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閑話(お嬢と五人の執事)嵐の夜編④

暗闇の向こうでユラユラと動くものが見える。


「桃ッ! こちらに向かって来ていますよ!

 白装束の女ッ! 絶対、白装束の女ですよ!

 怖っ。目茶苦茶怖っ」


「え? ちょっと、お嬢。落ち着いて。

 頭から毛布を被っているお嬢の格好の方が怖いんだけど」


「ほら。ノーイ、ノーイ言ってるじゃないですか。

 ノーイ、ノーイって、何? 鳴き声?

 ノーイ、ノーイ言いながら、こっちに近づいてる。

 ギィャアアア!」


「あッ。お嬢、待っ……!」


あまりの恐怖に、私は桃を置いて猛ダッシュした。

ノーイ、ノーイという声が私を追い掛けているのが分かる。


桃、ごめんね。 

私が白装束の女に呪われたせいで、桃が犠牲になってしまった。

私、桃の分まで頑張って逃げるから。


『ノーイ』


「ヒッ!

 ノーイさん、成仏してください」


『ノーイ』


「ギャァァァァ!」


白装束のノーイさんに毛布を剥ぎ取られ、私はその場に崩れた。


「ノーイ、お嬢。大丈夫?」


「……え?」


そっと見上げると、毛布を持った青田が不思議そうな顔をして立っていた。


「青田……?

 青田がノーイさんなの?」


「え? ノーイさんって、誰?」


「いえ。

 青田がノーイノーイ言いながら追い掛けて来るから……」


「あー。停電になったから、僕の部屋にキャンドルを取りに行ってね。リビングに戻る途中、桃と毛布の塊が見えたからオーイって呼んだけど、突然、毛布の塊が桃を突き飛ばして猛スピードで走り去ろうとしたから、心配になって追い掛けたんだ」


「じゃあ、ノーイノーイって……」


「オーイがノーイに聞こえたのかな?」


青田が小さく笑った。


「じゃあ、桃は……?」


「お嬢!

 いきなり突き飛ばすなんて酷いじゃん!

 もう二度とトイレに付き合わないからね!」


廊下の向こうから、怒りながら桃が来た。


「ご、ごめんね、桃。

 ご無事で何より」



今世紀最大の恐怖を味わった私は、再び毛布を頭から被り、青田と桃と一緒にリビングへ向かった。


「……ところで青田。

 何故、白装束のような着物を着ているのですか?」


「ああ。これ?

 停電でエアコンも切れて暑いから、キャンドルを取りに行ったついでに浴衣に着替えたんだよ。

 この浴衣、今年の盆踊り用に誂えたんだけど。どうかな?」


青田が私の隣で、くるっと回ってみせた。


「……。暗くてよく分かりません」



リビングに戻ると、真っ暗な中、白石と黒川がソファーに座っているのが見えた。


「暑いな……」


暗闇から、暗黒大魔王のような黒川の低音ボイスが響いた。


暗黒大魔王のくせに暑さに弱いのか……。


「キャンドル、沢山持って来たよ」


青田が部屋中にキャンドルを置きながら、火を灯していった。


「青田……。

 一体何本立てるつもりですか?

 あ、これ良い香り」


「アロマキャンドルだからね。

 せっかくだから、この暗闇を楽しもうよ」


生前、爺ちゃんが海外から送りつけてきたアンティーク家具で揃えられたリビングが、キャンドルの灯りで良い雰囲気になった。


おお。まるでお伽噺に出てくるお姫様の部屋みたい。


ー私は頭から被っていた毛布を、ドレスのスカートのように腰に巻き付けた。


「白石王子、私の事をプリンセスと呼んでください」


「絶対嫌です」


「もう……。

 白石王子はイヤイヤ王子ですね。

 仕方がありません。

 黒川王子、私の事をプリンセスと呼んでください」


「プリンセス」


ギャッ!


何という破壊力!

は……、恥ずかしい……。


黒川、何で恥じらいもなくさらりと言えちゃうの?

背筋がゾワゾワする。


ん? 黒川、今なら何でも言ってくれるのかな……。


ならば、日頃言われない言葉で黒川に褒めちぎってもらおう。

心のデトックスだー!


「黒川王子。

『数学のテストで百点獲って偉いゾッ☆頑張ったな!』

って、言ってもらえませんか?」


「お嬢。何、馬鹿な事を言っているのですか?

 昨日返ってきたテストの点数を見ていないのですか?」


「ノォォォオ!」


黒川が口を開く前に、白石の邪魔が入った。


心のデトックスどころか、白石の毒舌が心に突き刺さってボロボロにされる。


「嵐が鎮まるまで時間がありそうですし、今からテストの答案を見直したらどうですか?」


「テストは黒川の部屋の天井裏の奥の方に仕舞ってありますから、こんな暗闇で探すのは大変ですよ」


「大丈夫です。

 今朝、天井裏の掃除をして今ここに……」


「ノォォォォオ!」


白石がシャツのポケットから答案を取り出そうとしたので、慌てて白石に飛びかかり、テストの答案を奪った。


「こ、こんな薄暗いところで見たら視力が悪くなりますよ?

 テストは電気がつくようになってから、じっくり見直しましょう。ねッ?」


「お前……、また俺の部屋に隠したのか」

『カッ!』


「ギャッ!」


黒川の怒りを表すかのように、また稲妻が光った。


「か……、堪忍してくだせぇ、黒川様……」


「……。

 全く……。仕方がありませんね……」


白石が深い溜め息つく。


そんなやり取りをしている間も、青田は黙々とキャンドルを立てていた。


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