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「再びはじまる物語」

7月23日

 

 あれから三年がたった。今日から夏休みが始まる。東京とは違い、こちらでは八月いっぱい夏休みがない。そのためニュースで「今日で夏休みも終わりですよね」という会話などを聞くと、こっちはもう終わってるわ! と言いたくなる。それでも、一か月以上あることに違いはなく、これからの夏休みに少し楽しみを持っていたのも間違いではない。実は、中学校生活二回目の夏休みにして俺は好きな人ができた。同じ陸上部の上原加奈だ。明るい性格で、いつもにこにこ笑っているのが印象的。アニメが大好きで、俺と好きなジャンルが似てる。そのためアニメの話しをよくする。歌を歌うのがうまくて、以前陸上部員で中体連の打ち上げのカラオケに行った時、きれいな歌声だなと感じた。あの事件以来、同じ小学校だった人たちのことは避けるようになってしまっていた。そんなときに加奈は初めて(実際には五木だが)俺に話しかけてくれた。その時はなんとも思わないで会話をしていたが、よく考えるととても優しい人なんだなって思う。


「一君は何か夏休み、予定とかある?」


いきなり加奈に話しかけられ、椅子から落ちそうになる。


「ちょっと! そんなに驚かなくてもいいじゃん!」

「ごめん、考え事してて」


考え事とは加奈のことなんだが。そう思いつつ、夏休みのことを考える。予定といえば、そうだ。加奈を誘って夏祭りに行こうとしていたんだ。先週そんな感じの話をしたら、意外と乗ってくれたので、これならいけると思った。五木にも「いいじゃん! アタックアタック!」と言われた。まあ、五木に関してはいつもこんな感じなんだが。


「夏休みの予定か…。夏祭りに行くつもりだったけど」


まずは、様子をうかがう。ここで「へー、そうなんだ」とか「ふーん」とかだとまず誘ってもいい返事は来ないだろう。


「そうなの? 誰かと一緒に行くの?」


お? これはいい感じかな? とはいっても、あまり恋愛をしたことがない俺は『脈あり』というものがどのようなものかよくわからないのだが。


「今は考え中。まあ、いつも通り五木と行ったりするかな」

「あ、五木君か……」


加奈は少し目を伏せる。ん? もしかしてまだ決めてないとかのほうがよかったのかそう思い、もう一言加える。


「あ、でもあくまで予定だから。五木も他の誰かと行くかもしれないし」

「そう、だよね」


加奈は伏せていた目をあげ、視線をこちらに戻す。少し悲しそうな表情もまた、いつものにこにこに戻っていた。


「加奈―、ちょっときてー」


誰かが加奈を呼んだ。


「あ、今行く! 一君、じゃあ明日の部活で!」

「ああ」


結局誘えずじまいだった。



7月29日


 あれからというもの、なんだかんだで加奈を夏祭りに誘うことができていない。五木には催促されているのだが、どうやって話を切り出せばよいかわからないでいる。やはり、あの時誘っておけばよかったと後悔している。まあ、過去には戻れないから後悔してもしかたがないのだが。


「一君? 元気ないね。何かあった?」


美咲が尋ねてくる。美咲とはあの事件から少しは話していたが、だんだんと俺から離れるようになっていった。どうしても俺は同じ小学校の人に非難されるので、それが美咲にまで広がったら…。そう考えているうちに、距離を置くようになった。


「あ、うん。ちょっと考え事」


こうして話すのも久しぶりなような気がする。美咲にはあの事件があったあとも俺が殺したわけじゃないと五木と一緒に主張してくれた。でも、俺が申し訳なくなってやめてもらった。二人には被害が出てほしくなかったから……


「なんか、こうして話すのも久しぶりだね…」


まるで考えていることを読まれているかのように話されたので、少し驚いた。


「ん? どうしたの?」

「いや、なんでもない」


どうやら、驚きが顔に出てしまっていたようだ。


「そう、ならいいけれど」


意味深な間をとってから話を続ける。


「もし、何かあっても無理したりしたらダメだよ」

「あ、え? あ、うん」


急におかしなことを言いだすので、すっとんきょうな返事しかできなかった。


「それじゃ」


そういって、美咲は迎えの車に乗って行ってしまった。



8月3日


 今日はサーキットトレーニングでとても疲れた。昨年も何度かやったが、どうも慣れない。メニュー表にこの名前があるとその一週間やる気が落ちてしまう。そんな時は、アニメでも見て気分を紛らわしている。そういえば、今季はあまり面白そうなアニメがないんだよな。そんな話は以前加奈ともした。


