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「混乱の物語」

3月13日


「五木先輩、卒業おめでとうございます」


本当は、彼ではなくあの人にその言葉を言いたかった。


「健太、ありがとう!」

「いいえ」

「なんでこうなったんだろうな……」


きっと卒業するだろうと思われていた人物、美咲、加奈、そして一先輩。その三人とも死亡してしまった。僕には一体あったのかわからない。でも、これも運命なのだと受け止めるしかないだろう。


「なあ、健太、変える前にちょっと学校の裏にきてくれないか?」

「学校の裏ですか?」

「ああ。少し伝えたいことがあって」


あれから、五木先輩の性格も変わってしまった。まるで、希望を失ったように……


「わかりました」


それだけ言って、彼はどこかへ行ってしまった。

 変える前に裏で待っていたら、遅れて五木先輩がやってきた。


「すまん、ちょっと遅れて」

「大丈夫ですよ」

「これをどうしても見てほしくて」


取り出したのはゲーム機。そのビデオのアプリを立ち上げる。そこには……


「これは……!?」

「俺も、驚いたんだ」


一先輩が映っていた。場所はどこかの屋上だろうか、空が近く見える。


「これ、どうしたんですか?」

「前に送られてな……」


日付は8月30日。ちょうど一先輩が飛び降り自殺をした時だ。


「なんで、なんで今までこれを隠していたんですか!?」


少し苛立ちを覚える。たしかに五木先輩は大切な友人、いや親友を失ってしまった。僕だって悲しかった。でも、これじゃあだめだと思ってどうにか今まで頑張ってきたんだ。それなのに、いつまでたっても五木先輩は暗いまま。それにも少し腹が立っていた。いい加減そんな暗い雰囲気出すなって。だって、いつまでも暗い顔してたらせっかく立ち直ろうとしているのに戻ってしまうから……。そして、今になって一先輩のメッセージを僕に見せる。まるで「よっしーは俺だけのものだ」といわんばかりに……。まるで、「お前にはこの苦しみが分からないだろ」といわんばかりに……。


「実は、隠しておかなくてはならなかったんだ」

「どうしてですか!?」

「まずは、ビデオをみてくれ」


そういって画面をタップする。


「五木、君がこの動画を見ているということは、きっと僕はこの世界にはいないのだろう。だから、この動画で君に伝えるべきことを伝える。俺は、加奈を救うためにタイムリープを繰り返してきた。何度やっても加奈は夏祭りの日、爆発に巻き込まれて死んでしまった。そこで、加奈の運命を変えるために五木と祭りにいった。そうすると、今度は五木が車に轢かれ死んでしまった。加奈か五木。究極の選択を迫られた俺に、あるもう一つの可能性がふってきた。それは『美咲を救う』ことだ。未来の和仁さんによると、美咲は和仁さんによって殺され、そして死体を発見したサハラ建設に祭りで櫓を爆破すると予告したらしい。その爆破を阻止すればきっと二人とも救われる。そう考えたのだが、俺がリープできる期間より少し前に美咲は殺されていた。つまり、二人を救うことは不可能だということだ。そして俺は、加奈を見捨てることを選択した。せっかく加奈にもらった世界なのに、俺はなにをやっていたんだろうな。それから俺はずっと部屋に引きこもり、そして自殺を考えた。そこで、ある一本のビデオチャットがきた。未来の俺よりさらに未来の俺の助手達らしき人物からの連絡だった。その時代の俺はすでに死んでいて、世界はタイムマシンやら人工知能を求めた戦争が起きているらしい。そこで、未来の俺は記憶をデータ化し、完全に封じ込めて死んだんだ。それだと二人を救うことは不可能らしいんだ。その俺の記憶の中に世界を幸せに導くためのあるデータが混じっているらしい。世界を幸せ、きっと二人とも救われる世界。皆が救われる世界のことだろう。だが、過去にいって美咲を救ってもそれは意味が無いらしい。ここである一つの疑問が生じる。俺は今死んでしまう。なら、『俺の記憶』ということはどういうことか。実は、俺がここで死ぬか死なないかで世界は大きく変わる。そして世界を平和にするためには俺は一度死ななければならない。ある人物を動かすために。話だけじゃない。強い信念がなくては成し遂げられない。そのミッションをクリアするために俺は一度死ぬんだ。死んで戦うんだ。だから、健太! 協力してくれないか?」


俺……? どういうことだ? 全く話がピンとこない。


「俺を救いたい。そう思ってくれると俺は考えている。いや、未来の助手達がそう言っていたんだ。健太は俺を特別に思ってくれていると」


顔が熱い。そんな、一先輩を特別にだなんて……


「嫌なら、そこで終わってもいい。俺は後悔するつもりもない」


一先輩を救うということなのだろうか? いまいち話の内容が理解できずに映像は終わってしまった。


「五木先輩? 今のは……」

「過去のよっしーからのメッセージだ」

「それより、タイムリープどうのこうのって、どういうことですか!?」

「それは、話すと少し長くなる」


そこで俺は全てを聞いた。五木先輩が一先輩を救うためにリープしたこと、美咲先輩を殺したこと。そこからどうやら一先輩は二人が死んでしまう世界を変えるためにリープをしたこと。そして、もし美咲をただ救うと世界はループをすること、永遠に繰り返されること。それを阻止するために俺の力が必要なこと……


「俺が、リープを……?」

「ああ。少し混乱しているだろうが、少し話を進めてもいいか?」

「あ、はい。たぶん大丈夫です」

「そこで、次に彼と話をしてほしい」


そういって今度はビデオチャットのアプリを立ち上げ、誰かと連絡をする。


「これは!?」


そこに映っていたのは……


「未来の、五木先輩?」

「ああ、はじめましてだな。健太」

「は、はじめまして」

「そうかたくなるな」

「は、はい。わかりました」


どうも緊張してしまう。


「少し話を整理したいだろうが、まずは全て話してそれから整理をしよう」

「了解です」

「まずは俺がなぜ今までこのビデオを健太に教えなかったかだ」

「そうですね、なぜですか?」

「実は、よっしーを救うためのタイムマシンがまだ完成していなかったんだ」

「それが理由ですか?」

「ああ。ずっと研究していたんだが、俺と健太と兄貴だけじゃあどうにもね……」

「俺も研究していたんですか!?」

「ああ」


どうやらあの映像を見たとき、世界がかわって俺も研究に参加する世界になったらしい。


「さて、ここで一旦話を整理しよう」

「はい」


その返事をすると、早速最初からこの長い長い夏の物語を整理し始めた……


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