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第七十四話


「お嬢、悪かったね。

 あの人、しつこかったでしょう?」


「あの人?」


「そう。

 あの人、僕の母親なんだ」


「青田のお母さん!?」


「……と、言っても、もう何年も会っていないから、母親とも呼べないよ」


「……でも、良かったの?

 青田を探しに来ていたんじゃないの?」


「いいんだよ。

 僕の顔を見た時、眉ひとつ変えなかったでしょ。

 僕が誰かすら気付かなかった。

 そういう人なんだよ。あの人は」


「『すずね』って……」


「ああ、僕の名前。

 鈴の音と書いて『すずね』って言うんだよ」


「綺麗な名前ですね……」


「僕は自分の名前なんて嫌いだよ。

 それよりお嬢、そろそろ芋を焼こうか」


「……うん」


かき集めた落ち葉を山にして、水に濡らした新聞紙とアルミホイルでサツマイモを包み、落ち葉の山の中に入れて焼き始める。


青田とはこの作業を何度もしているから慣れたものだ。


「お嬢、さっきはありがとう」


「え……?

 私、何もしていませんよ?

 逆に、名前を聞き間違えてしまって、青田のお母さんを怒らせてしまったかもしれません」


「いや。

 お嬢が傍にいてくれたから。

 もしあの時、お嬢が傍にいなかったら……」


「……」


「いなかったら、僕は母親に酷い事を言っていたかもしれない」


「……良かったのですか?」


「ん?」


「何も話さなくて」


「今さら話すことなんて、何もないよ。

 僕は母親に捨てられたからね」


青田はポツリポツリと自分の過去を話し始めた。


青田は『必ず迎えに来るから』と、母親に施設に預けられて、来る日も来る日も母親を待っていたけれど、結局、今日の今日まで顔を見せることはなかった、と。


「何で今さら……」


「……私も、もし、父さんや母さんが、今迎えに来たら『何でこんなに時間が掛かったの?』って、聞いてしまうかもしれません。『ずっと待ってたんだよ』って。

 楽しかったことの話より先に、寂しかったことや辛かったことの話をしてしまいます」


だけど私は永遠に言えない。

父さんと母さんは、ここにはいないから。


「お嬢……」


「だから、青田のお母さんに、言いたいことを言ってみるのも構わないと思います」


「お嬢、ごめん」


青田が私の頭を、そっと撫でた。


「今度、またこの屋敷に来たら聞いてみるよ。

 『何で俺を捨てたの』って、『何で今さら会いに来たの』って」


「うん……」


「さあ、そろそろ芋が焼けた頃だよ。

 皆を呼んで、一緒に食べよう」


「うん」


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