「今季なにか面白そうなのある?」


加奈はそう尋ねてきた。


「うーん、なんとも言えないよね。最近はさ、話の展開が似通ってきてるんだよ」

「あー、それねー。分かる」


それから加奈とは個人的にはあれが一番面白いだの、あのアニメの伏線回収はすごかっただのと話し

ていた。そんなくだらない会話をしているのが楽しかった。いつまでもこの時間が続けばいいのに、と思うほど。


「よっしー!」


五木に呼ばれて後ろを向く。


「五木、どうした?」

「まだ、誘ってないの?」


早速その話か。五木は最近この話しかしてこない。女子か! というほど人の恋愛に首を突っ込みでくる。まあ、迷惑にならない程度だからいいが……


「まだだよ」

「えー! うそでしょ! 早く誘わないと他の男に取られちゃうよ!」


他の男に取られちゃうって……。やはり女子みたいな発言をする。


「大丈夫だって」

「何をもって大丈夫と言っているのかな?」

「ん? どういうことだ?」


なんとも意味深な発言をする。まあ、こういう時ほどなんの意味もないことが多いんだが。


「せんぱーい!」


話が途切れたところで誰かが駆けつけてきた。


「おお、健太かー」


健太。本名を中道健太なかみちけんたという。俺のことをすごくしたってくれている。小学校の頃はあまり友達がいなかったようで、俺が仲良くしてくれることがすごく嬉しいらしい。健太は、かわいらしい顔をしていて、大会に行くとたまに女と間違えられることもしばしばある。男の俺でさえかわいいと思うから。だからといって、彼自身は女の子らしくするつもりもないらしく、また男が好きとかそういうこともないらしい。


「で、健太どうしたんだ?」


尋ねてみる。


「あの、少し勉強を教えてほしいんですけど…」


俺はまあまあ頭のいいほうだ。だから、ときどき勉強を教えてと頼まれることがある。


「おお、もちろんいいぞ。で、場所はどうする?」

「そうですね…」


健太が考えている、その途中に五木が口を開く。


「俺の家は?」

「五木先輩の家ですか。僕はいいですよ」

「俺もいいけど」

「じゃあ、俺の家できっまりー!」


そうして、午後は五木の家で勉強会となった。


 勉強会といっても、友達と集まって集中して勉強ができる訳がなく、いつの間にかパソコンで占いを初めていた。


「じゃあ、次はよっしーやってみてよ」

「おれか、よし」


さっそく占いをはじめてみる。占いの内容は「朝起きるのが苦手?」とか「アニメが好き?」とか、どうでもいいような内容で、最終的に自分の性格がわかるというものだ。二択の質問に答えていき、数分で結果が出てきた。五木は「元気がいいが、それは周りからみて。本人は無理をしやすい」健太は「信頼している人にはとことん尽くす。ただ、やりすぎには注意」という結果に対し、俺は…


「『冷静沈着。でも、感情的になりやすい』だって? なんか矛盾してないか?」

「冷静沈着、一先輩はクールって感じしますからね! でも、感情的って…?」


俺はあまり感情的にならないタイプだと自分で思っている。


「よっしーが感情的か。逆に見てみたいかも!」


見てみたいかも! といっても、俺の性格は感情的という結果なんだが……


「って、勉強しなくちゃだめじゃないですか!」


おっと、そうだった。休憩といってかれこれ一時間ちかく遊んでいた。さあ、勉強に戻らなくては。

 健太が教えてほしかったのは関数らしい。まあ、関数も応用問題は難しいものもあるからな。俺は関数、好きだけど。


「まず、ここの座標わかる?」

「えっと、yが5だから(8,5)ですかよね」

「あってるよ。じゃあ、こっちは?」

「さっきの座標のxが8だから、そこを通る曲線で。あ、そうか!」

「わかった?」

「はい! わかりました、ありがとうございます!」


 こんな感じのやりとりが数時間続き、いつの間にか夕暮れとなっていた。そろそろ帰らなければいけないと思い、帰り自宅をしていると、五木のお兄さん。和仁かずひとさんが部屋に入ってきた。


