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第八話

 私は五百円硬貨握りしめ、急いで校内のカフェテリアへ向かった。


 パン、パン、パン、パン、パン~。


 いつも黒川手製の弁当を持たされていたから、カフェテリアへ行くのは初めてだ。


 うう……。貴重な五百円。


 私は基本的にお小遣いを貰っていない。

 ごくたまに機嫌良さそうにしている黒川に一日中取り付いて拝み倒すか、奇跡的にテストで百点を取った時、やっと貰える五百円。


 まあ、自分で買う物はポエムを書き綴る為のノートとネット通販で買い求める下着ぐらいなので、あまりお金を使うことはないけれど。


 ん……?

 大きなヤカンを持ってフラフラ歩いているジャージ男。

 まさか……。やはり!


「青田ッ!」


「誰?

 ……。もしかしてお嬢? ごきげんよう」


 いや。こんな格好をしているのは私しかいないだろう。


「何でヤカンを持ってウロウロしているの?」


「臨時でこの学園の用務員になったからさ」


 うわー。またややこしい奴が増えたー。


「お嬢、朝と雰囲気が変わっているけれど、どうしたの?

 頭にチョークが刺さっているから、一瞬誰だか分からなかったよ」


 そんな微妙な変化で分からなくなるのか?

 青田はどの辺りで私を認識しているのだろう。


「包帯が緩んでいるね。巻き直してあげようか?」


「お願いします。

 チューリップハットがめり込んで、前が見えづらかったのです。

 あ。包帯は巻き直さなくていいですよ? 取ってくれるだけでいいですから」


「フフ……。お嬢はいつも楽しそうだね」


「……」


 青田と私は、中庭の木陰に座った。


 本当は楽しくなんかないんだけどね……。

 この後、体育館の裏に呼び出されているんだけどね。


「青田……」


「ん? どうしたの?」


「青田も、この学園に通っていたんだよね?」


「あれ? 知らなかった?」


 白石と同じ反応だ。


「青田、今何歳なの?」


「何歳に見える?」


 面倒な質問返しが来た。


「んー……。三十歳?」


「ハハハ。ふざけんな」


 何歳だよ。一体。


「はい。出来た」


 巻き直したのか……。取ってくれるだけで良かったのに……。

 ご丁寧にチューリップハットとチョークも付けてくれている。

 う、抜けない!


「お嬢」


 向こうから黒川がやって来た。


「お嬢、弁当渡すのを忘れていた」


「黒川、ありがとう!

 ……で。これは何なのですか?」


 透明のビニール袋の中に、パンの耳とキュウリ一本とマヨネーズが一本。


「お前の顔を考慮した結果だ。

 それより何故チョークを頭に刺している?

 ふざけているのか?」


 いえ。お前の部下達がふざけた結果です。


 突っ込む時間もないので、黒川の考慮の塊を持って体育館に向かった。



 ビニール袋に入ったパンの耳をむさぼりながら体育館の裏に向かうドジっ子ミーちゃん。

 この姿を見て逃げてくれたらいいのに……。

 何故か学園に馴染んでしまっている不思議。


 体育館の裏をこっそり覗くと、沢山の人だかり。

 何人いるんだ?

 ひぃ、ふぅ、みぃ……。無理ッ。数えられない。

 クラス以外の女子もいるよね?


 あッ! 山田までいる!

 お前は……、お前だけは私の味方だと思っていたのに。


 それにしても凄い人数が集まったな……。

 皆、白石のファンなのか……。

 白石ー。モテていますよー。モテ期到来ですよー。


 白石、この中から相手を選んで結婚すれば良いのでは?

 結婚しなくても、執事として雇ってもらうとか。


 今なら選び放題だし、もれなく全員金持ちだ。

 でも、教師と女子高生って危険な香りがプンプンするな。

 間違って白石と山田(♂)が付き合いだしたら……。


「嫌だァァァー! 早まるな、白石ー!」


 あ。つい声に出して叫んでしまった。

 体育館裏に集まっている女子の視線が全てこちらに。


「さち子さん、宜しいかしら?」


 いかにもリーダー格のような存在感を放つお嬢様が手招きをしている。


 おお。縦巻きロールの髪型が、いかにも『いじめっ子』っぽいですな。

 私など、中学を卒業するまで黒川に近所の床屋に連れて行かれていたのですからね。

 黒川が『大和撫子風のおかっぱ』と、勝手にオーダーを入れていたのですからね。

『大和撫子風のおかっぱ』って何なのさ!


「さち子さん?」


「……あ。ごめんなさい。

 つい過去のトラウマが甦ってしまって……。ふへへ」


「……」


 体育館が静まりかえった。


 そうだよね。

 この姿で「よみがえる」とか言ったら、怨念キャラ丸出しだよね。

 しかも「ふへへ」って笑っちゃったよ。ますます怨念だよ。


「さち子さん。

 実は……、私たちに協力していただきたい事があるの」


 え?


「私たち、今まで一度も人に怒られた事がなくて。

 あんなに格好いい白石先生が、さち子さんを怒鳴っている姿を見て、心がときめいてしまいました」


 え? 一度も怒られた事がないの?

 怒られて、ときめくの?

 私も黒川から逃げる時は、いつも心臓がバクバクしているけれど、あれはトキメキ?


 何一つ理解出来ない。


「白石先生が怒鳴っている瞬間を動画に収めたいのだけど、白石先生をあんなにも怒らせることは私たちには難しいの。

 さち子さん、代わりに怒られていただけませんか?」


 平和だ……。

 さすが生粋のお嬢様たち。

 白石、良かったね。私、白石のために一肌脱ぐよ。


「分かりました。

 私も山田も、人を怒らせることにかけては相当な自信があります。

 山田と力を合わせ、白石先生を怒らせまくりますから、ご安心ください」


「キャー!」


 ドジっ子ミーちゃん、人気急上昇。

 今日、学校を休まなくて良かった。


 皆、ありがとう!


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