閑話(白石の過去)その2
学校が早く終わる時は、放課後、近所の土手で四つ葉のクローバーを探した。
たまたま見つけた四つ葉のクローバーを母に渡した時、とても喜んだ母が、いつも読んでいる小説のしおりにして挟んでいたのを覚えている。
図鑑で調べると、人に多く踏まれやすい場所に四つ葉のクローバーが発生しやすいと書かれていた。
俺は四つ葉が発生しやすいように、同じ土手を何度も何度も通った。
「圭ちゃん、おかえりなさい。
今日も四つ葉のクローバーを探していたの?
この時期は、外が暗くなるのも早いから、あまり無理しないでね」
「無理なんてしていないよ。
お母さん、今度退院したら、四つ葉のクローバーが沢山見つけられる場所を教えてあげるから。
一緒に探しに行こうよ」
「そうね。約束ね。
そうだ、圭ちゃん。
シロツメクサの花言葉は『約束』だって知っていた?
お母さん、クローバーとシロツメクサが一面に咲いた場所に行ってみたいな」
「うん、行こう。約束だよ」
俺は母とこんな約束をしていたけれど、母の体調は、良くなるどころか悪くなる一方だった。
そんな母の事を、祖母が苦々しく思っているのを肌で感じていた。
母の3度目の手術の日が決まった。
医者は『これが最後の手術』だと言った。
その意味は、まだ子どもだった俺にも分かった。
『これ以上、手の施しよう』がなかったのだ。
「圭、これをお母さんに持っていきなさい」
その日渡されたのは、真っ赤な椿の花だった。