第十六話
夕食時間。
私達は黒川抜きで、白石が焼いたサーロインステーキと青田達がついた餅の入った味噌汁を食べた。
餅入り味噌汁とサーロインステーキ。
うん。組み合わせがおかしい。
テーブルの上に焼き肉のタレが置いてある。
サーロインステーキに掛けて食べろという事か。
本当に肉をジュージューしただけだな。サーロインが台無し。
これはこれで美味しいけれど。
「お嬢。後で黒川君の部屋へ食事を運んでくださいね」
「えー? また私を使うのですか?
私は病み上がりなのですよ?」
「黒川君は今、お嬢のウイルスと闘っているのですよ?
お嬢は免疫が付いているから黒川君から風邪をうつされることはないでしょう?」
「……分かりました」
食事を終えた私は、料理をワゴンに乗せて黒川の部屋へ向かった。
「黒川ー。起きていますかー? 入りますよー?」
部屋に入ると、黒川はベッドで眠っていた。
呼吸が荒くて辛そうな顔をしている。
「……熱い」
黒川の頬にそっと触れてみると、まだ熱が高いようだ。
私が黒川の額に貼られていた冷却シートを剥がし、新しいシートに貼り替えていると、黒川が目を覚ました。
「お嬢……」
「黒川。
うちのウイルス達がご迷惑をお掛けしてごめんなさい」
「言っている意味がさっぱり分からない。
馬鹿の平常運転だな」
黒川の毒舌も平常運転ですな。
「俺の風邪がうつると面倒だから、早く自分の部屋へ戻れ」
「ご安心ください。
今、黒川の体中で暴れているウイルス達は、全て私が製造したものですから。
私には効きません」
「お前が製造したウイルス……。
想像すると気持ちが悪いな」
私は、小さな暗黒少女達が黒川の体内で暗黒大魔王と必死で戦っている姿を想像した。
頑張れ。暗黒少女!
「何でガッツポーズをしているんだ?」
「あ、失礼。
それより皆が黒川の為に作った晩ごはんをお届けに上がりました」
私はワゴンを黒川の近くまで運んだ。
「こちらが白石がジュージューしただけの立方体の肉、立方体の野菜添えでございます。
お好みで焼き肉のタレを掛けて召し上がってください。
そしてこちらは残りの三人が昼間にペッタンした餅入りの味噌汁です。以上!」
「……で、お前が右手に持っているものは何だ?」
「あ。これは私が黒川に見せるためだけに作ったプリンです。
あくまで観賞用なので……」
「お前がプリンを作ったのか?」
「プリンの作り方など知るわけないじゃないですか。
昨日、桃が買ってきたプリンを私が皿に盛り付けただけです」
「そのプリンが食いたい。寄越せ」
「いやいや。だからこれは観賞用なのです。
後でスタッフが美味しくいただいておきますから。
安心して他の力作を食べてあげてください」
「今は肉や餅の気分じゃないからプリンをもらう。
早く寄越せ」
クッ! 持ってくるんじゃなかった。
私は渋々、黒川にプリンを手渡した。
「……おい。切なそうな顔で俺を見るな。
それに何故鼻の穴にティッシュを詰めているんだ?
気になって食えないだろう」
「ああ。このティッシュは、つい興奮しすぎて鼻血を噴き出してしまったので、白石に詰められてしまったのです。
ドント・ウオーリー」
「何で興奮したんだ?」
「そんな事……。言えませんよ……」
期間限定のシュークリームに興奮したなんて、恥ずかしくて言えないよ。
「何、顔を赤らめているんだ? 気持ちが悪いな。
お前も一応女なんだから、興奮して鼻血なんか出すなよ」
あ。黒川が初めて私の事を女の子だと認めてくれた。
今日は私の『女の子記念日』と名付けよう。
「このプリンの上に乗っている野菜は何か意味があるのか?」
「彩りのバランスを考えて、赤のプチトマトと緑のキュウリを乗せてみました」
「……」
黒川が黙った。
きっと感心しすぎて声が出ないんだね。フフッ。
「お嬢。頼むから、鼻にティッシュを詰めて切なそうな顔で俺を見るのを止めてくれないか?」
「ドンッ・ウオーリー!」
「……」
さあ、黒川。
食欲が失せたのなら、今すぐそのプリンを私に返しなさい。
「……。一口、食うか?」
「えッ? いいの?」
黒川がスプーンですくって食べさせてくれた。
「うん。プリンの甘味とプチトマトの酸味が口の中で喧嘩して不味い!」
「だろうな」
黒川が笑いながら、もう一口運んでくれた。
「あ。キュウリのシャクシャクした食感が斬新!
プリンに合いますよ!」
「そうなのか?」
結局私は黒川に食べさせてもらってプリンを完食した。
一体何しに来たんだ。私よ……。
「黒川、ごめん。
今から誰かのプリンを強奪してくるから少し待っていて。
桃は買って来てくれた人だから駄目でしょう?
青田と白石は後々面倒なことになりそうだし……。
よし。赤井のを奪ってくる!」
「待て。お嬢」
黒川が私の手を掴んだ。
「全員分あるということは、お前の分もあるはずだろう?
お前の分を寄越せ」
「私の分は……。ここへ来る前に食べました」
「何・だ・と……?」
ギャァァー! 黒川、手を離してー!
黒川恐怖、黒川恐怖!
黒川が、ベッドの上で仰向けになった私の上に馬乗りになる。
この光景、何処かで見たことがある……。
そうだ。黒川ビュー、黒川ビューイングですよ!
「く……、黒川。
だから女の子の上に馬乗りになったら駄目なんだってば……」
「お前を女だと思った事は一瞬たりともねえな!」
『女の子記念日』の崩壊。
黒川が馬乗りになったまま、私の頬をぎゅうぎゅう押さえる。
熱のせいで今の黒川は正気ではない。
く……、黒川、止めて……。
これ以上口を押さえられると、口呼吸が出来なくて……。
『すぽぽーん』
私の鼻に詰められていたティッシュが飛び出し、黒川の額へクリーンヒット。
黒川、その場に崩れ落ちる。
……て。
私の上に乗っかったまま気を失っている。
どうするの? これ!




