「目覚める物語」
8月11日
何度繰り返されたのだろうか? この日は。もう、何が何だか分からない。
「先輩? 大丈夫ですか?」
声をかけてきたのは健太だ。いつもは半分無視をしている状態だったが、今回はなんとなく質問に答えてみようと思った。
「ああ、大丈夫だけど……どうした?」
「いや、なんだか辛そうな顔してたので……」
そんな顔、してるつもりはなかったがもしかしたら自然としていたのかもしれない。
「それに、美咲さんが「五木君の様子が最近おかしいの、でも、私声をかける暇がなくて。だから、ちょっとお話してくれない?」って言ってて……」
美咲が、か。よっしーも前に言ってたけど、やっぱり美咲は人に気配りができるというか、些細なことに気がつける、加奈とは違った優しさの持ち主だ。
「美咲が、そう言ってたのか」
「はい」
美咲。本当に彼女を殺したらよっしーは助かるのだろうか……? いや、俺は何を考えているんだ!? でも、永遠にリープなんて不可能なんだ。俺はそう感じはじめていたことも事実だ。いずれはその時間の輪からも脱出するときがくる。じゃあ、いつ脱出するんだ? いつ、よっしーを救うんだ? いつ、覚悟を決めるんだ? いずれにせよ、どちらかの死を選択しなくてはならない。よっしーか、美咲か。俺の好きな人か、親友か……
「くそお!!」
悩んでも答えは出ない。
「先輩?」
「ああ、ごめん。最近頭痛がひどくて」
すっかり健太がいることを忘れていた。
「って、大丈夫じゃないじゃないですか!」
「そうだな……、まあ、心配するほどじゃないよ」
「そうですか……」
家に帰っても答えは出ない。決断をする勇気は出てきたんだ。なぜかは知らないでも、いずれはこの時が来るのだったのだろう。でも、どちらを選択するかは決めれない。
「五木、いいか?」
部屋の外から兄さんの声が聞こえる。
「いいよ、入って」
ドアを開けると、兄さんはいつものように足をするようにして歩いてくる。足を上げるのが面倒なのだろうか?
「で、何の用?」
「ちょっと、相談があって……」
その時、俺の頭に電流が走ったような衝撃がきた。何だこれは!!
気がつくとベッドに横たわっていた。
「五木? 大丈夫か?」
「あ、ああ」
「なんだったんだ? 今の」
どうやら兄さんも今の衝撃がきたらしい。
「さあ? まあ、何もないようだし、大丈夫っしょ」
「まあな。んで、用事なんだけど……」
意味深な間をとる。一体その口から何を話すつもりなんだ?
「俺はね、吉田一君のことが好きなんだ」
はい? どういうことだい?
「兄さん? どういうこと?」
「その、友達とかそういうのじゃなくて、こう、恋愛的なやつで……」
「え……」
俺が引いたような声を出したからなのか、兄さんは必至に弁解をする。
「いや、違う! 俺だって今まで男を好きになったことなんてない! でも、なんだか、一君と居ると……やっぱ変だよな」
それは、変なのだろうか……?
「いや、おかしくはないよ」
「嘘だ! さっき「こいつ何言ってんの?」って声出した癖に!」
「いや、それは唐突だったから……」
「そうか」
「でも、男を好きだろうと、中学生だろうと、人を好きになるってのは、いいことじゃないかな?」
「そう、だよな……」
その時、ふと頭をある考えがよぎった。よっしーは、俺だけじゃない。俺の兄さんにも必要なんだ。そして、タイムマシンを開発した当事者は俺の兄さんだ。まるで、だれかの責任にするような決断のしかただった。でも、そうでもしないと、結局また決断できないで終わっただろう……
「ん? ビデオチャット?」
すると今度は俺のゲーム機にビデオチャットの着信が来た。
「もしもし、俺か?」
「ああ」
兄さんは目を丸くして見ている。
「これ、誰?」
「ちょっと色々あってね……」
「俺かい? 俺は、未来の大谷五木だ!!」
「未来の……?」
兄さんも理解できていないようだ。
「まあ、兄さんには後で説明をするよ」
俺がそういうと、未来の俺は話を始めた。
「なあ、さっき変な衝撃がこなかったか?」
変な衝撃、そういえばさっききたな。
「あれが世界が変わった時の感覚だ」
世界が変わった時?
「それってあの近い世界になるとかなんとか」
「そう。実はその衝撃も、あまり近い世界だと感じることはできないのだが、世界が大きく変わった
時には感じることができる。つまり、ついさっき何かが大きく変わったんだ」
ついさっき、何かが変わった?
「何かって?」
「それはお前が一番知っているんじゃないのか?」
俺が、変えたこと……? もしかして……
「どちらか、決断をしたんだろ?」
「ああ。そうだよ」
「なら、その選択を信じるんだ。決して後悔するな」
「分かった……」
通話はそこで終わった。
「それで、未来ってどういうことだ?」
そこで初めて、今までの経緯を説明した。そのマシン開発の当事者に。
「そんなことがあったのか……」
どうやらまだ確証を持てていないようだ。それもしかたないだろう。
「それで、お前は、美咲を殺すと……?」
「ああ。もう、決めたんだ」
「でも、本当にそれでいいのか?」
「いいんだ。俺の手が汚れようとも、よっしーは必要なんだ!」
「そうか、じゃあ過去に戻って?」
「ああ。戻ってもう一度兄さんに話すよ。その時は、協力お願いな!」
「ああ、分かった」
正直いって、それでよっしーが助かるか確証はない。俺が殺すという必要性も感じられない。たとえば、殺し屋を雇うとか……。でも、俺が直接殺さなければいけないのだろう。きっと……




