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「失敗した物語」

3月13日


 気がつくとまた五木先輩の家にいた。この世界は……


「一先輩は……?」


分かっていることをきいた。でも、これは真実だと受け止めたくないとかそういうのじゃない。「一先輩が死ぬ」ということが、今僕が起こした世界の変動による結果なのだから、僕にはそれを知る義務があるのだ。


「事故で、死んだよ……」

「そうですか」


さほど悲しくはない。だって、これから僕が救うのだから。


「ということは、計画通りってことですね」

「ああ、そうだな」


少し暗かった五木先輩の顔もまたいつもの顔に戻った。次は美咲先輩の告白を阻止することか……。


「そっちの準備はどうだ?」


五木先輩はビデオチャットで未来の先輩や僕と話をしている。その間に僕は心と頭を落ち着かせる。何度も連続してリープするのは、身体的にもかなりの負担がかかるため、ある程度休憩しないとどうにも苦しい部分がある。


「健太は、しっかり休んで、準備ができ次第俺に声をかけてくれ」

「わかりました」


そう言って、僕は少し先輩のベッドを借りてごろりと寝転がった。


 3時間くらいたったのだろうか。五木先輩から次の作戦についてもしっかりと話を聞き、いよいよ最後のリープをする時がきた。いや、これで成功するとは限らない。そのために、タイムマシンには多くの燃料が積んであるのだ。


「そういえば、これお守りだかなんだかだって……」


五木先輩から渡されたのはなんだかよくわからない水筒より一回りくらい小さい、ポケットに入る筒の入れ物だった。


「なんでしょうか、これ?」

「タイムマシンが転送されたときにいっしょに送られてきていたんだ。なんでも、ピンチになったらこれに託せって」


これに託す? まったく意味がわからないが、一応もっておこう。


 今回のリープはいつもの廃ビルではなく、学校の校庭の隅に転送をするらしい。廃ビルから森や一先輩が飛び降りたビルは近くにあるが、学校はさすがに遠すぎる。実際、家から皆自転車でここまできていたらしい。しかし、過去に戻っても僕に交通手段はない。歩くしかないので、学校に転送するということだ。


「ということで、学校は今までより少し目立つ。注意するんだぞ」

「了解です!」


まずは、美咲先輩の告白を阻止する。それがだめならまた別の方法を考えよう。


「じゃあ、いってきます!」


再びリープをする。その先に、とんでもない絶望が待ち受けるとは知らずに……




8月11日


 校庭の隅に到着した。ここならあまり人は来ないし、もしばれそうな状況になったらすぐ戻ればいい。よし、そうしたらまずは部活が終わるまで待機していなくては……。

 部活はすぐに終わり、一先輩は片づけをしている。そういえばあの日、一先輩は一人で片づけをしたような気がする。かなり昔の記憶なのでよく覚えてはいないが。さて、ここからどうするかが重要だ。未来の人物だとばれないよう、一先輩を早く帰らせる、または遅く帰らせるんだ。たしか一先輩は自転車で部活に来ていたはず。だから、先に自転車小屋のほうで待機していよう。


 少しして、一先輩がやってきた。よし、今声をかけて少し時間をずらせば……。ん? もう一人やってきた。しまった、美咲先輩だ。ここできっと告白をするのだろう。でも、ここで話に乱入しても未来が変わるのか? くそ、過去に直接干渉する失敗は許されない! ゆっくりじっくり急いで考えろ!


「うわ!」


だ、誰だ!?


「い、五木先輩!?」


五木先輩がなんでここに……? いや、ここは五木先輩が一先輩を救おうとして失敗した過去の世界。なら、ここにいる五木先輩は、未来からやってきたのか……? それならば、なおさら気をつけなければいけない。リープしていることに気づかれやすいだろう。 


「お前、どうしてここに……」

「いや、一先輩と一緒に帰ろうと思って待ってたらなんだか出ていけない雰囲気になっちゃって……」

「そうか……」

「あれ、美咲さんですよね?」

「え? そうなのか?」


五木先輩は位置をずらす。なんてことだ。これじゃあ下手に行動できない! ここで変に話に乱入したら五木先輩に怪しまれる。どうすれば……


「一君、手紙呼んでくれたんだね……」

「う、うん。そうだけど……何か用事?」

「私、ずっと、一君のこと好きだったんだ……」

「そ、そうなんだ。ありが、と」


どんどんと話が進んで行ってしまう……。


「先輩……」


どうすればいいんだ!? せっかくここまで来たのに……。そう考えると、涙が浮かんでくる。だめだ! 泣くんじゃない!!


