一瞬の静寂
あおいのアイスの食べ進み具合を見ると、あと少しで食べ終わるところまで来ていた。箱に何本か入ったアイスは一つ一つが小売のものより小さく、食べ終わってしまうのはこの暑さではすぐだ。
「ほんとにこんなに暑い日が続いたら、冷たいものばっかり食べちゃって・・ぺろぺろ・・しかも冷たい物って一度食べて、食べ終わった頃には胃がなんかカーっと熱くなってきちゃって、・・ぺろぺろ・・また余計に食べたくなってしまうよね・・でもその心地良さに食べ過ぎるとお腹こわしてしまうんだよね・・はぁ~板挟み・・ぺろぺろ・・」
あおいは、夢中でアイスを貪っている彩以上にとても暑そうだった。
やはりこの外の炎天下を歩いてきただけあって、相当体が熱を持っているようだ。額に汗をかいている。
「・・篤郎くん、さっきものすごい勢いで走ってたから汗・・ものすごくかいてるね・・暑くないの? 喉とか乾かない? 自分のものは何か買ってきた?」
あおいに指摘され、あおいのことを言えないような状態に自分がなっていることに篤郎はやっと気がつき汗を拭った。
呼吸がまだ整いきらず、とても暑苦しそうに見える篤郎を気遣ってか、アイスを口に運ぶのをいったんやめて、あおいは篤郎の方を心配そうに見つめた。
「・・うん、ほんとに暑かったよ、今も暑いけど・・ほら、俺の分ももちろん買ってきたよ。心配しないでどんどん食べて」
「そう、良かった」
あおいは笑顔になり、また安心して残りのアイスを食べ始めた。
篤郎はコンビニの袋をごそごそと手で探り、自分のために買ってきたかき氷『シャビィ オレンジ味』とへらをテーブルの上に[トン]と置いた。
部屋が一瞬その音とともに静寂に包まれた。
「・・あれ・・?」
「・・えっ・・?」
彩とあおいはすでにバニラアイスを食べ終わっていて、彩はアイスの棒を口に咥えたまま、あおいはパッケージに食べ終えたアイスの棒を入れている所で、二人は声を揃えた。
篤郎はそれにしばらく気づかずに『シャビィ オレンジ味』の蓋をあけ、へらの袋を開け、熱くなっている体に甘い、冷たいかき氷が溶け込むのを想像しながらうずうずしていた。
喉を鳴らして早速一口、口に運んだ。・・おおっ!! やっぱり最高だ・・!! 「うま~!!」と叫びたい気持ちを抑えてギュッと目をつむって一口目を味わった後、二口目を矢継ぎ早にへらで口に運んだ。
ツンと頭が痛くなるのすら心地よく感じた。やっぱり炎天下を走ってきただけあって最高においしい。口の中に“オアシス”ができた気分だ。
ふーっ、セミの鳴き声とすでに暖房器具と化している扇風機の風すら今は心地よく感じられるが、何か周りがやけに静かだな・・そう思って篤郎は2人を見回した。
すると彩は恨めしそうに篤郎と『シャビィ』を何とも言えない表情で見つめていた。あおいもまさかそれはといった雰囲気で篤郎と『シャビィ』を交互に見つめている。
「・・あれ? 何? 何かあった? どうしたの?」
篤郎は全く二人の恨みがましい視線の意味が分からず、また『シャビィ』を一口、二人を見回しながら口に運んだ。
その一挙一動をじっと見つめていた彩は羨ましげな表情でそれを自分がぱくりと食べたかのように口を動かして喉を鳴らした。
あおいは篤郎が『シャビィ』をおもむろに口へと運ぶ様子に、ああっ、と見入っている。
「・・えーと、この状況をなんて言ったらいいのか・・、いい言葉が見つからないんだけど・・。とにかく・・それはないわ、それはない・・これはあれだね、弁償だね・・」
篤郎は彩が何を言っているのかさっぱり分からなかった。何が弁償なんだろう? もう代わりのアイスは2本も買ってきてあげたのに。
「・・あんた、こんなこれ以上ないっていう程クソ暑い時に濃厚な、クドいバニラアイスなんか食べたいわけないじゃん!! なんであんただけかき氷なの?『シャビィ』なの!? この卑怯者っ!!」