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極貧お嬢と五人の執事  作者: 流星


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第五十七話

 翌朝、黒川の部屋に呼ばれた。


「お嬢。今日、佐藤さんが屋敷に来る」


「え?」


「佐藤さんには家庭教師を辞めてもらう」


「どうして? 佐藤ミサは悪くありませんよ。

 私に友達を紹介しようとしただけで。

 たまたま紹介した友達が悪かっただけで」


「危険な事からお前を守るのが俺の役目だ」


「危険って……。

 今回は私が黒川君達に内緒にしていた事が問題で、佐藤ミサに非はありません」


「今まで嘘をつかなかったお前が嘘をついた。

 お前に、嘘をつかなけらばならない状況を与えたのは佐藤さんだ」


「私だって嘘ぐらいつきますよ。

 点数の悪いテストをいつも隠しているでしょう?」


「隠す場所はいつもお前の部屋か俺の部屋の中だろう?

 初めから俺に見つけられるのを承知で隠している。

 俺に見せたくない答案も、青田君には見せていた」


「黒川。私は黒川が思っているほど、正直な人間ではありません」


「……。

 お嬢。佐藤さんに何か言われたのか?」


 私は黙って首を横に振った。


「なら、何があった? 最近のお前は、お前らしくない」


「私らしいって、何ですか?

 黒川の言うことを素直に聞いて、嘘をつかないのが私?」


「違う」


 分かっている。

 いつもの私ではないことぐらい。


 こんな事を言って、黒川を困らせるつもりはなかった。


 なのに口をついて出てくるのは嫌な言葉ばかりで、黒川の顔をまともに見られない。


「お前が納得出来ないのは分かる。

 それでも俺は、お前をなるべく危険な物から遠ざけておきたい。

 それがただの自己満足だとしても、それでお前に嫌われたとしても」


「嫌いになんか……、なりませんよ」

 

 嫌いになるわけがない。

 黒川達に助けてもらわなければ何も出来ない自分が嫌い。


「お嬢、そんな顔をするな。俺は……」


 黒川がそう言いながら私に触れようとしたけれど、私の目の前でその手を止めた。


 その時、屋敷のチャイムが鳴った。


「多分、佐藤さんだ」


 黒川は私から目線を外し、部屋から出て行った。


「黒川」


 黒川の後を追うと、青田に案内された佐藤ミサが応接室にいた。


 黒川はソファー座り、佐藤ミサと対面した。


「佐藤さん。

 昨日電話で話した通り、今日限りで家庭教師を辞めてもらう」


 黒川は電話で佐藤ミサと何を話したのだろう……。


「分かっていますよ。

 今日は今までジャージーの相手をしてあげた分の給料を貰いに来ただけですから」


 佐藤ミサが笑顔で言うと、黒川が封筒を机の上に置いた。


 分厚い……。

 いくら入っているの?


 佐藤ミサは封筒の中を確認して満足そうに笑った。


 一体いくら入っているんだー!


「黒川サン。ジャージーの成績を上げるのは無理でした」


 佐藤ミサ。

 勉強を見てくれたことなんて、一度も無かったよね?


「ああ。お嬢の成績など、端から期待していないから問題ない」


 黒川、酷い。


「黒川サン。

 最後にジャージーと二人きりで話したいから、少し席を外してもらえませんか?」


「悪いが、それは出来ない」


 黒川が即答すると、佐藤ミサはクスクス笑った。


「心配しなくていいですよ?

 黒川サンの大事なお嬢様を、これ以上傷付けるつもりはありませんから」


「佐藤さん。このまま何も言わず帰ってもらえないか?」


「黒川。私も佐藤ミサと話がしたい」


「お嬢……」


「黒川。二度と佐藤ミサには会いません。

 だから最後に少しだけ……」


「……」


「お願いします」


「……分かった。

 部屋の外で待っている。何かあれば、すぐ俺を呼べ」


 黒川が部屋から出て行くと、私は黒川が座っていたソファーに腰を下ろした。


「私、相当黒川サンに嫌われているみたいね」


 佐藤ミサが小さく笑った。


「佐藤ミサ、ごめんなさい」


「何が? 何に対して謝っているの?」


「こんな事になってしまって」


「フッ……。

 アンタ、馬鹿じゃないの?

 自分を陥れようとしていた相手に謝るなんて」


「陥れる……。どうして?」


「だからアンタみたいなお嬢様は嫌い。

 本当は悪いと思っていないくせに、いい子ぶろうとしてすぐ謝る」


「そんな事……」


「守られた安全な場所から人を見下すのは、どんな気分?」


「見下してなんか……」


 佐藤ミサが何故こんなに怒っているのか分からなかった。


 多分、分からないところも含めて、佐藤ミサは私の事が嫌いなのだろう。



 『ごめんなさい』という言葉は、むやみに使ってはいけないと、誰かが言っていた。


 その理由は今でも分からない。


「佐藤ミサ……。佐藤ミサとなら、いつか友達になれるかもしれないと思っていました」


「友達? そんなもの、要らない」


「……」


「止めて。そんな顔をしないでよ。

 何なの? アンタなんか……!」


 佐藤ミサが声を荒らげると、部屋の扉をノックする音が聞こえた。


「フッ……。分かるでしょう?

 アンタはいつも誰かに守られて生きている人間で、私は……」


 佐藤ミサがそう言いかけた時、扉が開いて黒川が部屋に入ってきた。


「最後だから教えてあげる。

 アンタの事を陥れようとしているのは私だけじゃない」


「佐藤さん」


 黒川が佐藤ミサを部屋の外へ連れ出そうとすると、佐藤ミサが私の耳元で囁いた。


「敵は意外と近いところにいるから。

 気を付けてね、お嬢様」


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