「健太、ちょっといい?」

「なんですか?」


ひそひそ声で五木先輩が話しかけてくる。一体何の話だろうか?


「よっしー、小学校のころにトラウマがあるんだ」

「トラウマですか?」

「ああ。それで美咲はその時の事件に巻き込んでしまったって、よっしー後悔してるんだよ」

「後悔ですか……?」

「うん。だから今はあんまり前みたいに接してないんだよ。それに、小学校時代一緒だった人とは俺以外とはなかなかつるまなくて……」

「そうなんですか……。それって、前一先輩が言っていた地獄の誕生日のことですか?」


地獄の誕生日、そういうことだったのか……。じゃあ「余計に日が多い」というのは……?


「たしかによっしーの誕生日に事件は起きたよ」

「やっぱり」


そうこうしている内に美咲先輩と一先輩の会話は終わっていた。もう、今しかない!!


「先輩! 一緒に帰りましょう!」


考える暇もなく飛び出した。


「お前、そこにいたのか……? じゃあ、今までの話を……?」

「話? 僕はちょっと前に自転車で来た時この辺に落し物して、その時夕方で暗かったので今来て探しただけですよ」


適当に嘘をつく。


「そうか、悪いな。ちょっと今日は一人で帰りたいんだ……」

「そうですか……」


それだけ言って一先輩は言ってしまった。っと、ここで立ち止まっている暇はない! 今すぐ追いかけなければ!!


「あ、ちょい待て!!」


後ろから五木先輩の声が聞こえるが今はそれどころではない。急いで追いかける。


「先輩! まって!!」


しかし、坂を下る風の音と近くの川の音で声がかき消される。いつもは車がこない道。そこから、車が出てくる。激しいブレーキ音とクラクションが僕の心を突き抜けた。そして……。


「先輩!?」


そこには、一先輩が倒れこんでいた。


「おい、大丈夫か!?」


くそ、失敗したのか!? 僕は失敗したのか!?


「なんでここにきた! なんでここの道を通った!?」


意味もなく車から出てきた男の胸倉をつかむ。意味は、ないのに……。


「おい、それより先に救急車を……」

「どうせ死んでる!!」


断言できる。死んでる。


「俺は、今、呼び出されたんだ!」


少しキレ気味に男は答える。当然だ。でも、今はそんなこと気にしていなかった。


「『校庭に変な物がある』って呼び出されたんだよ!」


校庭に、変な物……? 校庭にそんなものあったか……? いや、あった。いや、ある。俺の……タイムマシン……!!


「そんな、そんな馬鹿な、嘘だ、嘘だ!!」


涙があふれてくる。止まらない……。そんな馬鹿な……。


「おい、どうした!?」


男は一先輩を引いてしまったことと僕の意味不明な行動のせいでパニックになっている。そんなことは今の僕に関係ない。


「くそおおおお!!」


泣きながら自転車をこぐ。途中で五木先輩とすれ違った。


「おい! 健太!? 何があったんだ!?」


行けば分かる。それすらも言わずにただ無心に自転車をこいだ。そして、未来へと帰る。このリープで僕は「一先輩が轢かれるのは、過去に僕が戻ったから」という事実を知った。つまり、一先輩を救うことが一先輩を死に追いやっているんだ。そして、世界で起こることはある程度決まっている。収束するんだ……。僕がどこに転送されようと、結局は一先輩は死んでしまう。それは、五木先輩のリープで立証済み。そして、僕は一先輩を殺してしまった。だから、一先輩は救えないんだ……。


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