第七十話
黒川達が帰宅した後、青田と約束したとおり、二階堂さんのお土産の饅頭でお茶会が開かれた。
いつもなら、誰かが好き勝手に話し始めるけれど、今日は皆黙ったままで静かだった。
「あの……、皆さん。
少しよろしいでしょうか……」
皆が集まる場で、私から発言するのは珍しいことだ。
最近ならば『遊園地に連れて行ってほしい』とお願いして以来だろうか。
皆が一斉に私を見たので、緊張が走った。
「ええーっと……、えっとですね……」
「お嬢、そんなにかしこまらなくても。
いつも通り、ゆっくり話せばいいんだよ」
青田が微笑んだ。
「そ……、そうですね」
私は小さく深呼吸した。
「あの……。
最近、学校で少し嫌な目にあっていてですね……」
「何だって?」
突然、赤井が立ち上がった。
「赤井君。
いいから、落ち着いてお嬢の話を聞こうよ」
赤井の隣にいた青田が、赤井を落ち着かせるように座らせた。
「あ……。
嫌な目といっても、本当に些細なことですから、心配無用です」
「うん。お嬢、それで?」
桃も、いつも私の相談に乗ってくれている時のように、真剣に聞いてくれている。
「それが、ほんの少し前から始まった事だから。
『犯人』という言い方は良くないのかもしれないけれど。
私は、その『犯人』にも、何か言いたい事があるような気がして……」
「犯人の言い分なんて、今さらどうでもいいだろう?」
「赤井君。
お嬢の話を最後まで聞きましょう」
「……赤井。
私のために怒ってくれて、ありがとう。
私は……。
その『犯人』と、一対一で話がしたいのです。
『嫌がらせ』を始めた『理由』を知りたいのです」
「…………。
わかった、お嬢。
……で、俺達に出来ることは?」
終始落ち着いていた黒川が聞いてきた。
「見守っていてください」
私の言葉を聞いて、赤井以外が黙って頷いた。
「赤井?」
「わかったよ。
けど、これ以上酷い目にあったら……」
「わかっています。
その時は、赤井に助けてもらいます」
私はやっと緊張が解けて、笑顔で言った。
お茶会が終わった後、黒川のいるキッチンに向かった。
「黒川……。あの……、白石は……」
「お嬢、心配するな。
白石君は今までどおり担任を続ける」
「良かった……」
「……お嬢、
本当に一人で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。
私の頭の中で策は練ってありますから!」
黒川がじっと私の目を見たあと、少し笑った。
「わかった。
無茶だけはするなよ?」
「はい!」