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「再び戻る物語」

 夜が来た。まるで今の俺の心のように真っ黒に染まった夜。その闇の中に俺は今たっている。時刻はそろそろ11時くらいになるが美咲は来ない。少し遅れてしまうのだろうか? まあ、家をこっそり抜け出すのであれば親が寝てからでないと難しいだろう。それに、俺の覚悟もできていない。したはずなのに、まだ足が震えている。深呼吸だ。でも、息が乱れてうまくできない。どくどくと心臓の音が体中に響く。準備は大丈夫なはずだ。兄さんから借りた拳銃に手袋。拳銃は美咲の死体を埋めるときに同時に埋める。これで計画は大丈夫なはずだ。計画は大丈夫なのに、俺がこんなんじゃあ……。くそ、しっかりしろよ!!


「ねえ、何か大事な用事があるって、それ何のことなの?」


こちらへ語りかけながら美咲がやってきた。今、殺されるとも知らずに。


「ああ。少し、話しておきたいことがあってね」


少し、間をとる。


「俺は、君のことが好きだった。でも、君はよっしーのことが好きなんだよね?」


これだけは最後に伝えたかった。もしかしたら今からすることは気が狂ってるように見えるかもしれない。だって、好きな人を殺すのだから。それでも、俺は進むんだ……


「そう、なのね……」


困った顔でこちらを見る。


「まあ、それはいい。よっしーがいい人なのは俺も良く知っている。あの事件だって彼の本心じゃなかっただろう。だから、これからすることは別に美咲をよっしーにとられて腹が立ったからとかそういうのじゃない。俺は、したくてしてるんじゃないんだ!!」


急激に感情が高ぶってくる。落ち着け。落ち着け。興奮するな。


「どうしたの!? 泣かないで……」


自然と涙がこぼれていた。くそくそ!!


「くそくそくそ!! このやろう!!!」


拳銃を取り出す。


「きゃあ!?」

「ごめん!」


それ以上おびえている美咲の顔を見たら決心が揺らいでしまいそうで、もう、勢いでやるしかなかった。

 引き金は引かれた。そこにはまだ少し息のある美咲がいた。


「五木、君。なんでこんな、こと」

「くそお!!」


その場に拳銃を投げ捨てる。


「でも、きっと何か目的、あるんだよ……ね?」

「美咲!?」

「なら、その目的……果たし、て……ね。私が代わりに……なれるのな……」


それっきり、動かなくなった。


「ぐっ!」


頭に大きな衝撃が走る。これは、世界が変わる、あかしだ……




 ふと気がつくとそこには兄さんがいた。


「大丈夫か?」

「あ、ああ」


どうやら気を失っていたようだ。


「どうやら、世界が変わったみたいだな」

「ああ。俺もさっき目が覚めて、あわてて軽トラ飛ばしてきたんだよ」

「ありがとう」


毛布で彼女を包み、荷台に乗せる。


「よかったのか……?」

「いまさらだよ……」


十和田湖へ向け、出発をした……




8月13日


 その日は電話で目が覚めた。ぼんやりとする視界の中で時計を探してみる。午前九時。休みの日はいつもこれくらいに起きている。俺はどっちかというとインドアタイプだから、休みの日も遅くまで寝てごろごろと過ごすことが多い。よく、「休み無駄にした感じ」というのがあるが、ごろごろすることが休みの目的なのではと疑問に思う。時計の次に電話を探す。そして、受話器を取り上げぼーっとしたまま電話に出る。


「もしもし?」

「もしもし。上原加奈ですけど、吉田一さんのお宅ですか?」


加奈? ぼんやりとした頭の中が急激に覚めてくる。


「あ、はい。一ですけど」

「あ、一君? えーっと、少しいいかな?」

「何? なにか用事?」


加奈の用事とは一体なんだろう? 胸の鼓動が速くなる。ふーっと息を吐きたかったが、加奈に聞こえるとあれなので我慢した。


「夏祭り、一緒に行かない?」


夏祭りか。残念だけど今年は加奈を誘うつもりだから……あれ? 今誘ってるのは加奈?


