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「永久不変の物語」9-C

8月13日


 俺は決めた。俺自身を犠牲にし、二人を守る。それが俺の選択だ。俺の目的は『加奈、五木、どちらも死なせない世界にする』ということ。そのことについて考えた時、『加奈、五木』が死ななければ、世界は塗り替えなくても大丈夫なのではないかと思った。つまり、俺が永遠にリープを続けることで、二人は俺の世界で生き続ける。目的は果たせているのだ。いつか、俺はこんなことを言っていた。




「今季なにか面白そうなのある?」


加奈はそう尋ねてきた。


「うーん、なんとも言えないよね。最近はさ、話の展開が似通ってきてるんだよ」

「あー、それねー。分かる」


それから加奈とは個人的にはあれが一番面白だの、あのアニメの伏線回収はすごかっただのと話していた。そんなくだらない会話をしているのが楽しかった。いつまでもこの時間が続けばいいのに、と思うほど。




その願いが今叶うところだ。俺の手によって、その願いは実現するんだ。それほど素晴らしいことは、もうないだろう。



8月15日


 永遠のリープを決めてから一回目のリープが来た。といっても、リープをすること自体は初めてではないので、それほど緊張したり、気を張るようなことは無かった。むしろ、これが当たり前になっていかたから……




×月×日


 今日は何日で、何回リープをしたかなんてもう分からない。ただひたすらに、同じ日々を繰り返す。

朝ごはんを食べるために下に行く。朝ごはんは基本ご飯を食べる。ただ、休みの日は簡単にパンで済ませることが多い。今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。

今日は五木の家に行く約束をしていた。最近部活に来ていなかったが、あってみるといつも通りの五木だった。体調でも崩していたのだろうか。


「さあ、入って」


五木の部屋に案内された。五木の部屋の床には雑誌、CD、ゲーム、それになにかよくわからないものが散乱していた。


「もう少し片付けたらどうなんだ?」

「いい? これが俺にとって理想の環境だ! 椅子に座ったままたいていの用事は済む。まさに画期的じゃないか!」


部屋が汚い人によくあるいいわけだ。俺は特に潔癖とかきれい好きとかそういった部類の人間ではないが、部屋は奇麗だ。まあ、ものが少ないということもあるとは思うが、それでも五木の部屋は汚いと思う。第一「これが理想の状態だから」「どうせすぐ使うし」「ほら! ここからでも使えるでしょ!」と言っている人の部屋は九割汚い。


 どうにかものを踏まないようにして、五木の机のそばまで向かった。机の上には科学雑誌が開きっぱなしでおいてあった。タイトルは「タイムトラベルの可能性」で、近い将来タイムマシンができるかもしれないといった具合の内容だった。


 タイムトラベルに関しては以前ゲームに出てきて調べたことがあった。11の理論があって、中性子星理論、ブラックホール理論、光速理論、タキオン理論、ワームホール理論、エキゾチック物質理論、宇宙ひも理論、量子重力理論、セシウムレーザー光理論、素粒子リング・レーザー理論、ディラック反粒子理論がある。しかし、理論同士が矛盾したり、そもそも存在が確認されていない物質が必要だったりなど、実質的に不可能であるとなっていた。また、タイムトラベルにはパラドックスというものがあって有名なのが親殺しのパラドックスだ。過去に行って子供が親を殺すというものだ。そうすると、親は死ぬ。その原因は子供。しかし、親が死ぬため子供が生まれない。結果的に親を殺した人物がいないため、親は死ねないということになる。


 要は生まれていない人物に殺されるわけだ。ドラえもんをみていると、のび太君が過去に行ってお母さんと話して「大変! 僕が生まれなくなっちゃう!」と言うことがあるが、実際そんなことをしたら世界の崩壊を引き起こす可能性もあるらしい。それにしても、なんで五木がこんな雑誌を読んでるんだ?ページをめくろうとすると、五木に雑誌を取り上げられた。


「なんで雑誌読むの? よっしーは僕と遊びにきたんでしょ? 雑誌を読むためにきたんじゃないだから!」

「ああ、ごめん」


つい雑誌を読むのに夢中になってしまっていた。


「さて、何をしようか?」


さっそく鞄からゲーム機を取り出す。このゲーム機は最近発売されたもので、特徴的なのがプレイヤーが開発したゲームを気軽に投稿し、そしてアプリケーションとしてダウンロードし遊べるということだ。基本的に投稿するのもダウンロードするのも無料でできる。しかし、人気がないゲームは一カ月で削除されるらしい。俺は投稿したことがないからわからないけど。最近はゲームだけでなく、ビデオチャットができるアプリなど、実用的なものも増えてきた。俺と五木もそのビデオチャットのアプリで連絡を取ることがある。


