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かき氷の女神さま  作者: にごらせ生茶
6/13

時々些細なことからくよくよが止まらない

 店員は外の様子を大丈夫だろうかとレジに並んでいるお客さんをテキパキとさばきながらも、チラチラと気にかけていた。


 篤郎とぶつかった女の人が車に乗り走り去っていくのが見えた。さっき隣のレジで会計をしていた女の人だ。


 「・・はい、ちょうどですねー、ありがとうございましたー♪ ・・ふ~っ・・」


 やっとレジに列をなしていたお客さんの会計を一通り済ませると、店員はひと息ついた。


 レジは2ヶ所にあるものの、なぜなのかはよく分からないが、商品の陳列上の問題なのか、ともかく客の大半は片方のレジに集中することが多いんだな、と店員は改めて思った。


 そして、いぶかしげに篤郎に渡すはずだったお釣りを自分の手の中で転がした。


 「行っちゃった・・。随分急いでいたみたいだけど・・。・・あ~・・」


 太陽がさっきよりもこころなしか高くなった気がする。ギラギラと照りつけられる感覚が一層強くなっている。


 篤郎はコンビニの袋の手提げ部分よりも下を握り締めて持ち、行きよりも早いスピードで走った。


 「はぁ・・さっきの子に申し訳ないことをしてしまったな、くそっ、何分だっ! 何分経ったんだっ! ちきしょうっ! あいつがあんなになっているって言うのにっ! 俺はこんなことも成し遂げられないのかっ! ちきしょうっ!」 


 自分のことがあまりに情けなくて、歯痒くて少し涙目になっていた。色々とミスを重ねてしまい、謎のテンションになっていたが、自分のテンションに疑問を持つことはなかった。頭が太陽に照りつけられてジリジリと熱い。


 行きとは違い運悪く4車線道路の赤信号にも引っかかってしまった。


 “買い忘れる”というこの状況下での最悪の事態はなんとかなったが、色々思うように行かず、約束した時間は大幅に過ぎてしまっている。


 その上、簡単なお使いをしくじって彩に残念がられ、恨み言を言われ、責められるところだった、と想像するといてもたってもいられない気持ちになった。


 何の関係もない女の子に焦るあまりに不注意から肩をぶつけて痛い思いをさせてしまった・・ちくしょう、最低な男だ、俺は・・自分さえよければ関係のない人を傷つけても良いと思うような人間なのか、俺は・・。


 篤郎は流れてくる額の汗を拭った。


 太陽光の明るさのために外では携帯の液晶画面はひどく暗く見える。そこに表示されている時刻を手で日光を遮りながら目を凝らして確認すると、家を出てからすでに10分が経過していた。


 彩はすでに怒り出しているかもしれない。いや、その元気があるならまだいい。もう寝込んでいるかもしれない。


 待てよ・・、ちょっとぐったりしていてくれるくらいの方が遅れたのを責められなくていいかもな・・。


 ・・はっ! あぁ、やっぱりな、自分で失敗しておきながら、彩が寝込んでくれていればいいな・・とか思ってしまっているじゃないか・・ほんとにだめ人間だな俺は・・。もういっそこのままそこらへんで野垂れ死んだ方がいいんじゃないのか・・。


 壮絶にくよくよしていると信号が青に変わり、重くなっている気持ちを何とか持ち上げてまた走り出した。


 部屋のドアまで数メートルの所まで走り切り、息を整えながらドアまで歩き、何とか気を取り直すために、さらにひと呼吸置いた。そして思い切って玄関のドアを重苦しい気持ちを振り払うように勢いよく開けた。


 [ガチャ!]


 部屋の中から笑い声が聞こえる。このパターンは予想していなかった。


 彩が苦しいのを通り越してとうとう一人で笑い出しているのかと瞬間思った。人間あんまり辛かったり、惨めになったり、空腹になったりすると逆に力ない笑いがこみ上げてくることがあるものだ。


 しかし、ふと玄関土間(げんかんどま)に目をやると、彩のサンダルの他にもう一足涼しげな小さなサンダルがあった。


 誰だろうと乱れた息を押し殺しながら、静かにドアを閉めて、そっとおそるおそる部屋に入っていった。


 「あっ! おかえりー随分遅かったねーほんとに急いだの?」


 「おかえりなさ~い。おじゃましてますね♪」


 そこには里村彩と宮越あおいがアイスを食べながらゆったりと座っていた。


 「・・あれ、なんでアイスが・・? あおいちゃんもさっき見かけたけど、・・何でここに?」


 彩はもう夢中で嬉しそうにバニラアイスをぺろぺろと舐めていた。篤郎に事の経緯を説明しようなどとはまったく思っていない、というか、“おかえり~”と言葉を発して以降、すでに篤郎のことは視界に入っていないようだ。


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