「ちょ、兄さん! 入るならノックしろよ!」


五木が和仁さんに向かってどなる。和仁さんは背が高くて、ひょろっと痩せたシルエットだ。しかし、筋肉がない訳ではなく、意外と力持ちなのだ。何だかの研究をしているらしいが、俺には分からない。ただ、眼鏡をかけて、髪の毛は少しぼさっとしているから研究者っぽいのは確かである。


「すまんな、次から気をつけるよ」

「で、何の用?」


五木がたずねる。


「ああ、一君に用事があって。ちょっといい?」


和仁さんが手招きをする。こっちにこいということだろう。なんの話をするのかは知らないが、席を立ち和仁さんの近くに行った。すると、和仁さんは小さな声で質問をしてきた。


「一君は、その、どんな感じの人が好きなのかな?」


はい? なんで好きな人の話? まあいいや。


「えーっと、やさしい人で、明るい人ですかね」


戸惑いながらも質問に答える。


「じゃあ、どんな男の人をかっこいいって思ったりする?」


今度は男? 一体和仁さんはなにをするつもりなんだ? 確かに、和仁さんとは一緒にゲームしたり、話をすることはあるけれど、こういう質問をされたことはなかったから、すこし薄気味悪くなってきた。


「かっこいい……。あ、しゃきっとしてる人ですかね」


なんかうまい表現が出てこない。こう、しゃきっとしている人だ。


「しゃきっと? 具体的には?」


なんでそこまで追求してくるかな。


「なんていうか、こうピンっとしてきびきびっとしてる感じ?」

「はあ」

「もう、いいですか? 」


なんだか、いつもとは違う和仁さんに恐怖を覚えながら聞いてみる。


「ああ、戻ってもいいよ。ありがとね」

「いいえ」


それからさっさと部屋に戻る。


「なにされたの?」


部屋に戻るなり五木にきかれる。別に何ってこともないけど。


「質問をされたけど」

「質問? ああ、兄さん研究の材料にでもするつもりなのかな」


研究か。もしかしたら、そうなのかもしれない。そう一人合点し、その日は家へと帰った。



8月11日


 いよいよお盆休みが始まろうとしているのに、今日も部活があった。汗だくになりながら、グランド整備をする。先にみんなを帰らせて、用具は俺が片付けていた。その時ふと誰かのキーホルダーが目に入った。これは、美咲が持っていたもののようなきがする。忘れたのかな? まあ、今度あったら渡そう。そう思いポケットにキーホルダーを突っ込む。あれ? そういえば美咲最近部活に来てないな…。何かあったのだろうか? そうだ、今日は五木も部活に来てなかったな。具合が悪いとかなんとか…。


 そんなことを考えながら駐輪場にむかっていると、突然地面が揺れだした。地震ではないような揺れ方だ。まあ、今は学校で工事が行われているから、その関係かもしれない。幸い、その揺れで何かが落ちてくることはなかった。ほっとしながら駐輪場から自転車を引っ張ってくる。夏の部活には自転車でよく来ている。家から学校はそんなに遠くないので苦労はしないが、学校前の坂がとても急だ。あそこの坂はいつも自転車を押してくる。帰りは楽なんだけどな。

 

 シャーっとその坂を下りていく。その時急にクラクションが鳴った。あわててブレーキを握る。勢いよく下りていたせいで、曲がった道の車に気がつかなかったようだ。


「すみません!」


自転車を止め、車に向かって頭を下げる。


「大丈夫だったか? 今度はきをつけろよ!」


優しそうなおじさんだったため、怒られることはなかった。しかし、もし少しでも遅れていたら死んでいたかもしれない。そう考えるとぞわっと鳥肌がたった。


 家に帰ると美咲の母親から電話があった。どうやら二日ほど家に帰ってこないらしい。そこで、どこかで見かけなかったかという内容だった。夏休みの間、少しだけ出かけることはあったが、見かけてはいなかった。美咲の母親も、警察に捜索願いを昨日出したらしいが、未だにみつかっていないそうだ。美咲は夜遊びするような人じゃないから、何かあったのだろうか…。しかし、俺には何もできない。今度見かけることがあったら知らせよう。しかし、警察が一日捜査しても見つからないとは、もしかしたら…。いや、そんなことは考えないでおこう。美咲に限ってそんなことはないはずだ。きっと――



