コンビニはちょっと寒すぎる
「篤郎くーん!! そんなに急いでどこ行くのー!? 急用~?」
「いや、彩が!! ちょっとコンビニに!! アイスが大変なことに!! いや、ちょっとアイスがなくなって大変なことになっている人が!! それで!!」
篤郎はどんどん宮越あおいから遠ざかりながら声を上げており、宮越あおいはきちんと聞き取れずに、首をかしげている。
もう声が4車線道路をひっきりなしに通過していく自動車の走行音にかき消されて聞こえないだろうと思ったのか宮越あおいは満面の笑みで両手を振った。
「また今度ー!!」
篤郎は宮越あおいに呼びかけながらもコンビニに息を弾ませて走っていった。コンビニの駐車場の前には車が2台止まっている。
炎天下を走ってきたためにかなり汗ばんでおり、額の汗を腕で拭うと、急ぎ足でコンビニの自動ドアの前まで歩いて行った。
自動ドアを開けると、店内の涼しい風が体に吹きつけて何とも言えない心地よさを感じた。
「いらっしゃいませー・・♪」
と店員の活気のある声が耳に入ってきて、篤郎は心の中で“いらっしゃいましたー♪ こんな僕にありがとうございます・・”と呟きながらもつかつかと店内に入り、アイスクリームコーナーに向かった。
「棒アイスは・・っと!」
コーナーには水滴のついたガリガリくん、ソフトクリーム型アイスクリーム、モナカ、シャーベット、かき氷等種々の氷菓子がひんやりと並んでいる。
あった。バニラの棒アイスだ。
何本買うか悩んだが、あの状態はやばかった、1本ではすでにもう里村彩を助けられないことははっきりしていた。バニラの棒アイスを迷わず2本手に取った。
そうだ、俺の分も必要だ。ここは涼しいというか寒いくらいだが、これから走って帰らなければならない。
外は炎天下で片道だけでものすごい暑さだった。自分の部屋はこことは違い涼しくはない。走って部屋に戻った段階で暑すぎてやってられなくなってしまうだろう。
少しの間、アイスコーナーで思い思いにアピールしている種々の氷菓子たちを眺めた後よし、これにしようとかき氷『シャビィ オレンジ味』を手にとった。
篤郎は商品を選び終え額の汗を腕で拭うと急いでレジに向かった。店内は昼時で次第に来客が増えてきている。この流れに巻き込まれていたらレジに並ぶことになり、大幅に帰りが遅れていたかもしれない、助かった・・。
「・・いらっしゃいませ~♪ ・・ピッ、ピッ、ピッ・・。324円でーす・・あら?」
バーコードを読み込ませ終えた店員が流れ作業で会計額を告げたが、何かあったらしく声を上げた。
店員のその声は聞こえていたが、レジの打ち間違いでもしたのかと思い、特に気にも止めずに、篤郎はうつむき加減に小銭を財布から勢いよく出し、お会計分ちょうどの金額をレジに置いた。
「・・はい・・。ちょうどですね・・ありがとうございまーす」
その言葉を聞くか聞かないか、篤郎は小さく会釈すると、財布を締めて袋を手に取り、小走りで自動ドアに向かった。
・・が、ここで急ブレーキをかけ、ピタリと動きを止め、自分のすぐ隣にあった栄養ドリンク等が陳列されている場所に目を向け手を伸ばしたかと思うと、ものすごい勢いでまたレジに引き返した。
『オロナミンC』を忘れていた・・危なかった・・。もう少しで買い忘れるとこだ・・彩に何を言われるかわからないところだった・・。
店員は会計を終えて足早に去って行った篤郎が急に立ち止まり店内に引き返してすごい勢いでレジに向かってきたので何か言われるのかと驚いて何歩か後ずさりした。
篤郎はレジに『オロナミンC』を置くと、うつむき加減に携帯の時計をチラと見た。ちいっ! 時間をロスしちまった!
「・・は、はーい・・ピッ・・。・・108円でーす♪」
店員は篤郎の様子をチラチラと見て、相当に急いでいるようだと察し、手早く『オロナミンC』を袋に詰め込みレジの前に置いてくれた。
篤郎は先程よりもさらに急いで200円支払った。
「・・はーい、200円お預かりします! ・・お先にレシートです!」
レシートを受け取り、篤郎はまた携帯の時計を見た。