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閑話(お嬢と五人の執事)ハロウィーン編③


私がカウンターの椅子に座り、メモの用意をすると、黒川が紅茶の淹れ方を説明し始めた。


「まず始めに、ポットとカップを湯通しして温めておく」


「黒川、

 何で『湯通し』するのですか?」


「ポットやカップが冷たいままだと、紅茶の温度が下がってしまうだろう?

 湯の温度によって紅茶の味が変わってくるからな」


「うわー。

 思った以上に大変ですね……」


「別にやらなくても紅茶は淹れられるが、

『美味しい紅茶を淹れたい』と思うなら、その分淹れるための行程は増えていく」


「うーん……」


普段、何も思わずに黒川の淹れたお茶を飲んでいたけれど……。


黒川は『美味しい紅茶を淹れたい』という気持ちで淹れていたんだね。



私は黒川に紅茶の淹れ方を教わりながら、何度か練習を重ねた。


「うん。何とか形になったようだな。

 今日の夕食後、サプライズでお嬢が紅茶を出したら、多分、皆喜んでくれるはずだ」


「そうですね!

 皆、きっと驚きますね!」


「紅茶を出すついでに、お嬢手作りのデザートを添えれば、さらに驚いてくれるかもしれないな」


「え……。

 私がデザートを作るのですか?

 皆がお腹を壊しそうで、怖いのですが」


「俺も手伝ってやるし、混ぜて冷やすだけの簡単なデザートにするから大丈夫だ」


「私がお菓子を作ったって知ったら、皆、喜んでくれるかな……」


「ああ。喜ぶ。

 お前が一生懸命作ったものなら、どんなに不味くても涙を流しながら完食してくれるだろう」


「分かりました。

 やってみます!」


黒川に材料を揃えてもらって、デザート作りを始めた。



…………。



……ふぅ。疲れた。




黒川、絶対怒っているよね?



……まあ、いいか。

今日はハロウィーンパーティーですもの。



さて。

食卓に行って料理が出てくるまで待っていますか。



テーブルには既にメイン料理が並んでいる。



「お嬢。

 暇なら料理を運ぶのを手伝えばどうですか?」


白石が大皿を運びながら溜め息をついた。


「あれ?

 白石は仮装しないのですか?」


「していますよ?」


「いつもの服装と変わりがないのですが」


「『平日の俺』です」


「平日?

 家でも学校でも、いつも白いシャツを着ているじゃないですか」


「今はネクタイをしているから『平日の俺』です」


「あぁ……」



これって、仮装なの?


まあ、いい。

やっぱり今年の仮装大賞は私が頂く。



「白石、私の仮装は何だと思いますか?」


「……。雨の日の関口さんですか?」


「関口さん?」



黒川も白石も『関口さん、関口さん』って……。


誰なんだ? 関口さん。



「二人とも。

 折角のハロウィーンなのに、全く映えないね……」


いつの間にか桃がスマホで写メを撮っていた。


「わぁ、桃。

 かわいいですね!」


桃はフリフリのドレスに着替えていた。


「やっぱり仮装って、これくらいやるもんじゃないの?」


「私もやりたいのは山々ですが、予算と時間が足りなかったのですよ……」


「おー。懐かしいな、お嬢。

 昔、桃と3人で『姫を拐った魔女を倒す』遊びをしていたよな」


「ハッ、赤井」


赤井は空手の服を着て、長くて赤い鉢巻きを締めていた。


そうだ。

姫を拐う魔女役の私と格闘家役の赤井で、よく遊んでたよね。


途中で喧嘩になって、黒川に怒られていたな……。



ハッ……、黒川。

怒らせたままの黒川の事を忘れてた。


「あの……、皆さん。

 黒川は今、どちらに……」


「こちらだ」


いつの間にか黒川がビデオカメラを回しながら立っていた。



ヒィッ、黒川ッ。



「お嬢、カラスの剥製を持ってきたぞ」


「あ……、ありがとうございます」



……あれ?


黒川、怒ってなさそうだ。


良かった……。



黒川がガムテープでカラスの剥製を私の右肩にグルグルと巻き付けてくれた。


ぐ。

カラスって意外と大きくて重いのね。


でも『仮装大賞』は私のもの!



「皆さん。この仮装、いかがですカッ?」



「関口さんですね」

「関口だよな」



……。


だから『関口さん』って、何なのさー!



『仮装大賞』は投票制で、断然トップで私が優勝した。


商品はシャープペンシルと消しゴム。


……。


使い道が無いよね……。



そして、いよいよ私が紅茶を淹れる時間に。


「えー。皆様。

 本日は日頃の感謝を込めて、皆様に紅茶を淹れたいと思います」


「へぇー。

 お嬢がお茶を淹れてくれるなんて嬉しいな」


さすが、青田。


私の淹れた紅茶を飲んで、一番に嬉し泣きしてくれそう。



カタカタカタカタ……。



「お嬢、紅茶を淹れるだけなのに、緊張しすぎじゃないか?」


「黙らっしゃい、赤井。

 皆、私に注目しないで雑談でもしていてください」


ビデオカメラ撮影係の黒川が、カメラワークを気にして動く。


『ガッ!』


「ちょっ……、黒川。

 千手観音の手が当たって邪魔です。

 私が大賞を獲ったのですから、いい加減、仮装をやめたらどうですか?」


「うるさい、お嬢。

 紅茶に集中しろ!」


いやいや。

千手観音が集中を邪魔しているのですが……。


「そう言えば、昨日、関口さんの息子さんがね……」


「青田ッ。

 集中できなくなるから、今、関口さんの話はヤメテッ」


何とか黒川と練習した通りに紅茶を淹れられた。


あとは、美味しいお茶菓子があったらいいのにな……。



黒川がビデオカメラを三脚に設置し、ワゴンを運んできた。


さすが、黒川。

あの後、デザートを作ってくれていたんだ。


皆の前に、ラップに包まれた丸くて茶色い物体が置かれていた。


「何ですか? これは」


「白石君。

 それは、お嬢が初めて作ったニューヨークチーズケーキだ」


「は? ニューヨークチーズケーキ?

 粉々に粉砕されたビスケットにしか見えませんが……。」


「ああ。お嬢がビスケットを砕いている途中で面倒臭くなって逃げたからな。

 そのまま丸めて冷蔵庫で冷やしておいた」


え……。

まさか……。


「それでもお嬢が初めて作ってくれたニューヨークチーズケーキだよ。

 折角だから、有り難く戴こうよ」


青田……。


「……。

 仕方がないですね。収穫祭ですから、食べ物を粗末にする訳にはいけません」


文句を言いながら、この丸い物体を食べる白石。


「……カハッ!」


白石が茶色く丸い物体を一口かじると、白石の口から噴煙が上がった。



「ギャー! 白石ッ!

 大丈夫ですか?」


「ビ……、ビスケットの粉が……、気管に入って……、ゲホッ……、ゴホッ……」



白石が涙目になって咳き込んでいる。


白石だけじゃない。


私以外の全員が一斉に口から噴煙を上げながら、涙目になっていた。


「み……、皆。ゲホッ。

 折角お嬢が作ってくれたんだから……、頑張って食べよ……ゴホッゴホッ」


涙目の青田が丸い物体を間食して倒れた。


「み……、皆ッ! もうヤメテー!

 カメラを止めてー!」



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