、休みの日も遅くまで寝てごろごろと過ごすことが多い。よく、「休み無駄にした感じ」というのがあるが、ごろごろすることが休みの目的なのではと疑問に思う。時計の次に電話を探す。そして、受話器を取り上げ、ぼーっとしたまま電話に出る。ちょっと待て、これって? 急いで下に降りる。


「母さん! 今日って何日?」

「今日? そうねー、13日だよ」


13日。今日は13日。さっきまでは15日だったはず。まさか、本当にタイムリープが? そこでふとあの事を思い出す。『それと、過去に行ったらここにビデオチャットをかけろ』それを実行するため、ゲーム機を立ち上げる。そこには、しっかりとタイムリープのアプリと「未来」の連絡先が追加されたビデオチャットのアプリがあった。


「もしもし、もしもし」


早速未来にビデオチャットをかけてみる。すぐにあの男が反応した。


「おお! 成功したのか!」

「ああ、お前の言ったことは正しかったよ」


たしかに時間は巻き戻った。タイムリープは成功したんだ。


「そうか、実のところ、そのアプリは実験でしか成功していなく、実用的な例はお前が初めてだったんだ」


そんな危険なことを俺にさせたのか。少し嫌な気になるが、今はそんなことは考えていられない。タイムリミットはあと三日なんだ。一秒たりとも無駄にはできない。


「では、早速計画をたてる、といきたいがまずはタイムリープの説明をしなくてはいけない」


タイムリープの説明。タイムリープについてはある程度の知識はあるが、詳しくは知らないし、その知識もあくまでもしもの話だ。さらに、どうやったら未来が変わるか、というか未来を変えても大丈夫なのかは全くわからない。


「少し長くなるぞ……」


 まずはタイムリープの制約についてのおさらいから始まった。俺は「アプリケーション」を使用し「2015年8月15日」から「2015年8月13日」のリープしかできない。また、俺以外の人物のリープは不可能。これについてはリープの仕方のせいだという。俺のリープのしかたは記憶を過去に飛ばすという方法だ。簡単に言うとシュタインズ・ゲートのように、俺の記憶をデータ化、その後ゲーム機から俺の脳へデータを送る。そんな感じだ。そのため、リープ後に頭痛、めまいが起こる場合があるらしい。


 次に未来を変えることについて説明された。まず、過去の動きを変えると未来が変わる。しかし、人間には自然と元の世界に戻そうとする力があるらしく、例えば俺が未来を変えるために机から林檎をとって床に置く。それを母さんが見つけて無意識に拾って机に置く。これでは未来が変わっていないといえる。また、林檎が数分あるかないかで世界が変わる程の影響はない。だから、変えるべきなのはその出来事の原因だという。因果律だ。俺が今変えるべきなのは「加奈が死ぬ」という結果。はたしてその原因は何なのか、というのを考えなくてはならない。そして、最後に未来の俺がなぜ自分自身の手で加奈をすくわないのかという話をきかされた。


「俺は、ある事件に巻き込まれて足を失ってしまったんだ」


足を?理解しがたい事実だった。だって、未来で俺は足をなくしてしまうのだから。今はしっかりとつながっているこの足が、いつかなくなってしまうのだから。


「だから、体力的にタイムリープが不可能だったんだ」

「そんな……足をどうしても失わなければいけなかったのか!?」

「ああ。だって、この世界も加奈を救うために必要だから」


言っている意味がわからない。俺の足がなくなることと加奈の死がどう関係するんだよ!


「まあ、俺がどうして足を失ったか気になるだろうが、お前がしっかりと未来を変えることができたら、それもなかったことになる。大丈夫だろ? 俺はお前を信じているからな」


一体何を根拠に俺は信じられているのかわからなかった。それでも、どうにか未来を変えなくてはいけない、そう思った。


「俺はタイムリープできないが、ある人物が未来からお前の時代に来ているはずだ。そいつを頼ってくれるといい」


ある人物?


「それっていったい誰なんだ!? 俺の知ってる人か!?」

「ああ。身近な人だよ。ただ、今はどこにいるかわからないんだ」

「そうか……」


いったい誰が俺を手伝いにきてくれているのだろうか。気になったが、未来の俺は教えてくれなかった。どうせわかることなんだし、教えてくれたっていい気がするのに。


「それと、世界を書き換えるうちに気がつくと思うが、世界が書き変わった後の世界、これは大幅に


変わるものではないんだ」


「どういうことだ?」

「んー、実際に法則やルールがないから何とも言えないんだが、ある程度似た世界に書き換えられる。親殺しのタイムパラドックスで言えば、もし子が親を殺したら『親がその時刻に殺される』という事象は変化せず、死因やその状況が変化する」