「あ、急だったよね? ごめん」


えーっと、なんて返事すればいいんだ?


「あ、えと、いいよ。一緒に行こう!」


あれ、なんか変だな。まあいいか。


「いいの? ありがとう!!」


とここまで話して思った。もしかしたら、みんなで集まってそのついで、的な感じだと、まるで合コンの数合わせみたいになってしまう。その可能性もあるのに勝手に一人で舞い上がっていた。少し、聞いてみよう。


「「あのさ」」


声がかぶってしまった。


「一君、先にいいよ」

「あ、うん。」


いったん深呼吸をする。どんな返事がきても同様しないように。よし。


「加奈は誰かと行くつもり?」


さて、なんと返事がくるか。


「それ! 私も聞こうと思ってたの!」


そうか。それで、加奈は誰かと行くのだろうか?


「一君は一人なの?」

「そうだけど…」


「私もそのつもりだったの! 二人だと、緊張しちゃいそう」


そうか、加奈も一人で行くのか。俺も一人だから……


「え? 二人きりで行くつもりだったの?」


まさか、加奈から誘われたうえ、二人で行こうといわれるなんて!!


「だめ、かな?」


そんなわけない。むしろウェルカムだ。


「いいよ! じゃあ、待ち合わせどこにする?」

「広場に、そうだね六時くらいがいいかな?」

「わかった。それじゃあ、夏祭りで!」


その後電話が切れたが、加奈のあの声はまだ耳に残っていた。「二人だと、緊張しちゃいそう」というセリフ。緊張しちゃうということは、もしかして、両想い!? そんなことを考え浮かれながら、朝ごはんを食べに下へと降りて行った。


 朝ごはんは基本ご飯を食べる。ただ、休みの日は簡単にパンで済ませることが多い。今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。いつものことのなので聞き流そうとしていたが、画面にテロップが出て思わず声が出た。


「夏祭りに、脅迫状?」


どうやら、『十和田市の夏祭りを開催させると、会場を爆破させる』といった内容の脅迫状が届いたらしい。


「いやね。最近物騒なニュースばかり」


確かに物騒なニュースだった。しかし、それよりも加奈との約束のほうが俺は気がかりだった。加奈を誘おうと思って、そしたら加奈に誘われ、しかも二人きりでいくことになった夏祭り。それが中止になんかなったら……。


「あんた、夏祭り五木君とでも行くつもりだったの?」


母が訪ねてくる。


「ああ、まあ友達と行くつもりだったけど」

「いくなとは言わないけど、あんまりお勧めはできないねえ」


加奈とのせっかくの約束から、少し遠ざかってしまった。


 その夜、加奈に電話をかけることにした。


「もしもし」

「あ! 一君? あのニュース見た?」


あのニュースとはきっと夏祭りの脅迫状のことだろう。きっと加奈もそのことを気にしていたに違いない。


「夏祭り、実施されるといいね。だって、せっかく一君と二人き……なんでもない。」

「ん? そんな途中まで言われたら続きが気になるだろ?」

「もう! そういうことに関しては追及したがるんだから! とにかく、実施されるように祈りましょ! おやすみ!」


その言葉を最後に電話は切れてしまった。



8月14日


 今日は五木の家に行く約束をしていた。最近部活に来ていなかったが、あってみるといつも通りの五木だった。体調でも崩していたのだろうか。


「さあ、入って」


五木の部屋に案内された。五木の部屋の床には雑誌、CD、ゲーム、それになにかよくわからないものが散乱していた。


「もう少し片付けたらどうなんだ?」

「いい? これが俺にとって理想の環境だ! 椅子に座ったままたいていの用事は済む。まさに画期的じゃないか!」


部屋が汚い人によくあるいいわけだ。俺は特に潔癖とかきれい好きとかそういった部類の人間ではないが、部屋は奇麗だ。まあ、ものが少ないということもあるとは思うが、それでも五木の部屋は汚いと思う。第一「これが理想の状態だから」「どうせすぐ使うし」「ほら! ここからでも使えるでしょ!」と言っている人の部屋は九割汚い。


