閑話(白石とお嬢の日常)その一
白石の朝は早い。
白石は潔癖性なので、
主に掃除と洗濯を任されている。
白石の洗濯方法は独特だ。
洋服の素材や色物柄物、
着ていた人や汚れ具合など、
全て分別し、最低三十回は洗濯機を回す。
洗濯物を洗濯機に投入する時は、
ゴム手袋とマスクを装着し、
特別に作らせたステンレス製の箸で
一枚一枚投入していく。
三十回も回せば、
それだけで一日が終わってしまいそうな
気がするが、
そこは金持ちの考えること。
白石のためだけに注文した
特製洗濯機が三十台設置された
ランドリールームがある。
爺ちゃん、白石を甘やかしすぎ。
そして私の朝も早い。
白石に下着だけは……。
どうしても下着だけは見られたくないので、
洗濯機が回っている間にコッソリ入れて、
洗濯終了後に回収し、自分の部屋に干す。
ちなみに私専用の洗濯機には
『お嬢・汚』『お嬢・普通』というラベルが
貼られている。
当然、私の下着は『お嬢・汚』の
洗濯機の中に入っている。
今日も洗濯機がクルクル回っているのを確認し、
誰にも見られないように下着を投入。
後は洗濯が終わるのを見計らって
洗い上がった下着を取りに行く。
うっかり回収し忘れると、もう悲惨。
白石に洗って干されてアイロンまで掛けられて、
真空パックの袋に入った状態で戻ってくる。
白石に下着を見られた恥ずかしさはまだ良い。
ブラジャーに入れて底上げするためのパッドが、
アイロンと真空パックによって
ぺっちゃんこになっていた時は泣いた。
しかもご丁寧に
白石手書きのメッセージカード付き。
『お嬢、色づくのは十年早いですよ。
それに偽乳など、あっという間にバレますよ。
お嬢は顔と性格で勝負しなさい。白石』
白石、達筆だな……。
最初の文章はさておき、
最後の一文に感動したよ。
私はメッセージカードを、
ぎゅっと握りしめた。
……あ。
裏にも何か書いてあった。
『まぁ、顔と性格で勝負しても、
駄目なものはダメですけどね。
気を落とさずに』
その日、
私の『気』が落ちて何処かへ消え去った。