第七十三話
落ち葉の季節になると、私も青田と庭の掃除を手伝う。
だだっ広い庭の落ち葉を箒でかき集めるのは大変だ。
「お嬢、僕は裏門辺りから始めるから、お嬢は正門辺りをお願いしていいかな?」
「はーい」
何故、私が大人しく庭の掃除を手伝っているかって?
ふふ。
もちろん、この後焚き火で焼き芋を作るからですよ。
青田の畑で採れたサツマイモはハチミツが入っているかのごとく、とても甘くて柔らかくてホクホクなのです。
うー。
早く食べたいなー。
「あら。
あなたはここのお手伝いさん?
『すずね』はこの屋敷にいるんでしょう?
今すぐ『すずね』をここに呼んできてちょうだい」
いつの間にか門の前に日傘をさしたご婦人が立っていた。
派手なワンピースに真っ赤な口紅とハイヒール。
サングラスを掛けて、ガムをクチャクチャと噛んでいる。
『つくね?』
はて?
今日の晩ご飯は『つくね』だったっけ?
「すみません。
つくねがあるかどうか、家主に確認してまいります」
私は急いで黒川のいるキッチンへ向かった。
「黒川、今日の晩ご飯は『つくね』でしたっけ?」
「お前、嗅覚だけは一人前だな。
だが惜しい。
今日のメニューは『おろしハンバーグ』だ」
「わーい。
ハンバーグだ!
黒川、私は庭掃除で体力を著しく消耗しているのです。
ハンバーグの大きさを、普段の1.5倍に……。
……あ、いけない。
今日は『つくね』ではなく『おろしハンバーグ』だと、あのご婦人に伝えて来なくては」
「何だ?
相変わらず忙しい奴だな」
正門に戻ると、ご婦人は少しイライラした素振りで待っていた。
「あのー。
今日『つくね』は、やっていないんですよ。
家主にリクエストしておきますから、また別の機会に……」
「はあ?
アナタ何言っているの?
早く『すずね』を出してちょうだい」
「お嬢、門の辺りの掃除は終わった?」
ご婦人が語気を強めたその時、青田がやって来た。
「あら。
アナタもここの屋敷の方かしら?
この屋敷に『すずね』がいるはずなのだけど、会わせてくれないかしら?」
「この屋敷に『すずね』という者はいませんよ。
どうぞお引き取りください」
青田がいつになく険しい声で言った。
「まあ。
アナタも話が通じないのかしら?
いいわ。また来るから」
そう言うと、ご婦人はフンと鼻を鳴らして帰っていった。