「救う物語」
話の意味。じっくり考えてみよう。きっとその中に一先輩が伝えたかったことがある。少年はなんで話をもらしてしまったのだろうか? きっと脅迫とかされたんだろう。じゃあ、なんで脅迫された? まあ、王様の息子だからだろう。つまり、話を漏らすということは彼以外にできなかったということか。彼にしかできないことを彼はやったんだ。結果は最悪。でも、選択したのは彼自身だ。自分の命を犠牲にして国を救うか、国を犠牲に自分が救われるか……。もし、それでも王様が勝っていたらどうだった? 結果が違ったらどうだった? ここまで少年は責められなかっただろう。何だ、何かがひっかかる……。そうだ。僕は結果にとらわれすぎていたんだ。あくまでバッドエンドだったから辛い目にあったんだ。でも今は違う。バッドエンドを目指しているわけではない。僕の覚悟次第で結果は変えることができる……。
「先輩!」
ドアを開け放つ。
「気がついたのか?」
「はい」
立ち去ったと思っていた一先輩はすぐそこにいた。
「まあ、あとはお前次第だ。俺が死んでも、また健太が救ってくれる。そう信じている」
「もちろん、すくってみせますよ」
気持ちは決まった。そこから、またあのビルへとむかい、すぐにタイムマシンに乗りこむ。
「準備はいいか?」
「大丈夫です! 五木先輩」
「わかった。よっしー、そっちの準備は?」
「ああ、大丈夫そうだぞ」
「では、いってきます!」
また過去へ。今度は8月9日へ……
8月9日
着いたのはまた夏だった。廃ビルから今度は五木先輩からきいた森へと向かう。殺されるのは真夜中だと言っていたので、森の中で待機をする。どうにか説得をするんだ。五木先輩は一先輩を救うため、美咲先輩を殺害する。ならば、一先輩は美咲先輩を殺害しなくても救うことができるということを伝えれば、そうすればきっと美咲先輩は救われる。それは、同時に一度一先輩と別れるということを意味していた。最初に一先輩を救った時は、既にこの世にいないから「救う」ということしか考えていなかった。でも、今は「このままでいれば一先輩は死なない」という逃げ道があったから、僕は戸惑ってしまった。でも、一先輩を救うのなら、一先輩の犠牲をなかったことにしてはいけない。一先輩が命をかけてでも守りたかった二人をまずは救うんだ!!
「ねえ、何か大事な用事があるって、それ何のことなの?」
あれこれと考えている内にその時はやってきたようだ。
「ああ。少し、話しておきたいことがあってね」
今にその瞬間が訪れるのだと考えると、今までにないくらいの緊張が僕を飲み込む。体が冷たくなっていく、まるでジェットコースターが落下するのをまっているときのような、そんな苦しさを感じた。
「俺は、君のことが好きだった。でも、君はよっしーのことが好きなんだよね?」
なんだって!? 五木先輩が美咲先輩を!? そんなの初めて聞いた。じゃあ、五木先輩は一先輩を救うために、自分の好きな人を……。考えただけで辛い。苦しい。「俺が誰よりもよっしーを救いたいんだ。」という言葉の意味がわかった。全てを犠牲にしてでも、救いたかったんだ……。なら、その希望にこたえなければ!!
「そう、なのね……」
「まあ、それはいい。よっしーがいい人なのは俺も良く知っている。あの事件だって彼の本心じゃなかっただろう。だから、これからすることは別に美咲をよっしーにとられて腹が立ったからとかそういうのじゃない。俺は、したくてしてるんじゃないんだ!!」
「どうしたの!? 泣かないで……」
その涙には、辛さ、苦しさ、一先輩を救える喜びと美咲先輩を失う悲しさ。全ての感情が込められていた。
「くそくそくそ!! このやろう!!!」
拳銃!? 一体五木先輩はどこでそんなものを!? そんな、拳銃相手に僕は素手で……。いや、やるんだ! きめたんだから!
「五木先輩!!」
今までにだしたことのないくらい、大きな声が出た。
「健太!? どうしてここに!?」
「伝えたいことがあってきました」
「健太君? どうしたの?」
おびえながら美咲先輩がきいてくる。
「なんだ、用事なら早く言ってくれ……」
「一先輩は、僕が救います!」
五木先輩の動きが止まる。
「どういう、ことだ?」
「僕は、未来からきました。そして、未来の五木先輩と協力して、一先輩を救う作戦をすすめています。そのために、美咲先輩を救いに来ました」
「どういうことなの?」
美咲先輩が困惑しているが、五木先輩なら意味がわかるだろう。
「そんな、そんなばかな……」
「ばかな話じゃないんです。本当なんです」
「未来の俺がか……?」
「はい。一番一先輩を救いたいのはこの俺だ。そのためになんだってしてきたって言っていました。」
「そうか……」
またあの感覚……。世界が、変わろうとしている……。そう、美咲先輩は救われるんだ。そして、一旦、一先輩とお別れをするんだ……。