8月13日


 その日は電話で目が覚めた。ぼんやりとする視界の中で時計を探してみる。午前九時。休みの日はいつもこれくらいに起きている。俺はどっちかというとインドアタイプだから、休みの日も遅くまで寝てごろごろと過ごすことが多い。よく、「休み無駄にした感じ」というのがあるが、ごろごろすることが休みの目的なのではと疑問に思う。時計の次に電話を探す。そして、受話器を取り上げぼーっとしたまま電話に出る。


「もしもし?」

「もしもし。上原加奈ですけど、吉田一さんのお宅ですか?」


加奈? ぼんやりとした頭の中が急激に覚めてくる。


「あ、はい。一ですけど」

「あ、一君? えーっと、少しいいかな?」

「何? なにか用事?」


加奈の用事とは一体なんだろう? 胸の鼓動が速くなる。ふーっと息を吐きたかったが、加奈に聞こえるとあれなので我慢した。


「夏祭り、一緒に行かない?」


夏祭りか。残念だけど今年は加奈を誘うつもりだから……あれ? 今誘ってるのは加奈?


「あ、急だったよね? ごめん」


えーっと、なんて返事すればいいんだ?


「あ、えと、いいよ。一緒に行こう!」


あれ、なんか変だな。まあいいか。


「いいの? ありがとう!!」


とここまで話して思った。もしかしたら、みんなで集まってそのついで、的な感じだと、まるで合コンの数合わせみたいになってしまう。その可能性もあるのに勝手に一人で舞い上がっていた。少し、聞いてみよう。


「「あのさ」」


声がかぶってしまった。


「一君、先にいいよ」

「あ、うん。」


いったん深呼吸をする。どんな返事がきても同様しないように。よし。


「加奈は誰かと行くつもり?」


さて、なんと返事がくるか。


「それ! 私も聞こうと思ってたの!」


そうか。それで、加奈は誰かと行くのだろうか?


「一君は一人なの?」

「そうだけど…」


「私もそのつもりだったの! 二人だと、緊張しちゃいそう」


そうか、加奈も一人で行くのか。俺も一人だから……


「え? 二人きりで行くつもりだったの?」


まさか、加奈から誘われたうえ、二人で行こうといわれるなんて!!


「だめ、かな?」


そんなわけない。むしろウェルカムだ。


「いいよ! じゃあ、待ち合わせどこにする?」

「広場に、そうだね六時くらいがいいかな?」

「わかった。それじゃあ、夏祭りで!」


その後電話が切れたが、加奈のあの声はまだ耳に残っていた。「二人だと、緊張しちゃいそう」というセリフ。緊張しちゃうということは、もしかして、両想い!? そんなことを考え浮かれながら、朝ごはんを食べに下へと降りて行った。


 朝ごはんは基本ご飯を食べる。ただ、休みの日は簡単にパンで済ませることが多い。今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。いつものことのなので聞き流そうとしていたが、画面にテロップが出て思わず声が出た。


「夏祭りに、脅迫状?」


どうやら、『十和田市の夏祭りを開催させると、会場を爆破させる』といった内容の脅迫状が届いたらしい。


「いやね。最近物騒なニュースばかり」


確かに物騒なニュースだった。しかし、それよりも加奈との約束のほうが俺は気がかりだった。加奈を誘おうと思って、そしたら加奈に誘われ、しかも二人きりでいくことになった夏祭り。それが中止になんかなったら……。