「じゃあ、タイムパラドックスというのは?」

「ない」


断言された。タイムパラドックスは無い。まあ、あっても困るのだが。


 この話から、まずは加奈の死の原因を探ることとなった。たしか、加奈は櫓付近での爆発に巻き込まれて死亡。ということはまず爆発の原因を探ればいいのか。爆発を防げば自然と加奈の死も回避できるはずだ。では爆発の原因はなんだろうか……


「はじめー、ご飯食べないのー?」


考えていると、母に呼ばれる。そうだ、8月13日、俺は朝電話で起こされて、イチゴジャムをパンに塗って食べたんだったけ。といっても、それを変えたところで世界が変わるとは思えないが……

 下に降りる。そのあと前とは違い、ご飯を茶碗に盛る。しかし、世界が変わる気配はしない。俺の予想通りか。それからご飯を口に運びながらテレビを見る。テレビからは淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。いつものことのなので聞き流そうとしていたが、画面にテロップが出て思わず声が出た。


「夏祭りに、脅迫状?」


脅迫状、そういえばそんなのあったっけ。ん?まてよ、その内容は確か……


今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。いつものことのなので聞き流そうとしていたが、画面にテロップが出て思わず声が出た。


「夏祭りに、脅迫状?」


どうやら、『十和田市の夏祭りを開催させると、会場を爆破させる』といった内容の脅迫状が届いたらしい。


「いやね。最近物騒なニュースばかり」


そうだ、会場を爆破させるという内容だ! あの脅迫状は本物だったんだ!じゃあ、一体脅迫状の差出人は誰だ? なんて、わかるわけない。まずは、脅迫状のことを俺に報告しなくては。

 さっそく未来の俺に脅迫状の話をしたが、犯人に心当たりはないという。せっかく一歩近づけたのにダメなのか?


「まだお前の物語は始まったばかりだろ」


未来の俺にそう言われた。俺の物語、それはきっとこれから始まるであろう、世界で一番長くてつらい三日間のことだろう。まだ、始まったばかり。そうだ、まずはやってみなくてはいけない。加奈を爆発する櫓から遠ざければ救えるかもしれない。単純な答えだったが、やってみなくてはわからない。それが未来というものだ。


「そうか、じゃあどうやって遠ざけるかだな」

「そこが問題なんだ。ただ遠ざけても無意識のうちに世界が戻され同じ結果になるんだろ? だから、祭りに行かなければいいんじゃないかと思って」


作戦は単純だ。加奈と祭りに行く約束を取り消し、五木と祭りに行く。それだけだ。


「そうか、あの優しい加奈のことだから五木と行くと言ったら素直に引き下がってくれるだろうな。いいんじゃないかな?」


しかし、ここで大きな問題が発生した。この世界でまだ俺と加奈は祭りに行く約束をしていなかった。まあ、待っていれば又電話がかかってくるだろう、そう思ってすぐ、電話はかかってきた。


「もしもし?」

「もしもし。上原加奈ですけど、吉田一さんのお宅ですか?」


加奈、その声の主は紛れもなく加奈だった。


「はい、一です」


加奈がそこにいるということが嬉しくて涙が出てきそうになるが、どうにかこらえる。


「あ、一君? えーっと、少しいいかな?」

「何? なにか用事?」


加奈の用事とは約束のことだろう。 胸の鼓動が速くなる。ふーっと息を吐きたかったが、加奈に聞こえるとあれなので我慢した。


「夏祭り、一緒に行かない?」


きた。覚悟を決める。本当は一緒に行きたい。でも、それは無理だ。すまない。加奈のためだ。


「ごめん、五木と行く約束だったんだ」

「あ、そうなの? ごめん」


えーっと、なんて返事すればいいんだ?


「あ、えと、いいよ。こっちこそごめん。今度じゃあ、その代わり今度機会があったら一緒に遊びに行こう!」


今度、それはいつになるだろうか……


「そっかー、じゃあ五木君と楽しんでね!」


電話は切れる。それと同時に変な感覚になる。これが夢のような現実のようなふわふわとした感覚に襲われる。そして、意識はなくなる。

 気がつくと俺はベッドに横たわっていた。世界が書き換えられたのか?時計に目をやる。既に夜の11時になっていた。このまま寝てしまおうかと思ったが、一旦ゲーム機を立ち上げ、ビデオチャットを未来にかけてみる。


「世界が変わった。お前、わかったか?」

「ああ、そうだな」

「よかった……」


そこで説明されたが、通常の人間には世界の書き換えを観測する能力はない。そこで、独自の技術で特殊な超音波を開発、俺が初めてビデオチャットにキーンと音が響いたのはそのためだという。


