「覚悟の物語」
ことの始まりは一先輩の死からだった。8月11日に一先輩が美咲先輩に告白され、帰りに事故に遭って死亡する。何度もリープをした五木先輩は、「美咲を殺害するとこで世界を変えられる」ということを考える。8月9日にリープし、その後美咲先輩と会う約束をして殺害。そこに五木先輩のお兄さん、和仁さんがやってきて二人で十和田湖の森の中に死体を隠した。
そこで世界は変わり、一先輩は死亡せずに済んだ。しかし、その世界は加奈先輩か五木先輩のどちらかが必ず死亡する世界だった。十和田湖に隠した死体をサハラ建設が偶然発見してしまう。櫓の建設の費用を浮かすため、無断で木を伐採するときに発見したため、死体に関しては通報できずにいた。そこに未来から事情をしっている和仁さんがやってくる。そしてサハラ建設に『死体発見を公表するな。さもなくば夏祭り、爆発させる』と脅迫をした。サハラ建設とそれに市役所にも脅迫したらしい。サハラ建設は死体発見を公表しなかったが、市役所が祭りを強行したため爆破をした。それによって櫓のことは闇へと包まれた。
その後、未来ではサハラ建設は裏切られたと考え死体について発表するものの、すでにそこに死体はなく、さらに何故そんなところにいたのかと問い詰められ真実が発覚し、市民の裏切り者扱いされ誰も信じる者がいなかったらしい。そして、その爆破によって加奈先輩か五木先輩が死んでしまう。それならば、美咲先輩の殺害を止めれば……そう一先輩は考えた。しかし、タイムリープには期間があり、一先輩は美咲先輩の殺害を止めることができなかった。そして、加奈先輩を犠牲に五木先輩を救ったが、きっとこの世界で生きる目的を失ってしまったんだろう。
自殺を考えビルの屋上へと向かう。そこで一本のビデオチャットが来る。どうやらタイムマシン開発の未来よりさらに未来の人物からの連絡らしい。内容は「今の世界で彼らの時代の一先輩は既に死んでしまっていて、世界でタイムマシンを発端とした戦争が起きている。そこで、開発者の一人として責任を感じ、記憶をデータ化して封じ込めた。その記憶の中に世界が平和になるための情報がある。その情報を使うにはもう一人の人物の力が必要」それが俺のことだ。
これが今まで起きたすべてのことだ。嘘のようで本当のことなのだろう。なんだかサハラ建設うんぬんがちっぽけに見えてしまうくらい世界は大きく動いていたんだろう。想像を絶するほどの話で、目がくらみそうだ。
「さて、整理は済んだかい?」
「一応……」
「まあ、完全にまとめるのは実際に体験した俺でも無理さ。なんとなくでいいよ」
「そうですね」
五木先輩が優しく声をかけてくれる。ここまでして彼らはお互いを救おうとしていたのか。そこまで思える人物が今の自分にいるのか……? そんな気持ちが湧いてきた。命を懸けて守りたいものがあるのか。愛するものがあるのか……?
「そして、これからの作戦について説明する。よっしーがビデオを残して自殺する。これによって健太の気持ちが動いて新しい世界へとたどり着いた。そこから作戦はスタートする。まずはよっしーを救うことだ。『覚醒した健太』が救う必要がある。その後、タイムマシンをもう一度その世界で俺たちは作るだろう。そして、皆を救う」
「どうやって?」
「さあ。あれだけやっても無理だったんだ。逆に残った方法を試すしかない」
「そんな……」
「大丈夫。健太は、皆を、世界を救いたいんだろ?」
世界はどうなってもいい。ただ……
「あの日々を取り戻したいです。一先輩と、五木先輩はふざけあって、それに僕と加奈先輩が突っ込んで、今度は一先輩と加奈先輩が仲よさそうに話して、美咲先輩はそれを見ている。そこに五木先輩がちょっかいをだしにくる。あとは……」
思い出せばきりがない。部活で、学校で……。多くの思いで今心によみがえる。その景色がすごく楽しそうで、それが過ぎた今、気がつくのが悔しくて……
「僕……僕は、皆を救います!!」
半分泣きながらそうこたえる。
「良い覚悟だ」
五木先輩はやっぱり優しそうな声で俺に話してくれた。
「では、早速タイムマシンを転送する」
すると、一旦ビデオチャットは切れてしまった。
「五木先輩、僕は意識だけのリープじゃだめなんですか?」
「そうすると、過去の健太が変わり世界が大きく変わりかねない。そうなると今まで苦労はパーだ。だから、健太もなるべく人にばれずによっしーを救えよ!」
「はい」
世界を変えないように……。今まで苦労したこと、それが僕が少し行動を変えるだけでパーになってしまう。それがとても恐ろしかった。
「よし、こっちは準備ができた。あまり人に目立つとまずいから廃ビルの中に転送するぞ」
「了解」
ビルの名前を聞いてそこへ向かう。すでにタイムマシンはあった。
「じゃあこれからタイムマシンの使い方を説明する」
一通り説明を受け、あっというまにその瞬間はきた。
「準備はいいか? とにかくよっしーの自殺を止めるんだ」
「了解です」
鼓動が速くなる。まずは一先輩が自殺をしたビルに行って、そこで一先輩を説得して……考えれば考えるほど混乱する。
「よし!」
一呼吸おいて、最後のレバーを引く。そして、タイムリープがはじまった……




