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「皆の物語」

3月13日


 元の時間に戻ってきた。何も変わらない、何も変化が無い、世界に……。


「だめ、だったのか……。まあ、今度は別の方法で……」

「無理だよ……」

「どうした?」

「無理なんだよ……。世界は必ず一先輩が死ぬようになっているんだ……」

「おい! さっきまでと言ってることが違うじゃないか! タイムトラベルする前は絶対救うって張り切ってたのに!」

「僕のせいだったんです……」

「どういうことだ?」

「あの日、一先輩は学校の工事の現場責任者に轢かれたんです。彼、『校庭に変な物がある』って呼び出されたんです……」

「変な物って、まさか!?」

「タイムマシンですよ……」

「じゃあ、あれだ、校庭じゃないところに転送すればいいんじゃないのか?」

そう思いたい。でも、だめだ……。

「一度戻ってしまったんですよ?」

「どういうことだ?」

「五木先輩自身が体験したじゃないですか。何度やっても結果は変えられないって。その原因が僕自身なら、変えるのは不可能ですよ……」

「そんな、でもなにかの方法があるはずだ!」

「そんなものはじめからなかったんですよ!!」


救いたい。でも、過去に戻ったところで結局一先輩は死んでしまう。僕が過去に戻ることが原因、そして結果が一先輩の死。この因果律は絶対に変えられない。ぐるぐると繰り返されるんだ。原因が結果。結果が原因なんだ。救おうとすることじたいが原因。そう、この世界には誰も手出しはできないんだ……。


「やっぱり、ゲームとかアニメとかそんなのウソだったんだよ。あんなうまく話がまとまる訳がないんだ……」


五木先輩は黙ったままうつむいている。


「あ、諦めちゃだめ、だ……」


僕を説得しようとしているが、五木先輩自身も半分諦めかけているのだろう。


「すみません、少し疲れたので家に帰りますね」


僕はそれだけいって、家のベッドの中に入り。ずっと天井を眺めていた……。



 それから丸一日くらいがたった。


「お邪魔します!」

「なんですか……?」


あれから誰とも会話していない僕に、いきなり彼女は話かけてきた。


「五木君から話は聞いたよ」


加奈先輩だ。それに美咲先輩、和仁さんもいる。


「一人で抱え込んじゃだめだよ……」


加奈先輩は目に涙を浮かべている。それもそのはず、彼女が好きな人、両想いの人のことだから。絶対救ってあげたいのだろう。


「抱え込んでいるわけじゃないです……」

「諦めちゃだめだよ! だって、そうだ。陸上だって同じでしょ! いい結果が出ないときもある。でも、続ければいつかは……」

「そういう話じゃないんですよ!!」


自然と怒鳴っていた。


「努力すればいい? 失敗してもくじけるな? 諦めるな? そういう問題じゃないんだよ!! どうにもならない問題だってあるんだよ!! 自分の力じゃ、解決できない問題だって……。加奈さん達には分からないかもしれない! でも、そういう話なんだよ!」

「健太君……」


美咲先輩は今までみたことのない僕の怒鳴った姿をみて困惑している。その時だった。頬に衝撃がきた。


「痛っ!?」

「ふざけるな」


そう言ったのは和仁さんだった。


「なにがですか? そうだ、和仁さんなら分かりますよね? タイムマシンの研究してるんでしょ?」

「そんなこと言っているんじゃない。加奈にまず謝れ」

「何を謝れって言うんですか?」

「『加奈さん達には分からないかもしれない!』だって? ああ、そうだ。分かる訳がない。俺も、もちろんここに二人もタイムリープしたことないからな! でもな、悲しいのは一緒だ。救えたら救ってやりたいのは一緒なんだ。それに、加奈には加奈なりの苦しさがあるんだよ!美咲には美咲なりの苦しさが! お前には分かるか!? 自分を救おうとして犠牲になったということを知らされた時の衝撃!? お前には分かるか? 自分のせいでずっとトラウマを引きずっているのじゃないかと思い続ける気持ち!!」

「それは……」

「皆それぞれ思いを持っているんだ。別に諦めるな、とか絶対救えとかそんなことは言わない。ただ、自分だけって考えはいますぐやめるんだな」

「わかりました……」


それだけ言って和仁さんは帰って行ってしまった。


「自分だけ……」

「健太君?」


今まで一言も話しかけてこなかった美咲先輩が今度は話しかけてきた。


「和仁さんも、本当はあんなこと言うつもりなかったと思うよ。でも、ああいうしかなかったんじゃないかな? 健太君なら分かってあげて、和仁さんの気持ち。皆救いたいのは一緒。でも、それができるのはきっと健太君だけなんでしょ?」

「そうですけど……。美咲先輩、加奈先輩、ごめんなさい……」


たしかに自分のことしか考えていなかった。今、美咲先輩も加奈先輩も全てを知った。それは、一先輩は告白されなかったら死なないかもしれない、つまり、美咲先輩のせいで死んだかもしれないと言われたようなもの。加奈先輩を救ったら一先輩は死んでしまった。つまり、一先輩と引き換えに自分は生きていると知らされたようなもの……。みんな、苦しい思いをして、それでも、僕のところに来たんだ。きっと、励まそうと思って……。それなのに僕は……。


「いいのいいの! それより一君救うのが先だよ! で、なんだっけ? 『美咲が告白する』というのを防げばいいんだっけ?」

「そうです」

「なら、私も考える! 罪滅ぼしってわけじゃないけど、力になりたい!」


美咲先輩も参加してきた。


「健太、やっぱりさっきは言いすぎたか?」


さっき出て行ったはずの和仁さんも戻ってきた。それに五木先輩も。


「いえ、こちらこそすみません」

「さあ、気を取り戻したところで、早速作戦会議だ!!」


絶望から皆が僕を救ってくれた……。それにはとても感謝している。なら、僕はこの気持ちを無駄にしてはいけない!!


