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「再び始まる物語たち」

 タイムマシンに置きっぱなしだった例の筒を取り出し、さっきの指示通りに操作をする。そして、おでこに筒の底を当てた。


「クッ……!?」


頭に衝撃が走る。激しい頭痛のようなものがして、くらくらとする。だんだんと瞼が重くなり、視界は闇へとつつまれた。これで、一日前に戻ることができるのだろうか?




 どうやら、夢を見ているようだ。過去に戻るまでの間、僕はまだ目が覚めていないのだろうか。なんだか良く分からない空間にきてしまった。


「君が、中道健太か?」

「誰、ですか?」


見知らぬ男の子に声をかけられる。


「俺が誰かなんてどうでもいい。それより、これだけ伝えたい」


その子は僕の目をじっと見つめてきた。一体なんなんだ……?


「このミッションには多く犠牲があった。そして、その数だけの思いがつまっている。全てが繋がっているんだ。だから、決して、失敗するんじゃない。ミッション成功のカギはただ一つ、お前がどれだけ皆を救いたいかにかかっている」


僕がどれだけ皆を救いたいか……? そりゃあ、この命と引き換えにでも救いたい。いや、救うんだ!


「ああ、分かった。ぜったいやってやる!」

「その息だ! じゃあ、俺はこれで」

「待って!」


なんだか、大事な人のような気がする。そんな感じが直感的にした。だから、せめて名前だけでもって。


「名前、教えてくれるかな?」

「俺の名前か? まあ、名前なんてもの無いんだけど……、怜央だ」


怜央……。


「じゃあ、健闘を祈る」

「了解」


結局彼が誰なのかはさっぱりわからない。けれども、大事なことをしっかりと確認できた。そう、僕は絶対皆を救うんだ!




 目が覚めると、さっきの場所に僕は立っていた。どうやら、一日だけ過去に戻ったようだ。


「よし、じゃあ始めるか……」


さっそく僕は小学校へと向かった。今はまだ10時。時間には少し余裕があるため、最後に一先輩の顔を見ようと思った。陰から窓をのぞくと、一先輩は授業を熱心に受けていた。まだ、この時はあの一先輩のはずだ・・。だから、僕の知っている一先輩じゃなくて、過去の一先輩を今、取り戻しにいくんだ。そう、覚悟を決める。よし、僕はやるんだ……。


 小学校から少し歩いて、少し坂を上る道まで来た。小学校へ来るのならば、きっとこの道を通るだろう。今は10時20分。まだだ。以前、美咲先輩を救ったことや、一先輩の自殺を阻止したことを思い出す。その時に比べて今回は緊張をしていない。慣れたのだろうか……。それとも、これで終わりだからだろうか……。そんなこと考えても答えが出るわけではない。まあ、もとから答えなんて求めていないのだから。


「さて、そろそろ時間か……」


いよいよこの時がきた。向こうからは給食センターのトラックが走ってくる。少しずつ近づいてくる。今だ! 歩道から車道へと飛び出す。


「うわああ!」


トラックのなかから運転手の叫び声が聞こえた。トラックはブレーキでは止まり切らず、僕をよけようとハンドルを切ったせいで、僕はトラックに撥ねられ、トラックは田んぼへと突っ込んだ。これが、僕の答えだった……。


 その場には確かな時間が流れていた。僕がこれからこの傷を我慢しながらタイムマシンまで帰れれば、この時間から僕はいなくなるので『トラックが事故を起こして給食を届けられなかった』という世界に変動するだろう。単純なことかも知れないし、そう上手くいくかわからない。けれども、じゃがいもそのものが学校へなければ、ウサギの死因がどうであれ、『一先輩がじゃがいも取り出そうとしてバックをウサギ小屋の中におき、取り出すときに鍵をかけ忘れる』という事象は免れる。つまり、一先輩が責任を感じ、誰かを巻き込んでしまう世界を防ぐことができるのだ。じゃがいもは田んぼにつっこんでしまったため、きっと学校へは届かないだろう。


「クソッ……!」


足に力が入らない。見ると、右足からは血が出て、骨が少しずれていることが青く腫れていることから分かった。頭も痛いし、左の手は骨が折れてしまっているだろう。トラックがいくらハンドルを切ったとはいえ、思い切り当たってしまったから、この程度の怪我で済んだのが逆に幸運かもしれない。


