三口で終了
あおいも小さなバニアアイスを食べたものの、それではまったく足りないらしく、彩の意見に同意しているようで、こちらを“そうだよ、そうだよ、抜けがけしたの?”的な訴えるような眼差しで見つめていた。
「・・いや、だって彩はバニラアイスを弁償しろっていうことだったし、あおいちゃんはいると思ってなかったし、俺はこの炎天下をこれでもかと走り回ってめちゃくちゃ暑かったから本能的に、というか食べたいなぁと思って『シャビィ オレンジ味』を選んだだけなんだけど・・いや、何か・・すみません・・た、食べる? 二人とも・・?」
篤郎がそう言うと、二人はとても羨ましそうに、恨めしそうに『シャビイ』を見たが流石にそれはいいよ、という素振りをしている。
篤郎は何だか食べにくくなってしまった。さくさくとへらでこれからたっぷりと楽しめる量の『シャビィ』をかき分けてはいたが、口には運びづらくなってしまった。
二人の視線が痛く、持っていられなくなり、テーブルに『シャビィ オレンジ味』を[コトリ]と一旦、置いた。
しかしそれほど間を空けずに“あっ、『オロナミンC』を一本買ってきている!”と思い出した。
「そうだっ! 『シャビィ』はないけど、彩に頼まれた『オロナミンC』は買ってきたよ! それでいけるんじゃない? ちょっとかき氷っぽい味もするし・・でしょ?」
彩も自分が『オロナミンC』を頼んだことを忘れていたらしく篤郎に言われるとあっ、という顔をした。
シュワシュワする炭酸のことを想像して、かき氷系のさっぱりキーンと冷たく、甘いものを本当は食べたかったのに濃厚バニラアイスを食べてしまったという悔しさで傾いていた気分も少しは回復したように伺えた。
「・・う~ん、『シャビィ』には及ばないが・・。まぁ・・、それも良しとしよう。・・うん・・もうバニラアイスを2と3分の2本分は食べてそれなりには満たされたし・・まあ・・良しとしよう・・。うん、それじゃ・・『オロナミンC』を・・」
彩はまんざらでもないらしく、大げさに険しい表情をしているように見えたが、最低限の納得はできたようだ。
「あおいも一緒に飲もうね♪」
「やった、ありがとう~♪」
あおいは手を小さくポンと叩いて、嬉しそうだ。
「よしっ! じゃあ『オロナミンC』を・・・・あれ?」
篤郎はコンビニの袋を手でゴソゴソとやった。しかし、何も手に当たらない・・『オロナミンC』がない・・。
・・しぼんだ袋だけだ・・周りに転がっていないか確認した・・やはりない・・待てよ・・会計は2回している・・レシートは2枚袋に入っている・・。
しかし、袋は2つない・・コンビニの会計の時のことを思い返してみた。・・まさか・・。
「・・どうしたの? ・・『オロナミンC』は・・?」
彩は訝しげに篤郎を見つめた。あおいも何事だ・・と様子を伺っている。
「・・いや、あの・・どうやら、コンビニのレジに忘れてきたらしい・・。・・急いでたから・・あの・・その・・」
「・・ふっふっふっ・・。もうこれは、あれだね・・ふっふっふっ・・。あんたの『シャビィ』には手を出さないって思ってたけど、これはもうしょうがないね・・これはもう『シャビィ』をいただくしかないですね・・。
女の子の食べ物への切実な思いに対するこの仕打ちはもうすでにそのレベルに来ちゃってるね・・、うん・・。間違いない・・」
彩は怒っているはずだが、何やら嬉しさを抑えきれないという感じでそう言い寄ってきた。
あおいも篤郎の『シャビィ』を一口、二口いただきたい、ということに関しては同意しているようだった。
あおいはそれくらいで済んでも、彩はそれくらいでは済まないだろう。
このことは篤郎がもう最初の三口以外に『シャビィ』を口に運ぶことができないということを意味していた。ちくしょう! ちくしょう! ダンディドン、ダンディドン♪