「あんた、夏祭り五木君とでも行くつもりだったの?」


母が訪ねてくる。


「ああ、まあ友達と行くつもりだったけど」

「いくなとは言わないけど、あんまりお勧めはできないねえ」


加奈とのせっかくの約束から、少し遠ざかってしまった。


 その夜、加奈に電話をかけることにした。


「もしもし」

「あ! 一君? あのニュース見た?」


あのニュースとはきっと夏祭りの脅迫状のことだろう。きっと加奈もそのことを気にしていたに違いない。


「夏祭り、実施されるといいね。だって、せっかく一君と二人き……なんでもない。」

「ん? そんな途中まで言われたら続きが気になるだろ?」

「もう! そういうことに関しては追及したがるんだから! とにかく、実施されるように祈りましょ! おやすみ!」


その言葉を最後に電話は切れてしまった。



8月14日


 今日は五木の家に行く約束をしていた。最近部活に来ていなかったが、あってみるといつも通りの五木だった。体調でも崩していたのだろうか。


「さあ、入って」


五木の部屋に案内された。五木の部屋の床には雑誌、CD、ゲーム、それになにかよくわからないものが散乱していた。


「もう少し片付けたらどうなんだ?」

「いい? これが俺にとって理想の環境だ! 椅子に座ったままたいていの用事は済む。まさに画期的じゃないか!」


部屋が汚い人によくあるいいわけだ。俺は特に潔癖とかきれい好きとかそういった部類の人間ではないが、部屋は奇麗だ。まあ、ものが少ないということもあるとは思うが、それでも五木の部屋は汚いと思う。第一「これが理想の状態だから」「どうせすぐ使うし」「ほら! ここからでも使えるでしょ!」と言っている人の部屋は九割汚い。


 どうにかものを踏まないようにして、五木の机のそばまで向かった。机の上には科学雑誌が開きっぱなしでおいてあった。タイトルは「タイムトラベルの可能性」で、近い将来タイムマシンができるかもしれないといった具合の内容だった。


 タイムトラベルに関しては以前ゲームに出てきて調べたことがあった。11の理論があって、中性子星理論、ブラックホール理論、光速理論、タキオン理論、ワームホール理論、エキゾチック物質理論、宇宙ひも理論、量子重力理論、セシウムレーザー光理論、素粒子リング・レーザー理論、ディラック反粒子理論がある。しかし、理論同士が矛盾したり、そもそも存在が確認されていない物質が必要だったりなど、実質的に不可能であるとなっていた。また、タイムトラベルにはパラドックスというものがあって有名なのが親殺しのパラドックスだ。過去に行って子供が親を殺すというものだ。そうすると、親は死ぬ。その原因は子供。しかし、親が死ぬため子供が生まれない。結果的に親を殺した人物がいないため、親は死ねないということになる。

 

 要は生まれていない人物に殺されるわけだ。ドラえもんをみていると、のび太君が過去に行ってお母さんと話して「大変! 僕が生まれなくなっちゃう!」と言うことがあるが、実際そんなことをしたら世界の崩壊を引き起こす可能性もあるらしい。それにしても、なんで五木がこんな雑誌を読んでるんだ?ページをめくろうとすると、五木に雑誌を取り上げられた。


「なんで雑誌読むの? よっしーは僕と遊びにきたんでしょ? 雑誌を読むためにきたんじゃないだから!」

「ああ、ごめん」


つい雑誌を読むのに夢中になってしまっていた。


「さて、何をしようか?」


 さっそく鞄からゲーム機を取り出す。このゲーム機は最近発売されたもので、特徴的なのがプレイヤーが開発したゲームを気軽に投稿し、そしてアプリケーションとしてダウンロードし遊べるということだ。基本的に投稿するのもダウンロードするのも無料でできる。しかし、人気がないゲームは一カ月で削除されるらしい。俺は投稿したことがないからわからないけど。最近はゲームだけでなく、ビデオチャットができるアプリなど、実用的なものも増えてきた。俺と五木もそのビデオチャットのアプリで連絡を取ることがある。


「俺さ、面白そうなゲーム見つけたんだー」


 そういってあるゲームを立ち上げる。俺が好きな謎解きのゲームらしい。五木は俺のことをよくわかっているな。早速ゲームをプレイした。


 夕方になり、そろそろ帰ろうする。


「そうだ! よっしー、加奈とはどうなった?」


珍しくその話をしないと思っていたら、最後に話題になってしまった。


「一緒に行くことになった」

「やったじゃん! じゃあ、告白は?」


告白!? そこまで考えていなかったな……


「誘われたんでしょ?」


なんでそれを五木が知っているんだ? 田舎のネットワークは怖い。


「まあ、そうだけど」

「じゃあ、やるしかないじゃん!」

「でも、俺じゃあ…」

「俺じゃあなにさ! そんなに自分に自信がないの?」


自分に自信がない。その言葉であの日のことがよみがえる。俺は自信を持って無罪を主張できなかった。身の潔白を主張できなかった。二人は頑張ってくれたのに、俺だけ逃げてしまった。もう、あのときみたいな後悔を俺はしたくない。そうだ、もう、逃がすわけにはいかない!