「でも、お前が俺とやりとりしてるということは、この世界で加奈は救われないんじゃ」

「それは違うな。世界が書き換えられたのを観測するのは俺も同じ。だから、この世界で過去に起きたことを俺は知らない。お前が世界を変えた時間から俺が存在する時間までの空白があるんだ」

「そうか、じゃあお前がタイムマシン開発をしているからといって加奈が救われていないわけではないと」

「最初に言っただろ、ある程度似た世界に書き換えられると。だから前の世界でタイムマシンの開発をした俺は世界が変わってもタイムマシンの開発をしているんだ」


なるほど、似た世界とはそういうことか。タイムマシンを開発する理由・目的が違っても『タイムマシンを開発する』という事象は変化しない。そういうことだろう。


「まずは作戦の第一段階は終了だ。次は五木と約束をしなくてはいけないな」

「そうだな」


いくら加奈を救うためとはいえ、加奈と約束をしないため、俺は『五木と祭りにいく約束をしている』という嘘をついた。さすがにこれで五木と祭りに言ってなければ加奈がかわいそうだから五木と約束をしよう、そう考えたのだ。


「たしか、8月14日は五木の家に遊びに行くな、その時約束してくればいい」

「了解」


その日はそれで寝ることにした。



8月14日


 五木の家に来て、ゲームをして……までは前と全く同じだった。違うのは加奈とどうなったかの話題に入ってからだ。


「そうだ! よっしー、加奈とはどうなった?」

「それなんだけど……」


言い訳に困った。ただ、下手に嘘をつくより正直に言った方がいいと思った。


「いろいろあって加奈とはいかないんだ。だから、五木一緒に行こう?」


少し間が空く。しかし、五木は何かを感じたようだった。


「おう、じゃあ六時に広場に集合な!」

「了解」


そのあと少し話、俺は家に帰った。

 その夜、俺は眠れなかった。もしかしたら明日加奈が死ぬかもしれない。そう思うと気分が悪くなってくる。そして、鮮明に思い出される。辺りは真っ黒になり、焦げ臭いにおいが漂う。そこにはもともと人だったとは思えないようなものがある。だめだ、それは過去のことなんだ。今はそれを変えるために頑張ってるんだ。ここでくじけそうになってどうするんだ!



8月15日


 広場には約束の六時少し前に到着した。五木は既にそこにいた。


「よっしー! さっそく屋台見て回るか? 」

「そうだね」


俺と五木はぶらぶらと屋台を見て、祭り会場をぐるりと一周した。特にこれといったこともなく、元の広場に戻ってきた。


「いやー、毎年あそこのタコ焼き食べてるけど、やっぱおいしーな」

「うん、なんかほかの屋台のとは違うよね」

「はー、家でもこのタコ焼き食えたらなー」


適当に会話を続ける。そろそろあの時刻がやってくる。時計をちらちらと見る。


「なあ、よっしー、何かあったの?」


唐突に聞かれた。このトーンは真面目なトーンだ。いつもふざけているときとは違う。俺はあの時も聞いたことがあるトーンだ。


「いや、何にもないよ。どうかした?」

「様子変だから。まあ、何もないんだったらいいけど……ま、無理すんなよ!」


最後は明るい声だった。やはり、長い間一緒にいると気がつくのかな……でも、ここでタイムリープのことを話したって何にもならない。これは俺自身の戦いなんだ。加奈を救うため、そして過去の失敗の償いのための。


 それ以降はどうでもいいような会話をつづけていた。そして、あの時刻がやってくる。遠くで聞こえる爆発音。悲鳴。俺は爆発に巻き込まれないようあらかじめ櫓から遠いこの広場で話をしていたので被害はない。


「ん? なんだ、なにかあったのかな?」

「爆発した音っぽかったよ」


ぽかったよ、じゃなくて爆発した音だ。


「なんか、皆逃げてるから、よっしーも逃げよう!」


腕をぐいと引っ張られる。お、ちょっと、うわ。バランスを崩しそうになるがどうにか走りだす。人ごみの中をかき分けて走っていたが、五木が急に方向を変える。


「こっちのほうが人、少ないよ」


五木は俺より足が速いので追いかけるのがやっとだった。


「こっちこっち、速く!」


デジャブというのだろうか、以前も似たような体験をしたことがある。これはまさか……


「おい、五木待てって!」


五木は走って十字路に向かう、次の瞬間、右から来た車にぶつかり、五木は高く飛ばされた。


「おい、五木! おい!」


急いでかけよる。しかし、そこにいたのは、首があり得ない角度に曲がった五木だった。きっと加奈は救われただろう。しかし、今度は五木が死んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