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閑話(お嬢と五人の執事)嵐の夜編⑥

「そう言えば、先程から赤井の姿が見えないのですが……」


「ああ。赤井君でしたら停電後、懐中電灯を取りに行くと言って自分の部屋に行きましたが……。

 言われてみれば遅いですね。様子を見てきましょうか」


 白石が出ていくと、部屋は私と黒川と青田の三人になった。


「暑いな……」


 暗がりで、黒川が一段と低い声を捻り出した。


 確かに暑い。

 真夏の蒸し暑い夜のエアコンの切れた部屋で、窓を閉め切って蝋燭を立てまくっているんだもの。


「お嬢も黒川君も、喉が乾かない?

 キッチンに飲み物を取りに行ってくるよ」


 エ? 青田も行っちゃうの?

 青田がいなくなると、部屋には黒川と私の二人きり……。


 このシチュエーション。ホラーの定番ですよね?

 一人、また一人と人が消えていき、最後に残った奴が殺人鬼で……。ヒィ!


「暑いな……」


「あの……。黒川……?」


 暗がりの中、黒川が呟きながら窓辺に向かう。

 その姿は暗黒大魔王そのものだ。


「部屋を閉め切っているから、空気が悪いな。

 お嬢。少し窓を開けてもいいか?」


「でも、まだ雷が鳴っていますし。

 部屋の中に雨が降り込んだら、白石に怒られちゃいますよ?

 それに、それに……」


 それに黒川に雷が当たって、黒川が雷オヤジに覚醒したら……。


 美しすぎる雷オヤジ、テレビ出演、CDデビュー、執事辞職、そして屋敷に誰もいなくなった……、終。嗚呼ッ!


「黒川ッ! 危ないから窓に近寄ってはなりません!

 その窓は、雷王国に繋がる雷門かもしれませぬぞ!」


「お前、何を言って……」


 黒川が窓を開け放つと、風が吹き込んで蝋燭の炎が一斉に消え、部屋の中が一瞬で真っ暗になった。


「黒川ァァァ! 行かないでェェェ!」


「お嬢?」


 私の叫び声に驚いた黒川が振り返った瞬間、稲妻が走った。


「お嬢!」

『カッ!』


「黒か……、わ……。ご無事で何より……」


「お嬢! ……? ……!」


 

 急に目の前が真っ白になった。

 足元がフワフワしている。


 ここは何処? 雲の上?

 黒川の代わりに、私が雷少女になったの?


 黒川が無事なら、それでいい。

 雲の上から、皆を見守り続けるから。


 雲の上から下界を覗くと、桃達が泣いているのが見えた。


「お嬢……。

 こんな事になるのなら……。

 面倒臭がらず、毎晩トイレに付いて行ってあげれば良かった」


 ありがとう、桃。


「俺もさ。望月屋の限定プリン。

 最期に食わせてやりたかったな……」


 エッ! 望月屋の限定プリン?

 食べたかったなー。


 あ。ヨダレが落ちた。


「ん……? 雨が降りだしたのかな?

 まるで空がお嬢の死を悲しんでいるようだね」


 青田、ごめんね。

 それ、雨じゃなくて私のヨダレだから。


「全く……。お嬢は最期まで馬鹿でしたよね。

 本当に……、本当に馬鹿でした」


 白石め。死後も私の悪口ですかッ!

 許さん。雷ビーム! 雷ビーム!


 私は指の先から雷を出し、下界に落とした。


 フハハ! 皆、驚いている。面白い!


「サンダービーム! トルネードハリケーンビーム!

 ブレイカークラッシャービィーム! ヒャッハー!」


 雲の上に寝転がって雷を落として遊んでいたら、雲の中から手が出てきて私の足を掴んだ。


「ん……? なッ……!」


「お嬢……」


「え? 黒川?」


「ふざけるな……」


「ギャァァァ!」


 黒川が私の両足を引っ張り、私は下界へ真っ逆さまに堕ちていった。



 眩しい……。

 遠くで何か聞こえる……。


「……お嬢。起きたのか?」


 あまりの眩しさに、ゆっくり目を開けると、目の前に黒川がいた。


「……ん? ここは何処ですか?」


「大丈夫か? お前。雷に驚いて気絶して……」


「ん? 夢? ……! ギャッ!」


 そのままの体勢で辺りを見回すと、リビングのソファーで黒川に膝枕をされている事に気付き、慌てて起き上がった。

 

『ゴスッ!』

「ぐはっ!」


 起き上がった拍子に、黒川の顔に頭突きを食らわせる。


「く……、黒川、ごめん……」


「いや。構わない。

 それよりお前、大丈夫なのか?」


「はい。一度は雷少女に転生したものの、自然の摂理を己の業を満たす為に使おうとしたが故え、下界に叩き落とされ、只今戻って参りました」


「……。

 全く言っている意味が分からないお前の頭の中を心配してやった方が良いのか、平常運転として聞き流した方が良いのか……」


「黒川。それより、皆は?」


「そこにいる」


「ん?」


 見ると、赤井も青田も白石も桃も、ソファーの近くで毛布にくるまって眠っていた。


「お前が気絶した後、停電が復旧して電気が付くようになったが……。

 お前がいつ目覚めるか分からないし、お前が起きた時、誰かがトイレに付いていってやれるように、ここで一夜を明かした」


「皆……」


「お嬢。俺も少し寝ていいか?

 一睡もしていないから、眠い……」


「うん。

 黒川。良かったら私の毛布を使ってください」


 黒川に毛布を掛けると、黒川は少し笑って、そのまま眠ってしまった。


 私は窓辺に行き、窓の外を見た。


 嵐の夜は怖いけれど……。

 嵐が去った後の景色は、雨露が太陽の光でキラキラ輝いて、何て美しいの?


 はッ! 今、滅茶苦茶トイレに行きたい。


「あの……、黒川……。起きて?」


「ん……」


 ……。

 黒川、爆睡中……。


「あの……、誰か……。

 誰かァッ!

 トイレに付いてきてもらえませんかッ!」


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