閑話(白石の過去)その4
学校の教室に飾ってあった真っ赤な椿の花が、花ごと棚の上に落ちた。
椿の花を拾い上げると、たちまち俺の手や制服はは黄色い花粉だらけになってしまった。
水道で手を洗うが、なかなか取れない。
「白石君。病院へ急いで。
お母さんが……」
石鹸で手を洗っていると、慌てた様子の担任が知らせにやってきた。
「お母さん……、お母さん……」
俺は病院まで担任とタクシーに乗った。
病院に行くと、母の容態は少し落ち着いた様子で眠っていた。
母の唇はカラカラで、乾燥した血が所々へばり付いていた。
「君のお母さん、少し吐血をしてね」
医者が説明するけれど、頭に何も入ってこず、俺はボーッと母の顔を眺めていた。
相当苦しかったのか、涙の跡が頬を伝っていて、俺はははの顔を濡れたタオルで綺麗に拭きたかった。
「また吐血したら、ナースコールで呼んでくれるかな?」
「はい。ありがとうございました」
医者への対応は、全て担任がしてくれた。
「白石君。びっくりしたね。
でも、お母さん、きっと良くなるから。
白石君も頑張ろうね」
「…………」
俯くと涙がポタポタ落ちた。
母をこんな風にしてしまったのは俺のせいだ。
俺が花の事を何も知らなかったから。
俺が無知でなかったら、母の心を傷付ける事は無かったのに。
家に帰ると祖母に、タクシーを使って病院へ行った事を責められた。