ヤンキー体質直し隊
「よぉ~大輔!元気にやってんのか、オラァァ!!」
ヤンキーみたいなやつが挨拶してきた。
「おはよう、今日もヤンキー臭いね。」
僕がそう返すと
「ああン?仕方ねえだろ、親父もお袋も元ヤンなんだからよ。生まれる前からヤンキー気質が染み込んじまってんだよォ!!」
「まあ、そうだね。」
このヤンキーみたいな彼女…そう、性別は女だ。容姿だって整っているのにも関わらず、マスクとケバい化粧のせいで台無しにしている彼女。佐倉杏南はヤンキー気質というか、ヤンキー体質だ。返事は「はい」じゃなくて「あぁン?」だし、先生に注意されれば「すみません」より先に「んンだとコラァ!」が出てくる彼女は中々に苦労している。
高校に入る前には真剣な顔で
『あたいのヤンキー体質を直してくれ』
と頼んでくるくらいには彼女も悩んでいる。とはいえ彼女が嫌われ者かというと、実はそうでもないのだ。何せ、彼女はこう呼ばれている「さくらお姉さま」と。それも全学年の
女子のほとんどが、そう呼んでいるのだ。そのカリスマ性の高さ故か仲間外れにされることも、本物の不良たちに絡まれることも昔から無かったのは不幸中の幸いだと思う。
「結局、高校に入るまでに変えられたのは一人称だけだったね。」
「…それでも『あたい』よりはマシだろうが。」
「本当、そこが変えられたから他の所も直せるとは思ったんだけどね。」
他の所って言っても、言葉使いだけなんだけど。文字通り生まれる前から言葉が染み込んでいるのか、普通にしゃべってもらうとかえって変になってしまった。それこそヤンキー言葉の方が良いと思えるくらいには変だった…
「思い出すな!ハジぃだろうがよぉ。」
「はいはい、そんなことより教室に行こう。皆勤賞逃しちゃうよ?」
彼女、杏南の授業態度は至ってマジメだ。成績がそれを如実にあらわしている、授業で先生に当てられなければの話だが。
「じゃあ、この問題を…佐倉!答えはなんだ?」
「アぁン?この程度の問題も分かんねぇのかコラァ!」
「な、先生に向かってその態度はなんだ!」
「てめぇこそ、センコーのくせして生徒に答えを求めんなァ。答えは自分で探すもんだろうがよ!」
先生は一瞬動揺してから、何かを悟ったような顔をして
「…済まない、佐倉の言う通りだな。先生は見失っていたみたいだ。ありがとう。」
先生は教室を出ていこうとする。
「待て、どこに行くんだ?」
「今日は自習だ。それと先生、自分を見つめ直すために旅に出るよ…皆元気でな。」
…翌日から先生は、一身上の都合により退職ということになっていた。
人の人生をも変えてしまうヤンキー体質を直したい、彼女と。
ヤンキー体質を直してあげたい僕の日常は、まだまだ続いていく…