閑話(桃とお嬢の日常)その二
桃と私は月に一度、ショッピングに出掛ける。
ショッピングと言っても、私は一円たりともお金を使わない。
ただひたすら、桃が女物の洋服を買い漁るのを微笑ましく見つめ、荷物を持つ。
回りから見れば、桃がお嬢様で私が付き添いに見えるだろう。
何故付いて行くかって?
ウフフ。ちゃんとした理由があるのですよ。
桃はショッピングの最後に、必ずクレープを奢ってくれる。
それが目当てなのです。
今日はイチゴにしようかなー。チョコバナナも捨てがたいよね。
新作や期間限定に手を伸ばすのも良いけれど、微妙な味だったときのあの絶望感!
ここはやはり王道でいきますか。うー。楽しみ!
「お嬢も少しは洋服にお金を掛ければいいのに。
何でいつもジャージかTシャツ姿なの?」
「白石がですね『お嬢はすぐ洋服を汚して、洗うのが大変だからジャージかTシャツしか着るな』と言ってくるのです」
「へぇ……」
それに私は洋服などにお金を掛けたくはない。
黒川が勝手にTシャツを買ってくるので、それで十分だ。
それしにても、今着ているこのTシャツ。
筆で書いたような「一本釣り」という文字。
黒川のセンスが分からぬ。
「髪型だって、もっと可愛くすれば良いのに。
何故いつもおかっぱ頭なの? 前髪切りすぎだし」
「黒川が近所の床屋で『大和撫子風のおかっぱ』とオーダーしたら、こうなったのです」
「えー? 床屋? ヘアサロンに行きなよ。
これ、ボクの行きつけのサロン。
このチケットを持って行けば十パーセントオフになるから」
桃からヘアサロンの割り引きチケットを頂いた。
え? カットだけで六千円?
トリートメントって、何?
ネイルケア? 何故、散髪屋でネイルケア?
私など、シャンプー、カット、ブロー、ヒゲ剃り込みで二千円ですよ?
黒川、何故私に金を掛けない!
「でもお嬢って、肌が綺麗だよね。
化粧品は何を使っているの?」
「え? 未成年で化粧?
あ。でも風呂上りに、青田が丹精こめて育てたヘチマを白石が化学の力で加工した『ヘチマ化粧水』を使っていますな」
「何それ、いいな!
ボクなんか一本一万円の化粧水を使っているけれど、あまり効果がなくて……。
ボクも白石君に作ってもらう!」
一本一万円の化粧水ですと?
セレブや……。セレブ過ぎて付いて行けねー。
桃とクレープを食べながら、そんな話で盛り上がっていると、黒川がオープンカーに乗って迎えに来た。
黒川……。
サングラスを掛けているのは良いが、何故私と同じ『一本釣り』のTシャツを着ているの?
黒川とペアルックでオープンカーに乗らねばならぬ、この屈辱。
黒川のセンスが、ますます分からねー。