 まず、『美咲先輩の告白』を阻止するのは五木先輩がやったように不可能だ。また、その時間に直接戻って救うことも不可能。それは僕と五木先輩が立証済みだ。また、美咲先輩を殺害する。この行動により、今までの苦労はパァだ。つまり、『美咲先輩が告白をし、かつ車に轢かれない世界』を目指さなくてはいけない。では、まず一先輩がどうしてあんなに学校を出発するのが遅くなったかを考えなくてはいけない。


「そういえば、よっしー一人で片づけしてたけど、それは俺が過去に戻った時手伝おうとしても拒否されちゃったよ」

「私は、告白したあとの返事、なんだか様子がおかしいなって感じました」


告白した後の様子か……。




「一君、手紙呼んでくれたんだね……」

「う、うん。そうだけど……何か用事?」

「私、ずっと、一君のこと好きだったんだ……」

「そ、そうなんだ。ありが、と」


どんどんと話が進んで行ってしまう……。




「そういえば、小学校のころ、よっしーは美咲のことが好きだって言ってたはず。いつから変わったんだっけな……?」

「ちょっと! 話が脱線してるよ! とにかくそのあとどうなったんだっけ?」


僕も、ふざけないでくださいと突っ込もうとして、ふと何かを感じた。違和感がある。なんだ……? 何かを感じる。ゆっくり、冷静になって考えろ。美咲先輩をもともと好きだった。それが変わった原因って、もしかして一先輩のトラウマってやつかな? じゃあトラウマがなかったらこの告白は成功していた? いや、それでもそのあとイチャイチャして遅れるという可能性も……。いや、まてよ……


「五木先輩! さっきの話詳しくお願いします!」

「さっきって? 鍋焼きうどんの話か?」


どれだけ話が脱線してるんだよ!


「じゃなくて、小学校のころ美咲先輩を好きだったとか……」

「ああ、その話ね」

「ちょっと! 私が恥ずかしいから、やめてよ……」

「美咲先輩、僕、もしかしたらひらめいたかもしれません。一先輩を救う方法! だから、少し我慢してくれませんか?」

「本当か!?」


皆の視線が僕に集中する。


「はい」

「じゃあ、詳しく話すぞ。えーっとな、それで、よっしーは誕生日の日に告白しよう! とか考えてたらしんだよ。でも、あの事件のせいで失敗しちゃってさ。それで、そのうちに美咲と俺に申し訳なくなって離れて言ったってことかな……」

「なら、事件がなかったら告白していたってことですか!?」

「そうだな……。そうなるな……」


だったら、事件を回避すれば誕生日に一先輩は告白をして、美咲先輩は告白をしなくなる! そうすれば、一先輩が学校から帰るのが遅くなることもない!


「この案、どうですか!?」

「たしかにそうだが……」


和仁さんはうなずいている。


「でも、あまりに無謀過ぎないか!?」

「そうですよね……」


まず、一先輩が告白したからといって死なないとは限らない。確実性はない。でも、これが一番近いと思う。きっと、これで一先輩の死は回避できると思う。


「ちょっと待ってて……」


そういって五木先輩はビデオチャットを立ち上げる。


「この作戦、どうだ?」

「たしかにいけるかもしれない。原因が過去に戻ることと美咲が告白することなら、きっと回避できるだろう。でも、まずそのトラウマがいつ起きたのかが不明だろ?」

「それなら8月30日だ」


たしかに誕生日と言っていたはずだ。


「年代は?」

「年代……?」

「ああ。何年の出来事か分からなければタイムトラベルはできない」

「えっと、たしか……。すまない、その日俺学校休んでて、良く覚えてない。それに、よっしーもあんまりその話したがらなかったし……」

「ごめんなさい。私も年代は覚えていないの。四年生か五年生のどちらかだったはずなんだけど……」


なんで、なんでみんな覚えていないんだ……? せっかくいい案だと思ったのにここで終わりなのか!?いや、違う!


「僕知ってます」


そうだ、一先輩が言っていたじゃないか!


「2012年です」

「なんで知ってるんだ?」

「『余計に日が多い』年。うるう年ですよ」

「そうか! じゃあ2012年の8月30日にリープだ!」

「たしか、その年の夏休みにちょうど僕が引っ越してきたはずです」


そうだ。あの年だ。


「だが、この作戦、失敗はできないぞ」


未来の五木先輩が言う。


「どうしてですか? 一度失敗したら、もう一度やり直せば……」

「燃料が足りない。移動する時間が長ければ長いほど燃料は大量に使う。最初に転送したときの分と、2015年8月11日に数回リープする分しか燃料はない。つまり、行ったら戻ってこられない……」

「そんな……」


行ったら戻ってこられない……。いや、そんなことはない! 僕が過去を、未来を、世界を変える。そう覚悟したはず!


「それがどうしたんですか? 失敗すること前提で考えちゃあだめです! 僕は、成功させて見せます」

「そういうと思っていたよ……」


未来の五木先輩は二コリと笑った。


「さあ、こっちの準備はできている。タイムマシンのセッティングをそっちでしたらすぐに2012年の行くことができるぞ」

「了解」


そこで通信は切れた。いよいよ最終段階だ。今度こそ失敗は許されない。皆の思いは無駄にできない! 覚悟を決めろ! 前へ進め!!!

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