「俺さ、面白そうなゲーム見つけたんだー」


そういってあるゲームを立ち上げる。俺が好きな謎解きのゲームらしい。五木は俺のことをよくわかっているな。早速ゲームをプレイした。

 そのあとは天井をボーッとみつめるだけ。そして九時になったらリープする。




×月×日


 朝ごはんを食べるために下に行く。朝ごはんは基本ご飯を食べる。ただ、休みの日は簡単にパンで済ませることが多い。今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。




×月×日


 朝ごはんを食べるために下に行く。朝ごはんは基本ご飯を食べる。ただ、休みの日は簡単にパンで済ませることが多い。今日もトーストを焼きながら冷蔵庫からイチゴジャムを取り出していると、テレビから淡々とアナウンサーの声が聞こえてきた。




×月×日


 今日はもう何もしたくない。ずっと部屋にいたい……




×月×日


 ずっと部屋にいる。とくに変化はない。




×月×日


 特になし




×月×日


 特になし




×月×日


 特になし




8月13日


 体感的には5、6年は軽く超えたのではないかというくらい三日間を続けてきた。そのせいか、少しずつ世界が変動し、いつもなら訪れない客が俺の部屋を訪れた。


「健太?」


部屋に来たのは健太だ。


「一先輩、遊びに来ちゃいました」


三日間をリセットしたばかりなので、この世界で俺は引きこもっていることにはなっていない。だから、健太も俺のことを普段の俺だと思っていただろう。しかし、普段の俺とは違う、その変化を健太は見逃さなかった。


「一先輩、どうしましたか?」


どうしましたか? 特になし。


「先輩? 大丈夫ですか? 顔色悪いですよ」


大丈夫か? 特になし。


「先輩ってば!」


特になし。


「先輩!」

「うおお、なんだ」


久しぶりに声が出た。


「大丈夫ですか?」

「悪い悪い、ちょっとね」

「ちょっとですか? なんかおかしかったですよ?」

「先輩に向かっておかしいとは失礼な奴だなー」

「そう、ですよね……」

「それで、何しにきたんだ?」

「いや、べつに何というわけではないんですけど、一先輩に会いたいなーと思って」

「それは嬉しいな、俺照れちゃうよー」

「そんな、照れないでください! こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃないですか!」


健太は下を見ている。照れくさいのだろうか。


「先輩、やっぱりおかしいですよ。目が笑ってない」


目が笑っていない? どういうことだ? 俺はしっかりと笑っているぞ。いや、気がついていないだけだ。俺は、俺は無限のループの中で、感情すらもなくしてしまったんだ。


「健太、俺……」


とたんに底知れぬ恐怖に襲われる。怖い。俺はいったいどうしてしまったのだろうか。怖い。俺は俺なのだろうか。怖い。いつまでこれが続くのか……


「健太!!」


思わず泣き出してしまう。


「先輩!? どうしたんですか?」


優しく背中をなでてくれる。それから、俺は、今だれかを守りたかったんじゃない。誰かに守られたかった。見方がほしかった。そばにいてほしかった。同じ世界を経験する人がほしかった。それを感じたのだろうか、健太は後ろから俺を抱いてきた。


「何があったんですか? 話して、くれませんか?」

「ああ……」


もう、涙と一緒に全てが口から出てしまう。加奈が死んでしまうこと、五木が死んでしまうこと。それを変える方法とリープをしたこと。どちらも救えないこと、ずっとリープしたこと……


「そんな……本当ですか? って、いまさらですよね。嘘なわけないし……」


信じられないだろう。でも、本当なんだ。まあ、信じてもらえなくてもいい。ただ、俺の苦しみを知ってくれる人がいるだけで、俺は少し救われる。そう思った時だった。あの感覚が訪れる。そう、世界が変わる感覚……


「嘘だろ……?」

「どうしたんですか?」

「世界が、世界が変わる!!」

「え? なんで!?」


健太には世界を塗り替えることについても説明していたので、世界が変わるという意味がわかったようだ。それにしてもなぜ今世界が変わるんだ? それを考える前に、俺は次の世界へと意識が飛ばされた……

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