「わかったよ。頑張ってやってみる」

「おお! そのいきだ! がんばれー! 応援してるぞ!」

「よし、じゃあさっそく家に帰ってどうするか考えてみる」

「おう、じゃあまた今度!」


玄関まで五木は俺を見送り、ゆっくりと扉を閉める。


「よっしー、ごめんな。よっしーにはこれ以上つらい思いをさせたくない。よっしー、君は必要なんだ。みんなに……」



8月15日


 夏祭りは予定通り実施された。広場には六時の少し前に到着した。どうやら、加奈は

まだ来ていないようだ。広場の鐘の近くに立って待つことにする。この鐘は一時間ごとに音楽を鳴らす。俺はふるさとしか聞いたことがないが、ほかの音楽もあるらいい。まあ三代目やセカオワとかそういったジャンルの音楽でないことは確かんだが。そんなことを考えながら鐘を見上げていると後ろから肩をたたかれた。


「はーじめ君!」


振り向くとニコニコとした顔がまじかにあり、少し腰が抜けそうになる。


「おっと!」


その拍子に噴水の池に落ちそうになる。


「きゃあ!?」


加奈があわてて手をつかんでくれたおかげで池に落ちずにすんだが、そのまま前に倒れてしまい、加奈に覆いかぶさる形になってしまった。


「うわあ! ごめん!」


あわてて起き上がる。


「私はいいよ。それより大丈夫だった? 服、濡れてない?」

「ああ、大丈夫だよ。加奈は?」

「うん、なんともないよ」


それから二人で見合った。自然と笑いがこみあげてくる。こんなに誰かと笑ったのは久しぶりのように感じた。


 それから何時間かたったが、俺はなかなか加奈に話しかけられずにいた。屋台も一通り見終わり、さて告白をどう切り出そうかと考えていた時だった。


「ねえ、どうしたの? 楽しくない?」


しまった、加奈に心配をさせてしまった。俺がリードとらなくてどうするんだ!! くっそ、どう挽

回したらいいんだ?


「いや、ちょっと緊張しちゃって……」


まあ、へたにフォローするより率直に言ったほうがいいだろう。そう思って発言をした。まさか、その発言のせいでああなるとは思ってもいなかったが。


「緊張か。私も二人っきりって初めてだから緊張してたの。だからさ、競争しない?」

「競争?」


いきなりなんだ? 競争? まさか、陸上部だから走って緊張を解こうという加奈なりの提案なのか? ならば、やるしかないな。


「わかった! で、どこまでにしよっか」

「じゃあ、あの櫓まで」


櫓とは、今年はなにやらイベントを用意しているらしく、打ち上げ花火と同時にこの櫓でなにかをす

るらしい。そのためにサ、えーっとサが最初につく会社だったような…まあいい、とにかくそのなんとか建設が作ったらしい。ほとんどが木でできていて、上に登るにははしごで登るようになっているらしい。


「わかった。よし、全力で行くぞ!」


足をパンパンとたたく。スタート前の俺の癖だ。


「スタート!」


加奈が勝手にスタートする。


「おい! ずるいぞ!!」

「いいの! ハンデ!」


笑いながらこちらを振り向いてくる。加奈はもともと俺より脚がはやいのに何がハンデだよ。また、自然に笑えた。どうやら緊張も少しはほぐれたようだ。


 結局加奈に追いつけず、先に加奈は櫓についてしまった。


「はっやくー!」

「ちょ、速いよ!」


全力で走ったな。きっと。まあ、勝負事は全力だから面白いのだが。全力出しすぎじゃないか?櫓をみるとかなり距離がある。どんだけ速いんだよ……


「あとちょっとだよ!」


その応援を聞いた時だった。一瞬で加奈を煙と火が包み込んだ。そのあと爆発音が耳に届く。気がつ

くと、加奈が立っていた位置には誰もいなかった。そこには、真っ黒に、炭のようになった、誰かがいた。


「加奈? ウソだろ?」


爆発? なんで? なんで加奈が?加奈が死んだと理解するのには少し時間がかかった。そして、それを理解した時、あの時の記憶がよみがえる。今でも覚えている。蒼くなった美咲の顔。その口から発せられた言葉。


「ウサギにとって、ジャガイモは『毒』だよ……」


まただ。また、俺は殺した。俺がさっさと告白したらこんなことには……。俺のせいで、死んだんだ。


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