表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
極貧お嬢と五人の執事  作者: 流星


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/132

第十八話

 しばらくの間、私は自分の部屋から窓の外の景色を眺めていた。


 そう言えば昨日の事をまだ青田に謝っていない。


 青田、あの後、黒川と白石をどうしたんだろう。

 黒川達と何か話をしたのかな……。


「お嬢、いるのか? プリンを買ってきたぞ」


 昨日の事を考えながらぼーっとしていると、部屋の扉をノックする音と共に赤井の声が聞こえた。


「あ、赤井。少し待って」


 私が急いで部屋の外へ出ると、赤井が箱を持ったまま、慌てた様子の私に少し驚いた顔をして立っていた。


「赤井、ありがとう。

 悪いけれど、そのプリンを黒川の部屋まで届けてもらえないかな?」


「え? お嬢、黒川君に謝りたいのだろう?

 お嬢が直接渡さなければ意味がないと思う」


「いいの。今は黒川に合わせる顔が無いから。

 お願い、赤井が持って行って」


「折角お嬢の分と俺の分も買ってきたんだからさ。

 三人で一緒に食べようぜ」


「赤井。私の事は心配しないで。

 時が来れば、ちゃんと謝りますから。

 だから私のプリンだけこの場に置いて黒川の所へ行ってください」


「はぁ? ふざけるなよ。行くぞ」


 赤井が私の腕をぐっと掴んで引っ張った。


「あー。止めてー」


 赤井に引きずられる。……赤井、強くなったな。


「黒川くーん、起きているかー? 開けるぞー?」


 赤井が黒川の部屋の扉を開くと、黒川と白石が何かを話している最中だった。


 今、一番顔を合わせたくない二人が揃っている。


「あ、赤井。のっぴきならない急用を思い出しましたので、これにて失礼します」


「は? お嬢に大事な用なんてないだろう」


「うるさい! 赤井の馬鹿ー!」


 私は赤井の手を振りほどき、走って逃げた。


「エッ? エー? お嬢! このプリン、どうするんだよー!」


「私のプリンは冷蔵庫に入れておけー!」


 私は屋敷を飛び出し裏庭へ向かった。

 裏の畑で青田が野菜の手入れをしていた。


「お嬢、そんなに慌ててどうしたの?」


「青田……、ゲッホ……、畑の手伝いを……、ゴホッ……、してもいいですカッ!」


 慌てて走ったので、心臓がドキドキしている。


 青田の近くにしゃがみこむと、青田はクスッと笑いながら立ち上がり、黙って何処かへ行ってしまった。



 ああ……。私の居場所は何処にも無いな。


 涙で滲んだ目をこすって立ち上がろうとした時、後ろからそっと麦わら帽子を被せられた。


 振り返ると、いつものように優しく微笑む青田がいた。


「日差しが弱くても割りと日焼けするからね。

 このタオルは首に巻いて。それから軍手」


「あ。……うん」


「お嬢。まだ苗を植えていないところの雑草を抜いてもらえるかな」


「はい」


 私は青田が指定した場所にしゃがみ込んで、黙々と雑草を抜いた。


「青田……」


「うん?」


「昨日は黒川と白石を放置したまま逃げてしまってごめんなさい」


「うん」


「……あの後、黒川達は何か言っていましたか?」


「気を失っている二人を布団まで運んだだけだから、何も話していないよ」


「……そう」


「……。

 お嬢は今朝、黒川君達と何か話したの?」


「白石に……。

 白石に『家族ではない』と言われました」


 私は麦わら帽子のつばをぎゅっと握って、さらに目深に被った。


「……お嬢。お嬢は皆から『家族だ』と言ってもらいたいの?」


「……」


「お嬢。『家族』という言葉は、時に人を束縛してしまう。

 将来、お嬢が自分の幸せのために、この屋敷を離れることになった時『家族』を捨てて行けるのかな。

 お嬢の性格なら『家族』の事を考えて、悩んでしまうのではないかな」


「私は今のままでいい。

 皆を捨てなければ得られない幸せなんかいらない」


「お嬢がそんな風に思っても、誰も喜ばないよ」


「分かっているよ。

 いつかこの屋敷を離れていかなければならない事ぐらい。

 でも、面と向かって『家族じゃない』と言われてしまうのは辛いの。

 今まで一緒にいた時間全てを否定されたようで、本当に辛い……」


 麦わら帽子のつばを握って顔を隠していると、いつの間にか青田が側にいた。


「僕はお嬢の涙を見たくないから、つい優しい事ばかりを言ってしまう。

 白石君だって、本当はお嬢の泣いている姿なんか見たくないだろうけど、お嬢の将来の事を考えて、わざと厳しい態度を取っているのだと思う。

 白石君の辛さも分かってあげて」


「……分かっているよ」


 家族って何だろう……。

 どうすれば家族になれるの?


 私は『家族』という言葉に憧れていた。


 それが皆の心を縛りつける言葉だなんて思いもせずに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