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「二人の物語」

8月11日


 ちょうどその日が始まった時間に俺は戻ってきた。いや、もしかしたら夢だったのだろうか。いや、そんなはずないだろ。ゲーム機にタイムマシnというアプリがある時点であれは夢じゃなかったことが確定する。ということは……


 俺は急いでダイヤルを回す。今日の部活が終わった後、よっしーは死んでしまう。だとすると、逆に今日の部活が終わる前によっしーは生きてるということだ。


「もしもし、大谷五木ですけど、吉田一君のお宅ですか?」

「ああ、五木? 俺だけど……」


その声。俺は体の内側から熱くなってきた。なんていうんだろう、自分の大事な一部を取り戻したような、思わず抱きしめたくなるようなそんな感情だった。そして同時に俺にはよっしーが必要なんだと感じた。俺は、知らず知らずのうちによっしーに支えられているんだ。ならば、取り戻すんだ。俺の、俺の大事な人を!!


「五木? ずっと黙ってどうした?」

「ん? あ、ああ。ごめん。あのさ、今日の部活っていつも通りだよね?」

「時間? いつも通りだけど……予定表なくした?」

「うん、なんかどっかいっちゃったんだー」

「どっかって……。部屋、きれいにしろよ!」

「はいはーい、後でね」

「後で後ではいつまでもこないぞ! じゃあな」

「はい、じゃあ今日の部活でー」


受話器を置く。涙がその受話器に落ちる。やばい、顔合わせたら俺号泣しちゃうかも……


 どうにか無事に部活が終わった。というのも、無事というのは俺が泣かなかったということだ。しかし、問題はその後だ。どうやってよっしーを助けるかだ。まずはよっしーをつけてみる。たしかよっしーは片付けを引き受けて遅くに変えるはずだ。ということは、よっしーを遅くに帰らせなければそれは回避できるはずだ。


「よっしー、俺も一緒に片付けるよ」

「あ、いいよ。俺、ちょっと用事あるし」


いつもそういう。でも、本当は用事なんてないのがいつものことだ。心配させないために適当に嘘をつく。そんなに優しいやつなのに、なんでこんな目に……


「そっか、じゃあ先帰ってるわ」


ここで無理に残ったところで変える時間は対して変わらないだろう。だから、俺は一旦帰るふりをして待機をする。少したつとよっしーが自転車小屋へ向かってくる。すると、そこにもう一人やってくる。だがよく見えない。俺は木の後ろから見ているが、ちょうど自転車小屋近くの貯水タンクにかぶって見えないのだ。くそ、どうすれば……


「うわ!」


思わず声が出た。


「い、五木先輩!?」


健太がなんでここに? 


「お前、どうしてここに……」

「いや、一先輩と一緒に帰ろうと思って待ってたらなんだか出ていけない雰囲気になっちゃって……」

「そうか……」

「あれ、美咲さんですよね?」

「え? そうなのか?」


位置をずらしてみてみる。本当だ。美咲だ。だが、どんな用事なんだ? いや、考えなくてもわかるだろう。二人きりで人気のない場所で中学生が話すことなんて数通りしかないはずだ。でも、よっしーが好きなのは加奈だったはず。まあ、前は美咲のこと好きだったけど。じゃあ、今はもしかして……


「一君、手紙呼んでくれたんだね……」


やはり美咲がよっしーを呼んだようだ。


「う、うん。そうだけど……何か用事?」


よっしーもきっと勘付いているだろう。でも、『俺に告白するんでしょ?』なんていう馬鹿は居ない。だからおかしな誤魔化しになってしまっている。そういうことだろう。


「私、ずっと、一君のこと好きだったんだ……」

「そ、そうなんだ。ありが、と」


おい! 言葉がかたことだぞ!


「先輩……」


健太もじっとその様子を見ている。一体健太はどんな気持ちでこの様子を見ているのだろうか? だいたいその潤んだ瞳はなんだ!


「健太、ちょっといい?」

「なんですか?」


ひそひそ声で話を続ける。


「よっしー、小学校のころにトラウマがあるんだ」

「トラウマですか?」

「ああ。それで美咲はその時の事件に巻き込んでしまったって、よっしー後悔してるんだよ」

「後悔ですか……?」

「うん。だから今はあんまり前みたいに接してないんだよ。それに、小学校時代一緒だった人とは俺以外とはなかなかつるまなくて……」

「そうなんですか……。それって、以前一先輩が言っていた地獄の誕生日のことですか?」


地獄の誕生日? そんなこと言っていただろうか? でも、たしかあの事件は8月30日に起きたはず。


「たしかによっしーの誕生日に事件は起きたよ」

「やっぱり」


それから健太は口を閉ざしてしまった。どうやら話している間によっしーと美咲は話終わったようだ。よっしーは自転車の鍵を外す。どうしよう、今出ると話を聞いていたことがばれてしまう。でも、今行かないと……


「先輩! 一緒に帰りましょう!」


俺がごたごたしているうちに健太が先に木の陰から出てよっしーへと接触した。


「お前、そこにいたのか……? じゃあ、今までの話を……?」

「話? 僕はちょっと前に自転車で来た時この辺に落し物して、その時夕方で暗かったので今来て探しただけですよ」


なんとまあ適当な嘘だろうか。


「そうか、悪いな。ちょっと今日は一人で帰りたいんだ……」

「そうですか……」


それだけ言ってよっしーは自転車をこいで行ってしまう。その後少し経って健太もそれを追いかけた。


「あ、ちょい待て!!」


あわてて俺も追いかける。くそ、このままじゃまたよっしーは!! その時だった。激しいブレーキ音。そしてクラクション。まさか……。俺は漕ぐ足をもっと速めた。すると先ほど坂を下りた健太が今度は泣きながら坂を上ってくる。


「おい! 健太!? 何があったんだ!?」


反応はない。ただひたすらに坂を登って行ってしまった。そして、俺の目に飛び込んだのは……


「嘘、だろ……」


いや、嘘じゃないことは俺がよく知っている。これは、よっしーの、吉田一の死体だ……。


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