 どうにかものを踏まないようにして、五木の机のそばまで向かった。机の上には科学雑誌が開きっぱなしでおいてあった。タイトルは「タイムトラベルの可能性」で、近い将来タイムマシンができるかもしれないといった具合の内容だった。


 タイムトラベルに関しては以前ゲームに出てきて調べたことがあった。11の理論があって、中性子星理論、ブラックホール理論、光速理論、タキオン理論、ワームホール理論、エキゾチック物質理論、宇宙ひも理論、量子重力理論、セシウムレーザー光理論、素粒子リング・レーザー理論、ディラック反粒子理論がある。しかし、理論同士が矛盾したり、そもそも存在が確認されていない物質が必要だったりなど、実質的に不可能であるとなっていた。また、タイムトラベルにはパラドックスというものがあって有名なのが親殺しのパラドックスだ。過去に行って子供が親を殺すというものだ。そうすると、親は死ぬ。その原因は子供。しかし、親が死ぬため子供が生まれない。結果的に親を殺した人物がいないため、親は死ねないということになる。

 

 要は生まれていない人物に殺されるわけだ。ドラえもんをみていると、のび太君が過去に行ってお母さんと話して「大変! 僕が生まれなくなっちゃう!」と言うことがあるが、実際そんなことをしたら世界の崩壊を引き起こす可能性もあるらしい。それにしても、なんで五木がこんな雑誌を読んでるんだ?ページをめくろうとすると、五木に雑誌を取り上げられた。


「なんで雑誌読むの? よっしーは僕と遊びにきたんでしょ? 雑誌を読むためにきたんじゃないだから!」

「ああ、ごめん」


つい雑誌を読むのに夢中になってしまっていた。


「さて、何をしようか?」


 さっそく鞄からゲーム機を取り出す。このゲーム機は最近発売されたもので、特徴的なのがプレイヤーが開発したゲームを気軽に投稿し、そしてアプリケーションとしてダウンロードし遊べるということだ。基本的に投稿するのもダウンロードするのも無料でできる。しかし、人気がないゲームは一カ月で削除されるらしい。俺は投稿したことがないからわからないけど。最近はゲームだけでなく、ビデオチャットができるアプリなど、実用的なものも増えてきた。俺と五木もそのビデオチャットのアプリで連絡を取ることがある。


「俺さ、面白そうなゲーム見つけたんだー」


 そういってあるゲームを立ち上げる。俺が好きな謎解きのゲームらしい。五木は俺のことをよくわかっているな。早速ゲームをプレイした。


 夕方になり、そろそろ帰ろうする。


「そうだ! よっしー、加奈とはどうなった?」


珍しくその話をしないと思っていたら、最後に話題になってしまった。


「一緒に行くことになった」

「やったじゃん! じゃあ、告白は?」


告白!? そこまで考えていなかったな……


「誘われたんでしょ?」


なんでそれを五木が知っているんだ? 田舎のネットワークは怖い。


「まあ、そうだけど」

「じゃあ、やるしかないじゃん!」

「でも、俺じゃあ…」

「俺じゃあなにさ! そんなに自分に自信がないの?」


自分に自信がない。その言葉であの日のことがよみがえる。俺は自信を持って無罪を主張できなかった。身の潔白を主張できなかった。二人は頑張ってくれたのに、俺だけ逃げてしまった。もう、あのときみたいな後悔を俺はしたくない。そうだ、もう、逃がすわけにはいかない!


「わかったよ。頑張ってやってみる」

「おお! そのいきだ! がんばれー! 応援してるぞ!」

「よし、じゃあさっそく家に帰ってどうするか考えてみる」

「おう、じゃあまた今度!」


玄関まで五木は俺を見送り、ゆっくりと扉を閉める。


「よっしー、ごめんな。よっしーにはこれ以上つらい思いをさせたくない。よっしー、君は必要なんだ。みんなに……」




END


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