「こんな、ところで、終わらない……」


そうだ。僕はこんなところで終わる訳にはいかないんだ。かろうじてい動く左足を懸命に動かし、どうにか立ちあがった。息が荒くなる。そして、遠くからサイレンの音が聞こえてきた。もしかしたら、この事故を誰かが目撃しているのかもしれない。まあ、世界が変わったらその人が観測したことも変わるため問題ないが、今ここで救急車などがきたら間違いなく搬送される。でも、そんなことしている場合じゃないんだ。急げ、僕! 痛い、体中が痛い。でも、皆の思いの方がきっともっと辛いだろう。何度も死んだ一先輩や五木先輩、美咲先輩や加奈先輩のほうがもっと痛かっただろう。だから、僕は行くしかないんだ……!


 どうにか廃ビルまでたどり着いた。ここならそうそう人に見つかることはないだろう。ああ、疲れたのか少し眠くなってきた……。これで、世界は変わるはずだ。皆が幸せになれる、そんな世界へと……。




8月30日


「美咲、俺、美咲のことが好きなんだ」

「ほんと? 嬉しい! 私も前から好きだったんだ!」

「マジで!? ってことは、両想い!?」

「そうだよ! やった!」


こんなに嬉しいことはないだろう。でも、何かが抜けている気がする。


「でも、一君、私じゃないと思うの」

「どういうこと?」

「きっと、一君を待っている人がいるはずだよ。私じゃない、誰かが……」


たしかに俺もそんな気がしていた。でも、一体誰が待っているんだ……?


「誰かが、待っている……」

「うん。その人のことを一番大切にしてあげてよ。きっと、私にもそういう人がいるきがするの」


なんだか、やっぱり何か忘れている気がする。


「なあ、美咲、何か抜けてないか?」

「何か?」

「ああ。大事なこと」

「大事なこと……」


どうやらその表情から美咲もそう感じていたらしい。


「でも、忘れたってことは大したことないか、それとも覚えていない方がいいことなんだよ」

「かもな」


それが俺の初めての告白だった。




8月15日


 今日は五木と美咲、加奈と健太と、そして俺の五人で夏祭りにきている。


「先輩! 次はあっちに行きましょう!」

「ちょっと、待てって……」


あわてて加奈の手を引く。


「加奈も行こう!」

「うん!」


加奈の出会ったとき、これだと感じた。何がどうなのか俺にも良く分からないけど、運命ってやつかな? 美咲に告白したときと同じような感覚になった。

 今は、俺と加奈、美咲と五木が両想いだってことを健太は知っている。学校ではやし立てられるのが嫌だから皆には秘密でいるのだけれど……。まあ、ばれたらその時だろう。


「美咲、何食べたい?」

「私、あっち見てみたいな」


二人とも手をつないじゃって……。


「加奈! 俺たちもつなごうぜ!」

「え、やちょと! 恥ずかしいよ……」


顔を赤らめる加奈の手を勝手に握る。


「よし、じゃあ出発だ!」


五木が皆に声をかける。


「健太、ちょっといいか?」


俺は握った加奈の手を離し、健太へ近づく。


「ありがと」


それだけ、健太に伝えたかった。なんだろうか、この気持ち。良くわかんないけど、そうしないといけない気がして……。


「いいえ、なによりです」


何がなによりなのか分からない。まあ、知らなくてもいいか……。これだけ、今幸せだって思えるんだから……。


どんな物語にも結末がある。それは普段見ているテレビでも、本でも言えることだし、人間の人生にだって結末がある。国にもある物語があり、この世界にもある。そして、いつかは結末を迎える。それがどんなに残酷であろうとも…。しかし、もし物語の結末に背く者がいたら、どうなるのだろうか。まっているのは残酷な結末より残酷な結末だろうか。それとも、終わりのない終わりこそが残酷な結末だろうか……。そして、それを乗り越えた先には、確かな幸せが待っているのだろう。

人を愛する力は何も止めることはできない。そして、その力こそが世界を救い、皆を幸せへと導くだろう。


これは、田舎の中学校で起きた、もしかしたら、今君たちにも起こりうる、そんな物語だ……。


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