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かき氷の女神さま  作者: にごらせ生茶
2/13

ミネラルウォーターはいつ冷える

 「携帯変えたら? アドレスも変えたほうがいいんじゃない? アドレス変えたらそんなにこないよ? 迷惑メール・・」


 あぐらをかき、床に片手をつき、少しのけぞり気味の体勢で暑そうにバニラの棒アイスをパクパク食べている女の子が暑さにあえぐのすら楽しそうに篤郎のガラケーの機種変とメールアドレスの変更を勧めてきた。


 [チャンチャンチャンカ♪ チャンチャンカチャカチャン♪(繰り返し)]


 着信音が部屋に響いた。篤郎はその音の鳴る方をじっと見た。


 「おっ? 誰だろう・・。あっ♪ ・・ハロー♥ あぁ~♥ 電話くれたの~♥ 電話をくれて嬉しいよ~♪ ・・うん・・私のことがあんまり暑いから心配になった? そっちこそめちゃくちゃに暑いけど元気に過ごしているの? ・・えっ? 会いたい~? ・・あたしも会いたいよ~♪ いやいや、彩芽~♪」


 「・・彩芽ちゃんなのかよ・・」


 そう呟きながら、篤郎は迷惑メールのチェックを終えた携帯を床にゴロンと転がすと、冷蔵庫の方を見た。


 そして、ヨイショと立ち上がり、冷蔵庫の横に置いてあった常温保管の、ひどい暑さですでにぬるま湯と化しているミネラルホットウォーター2本を引っつかみ冷蔵庫に押し込んでため息をついた。


 午前中のうちに冷蔵庫に入れて冷やしてあった2本のミネラルウォーターを飲みきってしまうとは思わず、冷やすのを忘れていた。


 しかも午前中に冷蔵庫に入れてあったミネラルウォーターを飲んだ時に氷をほぼ全て使い切っていたのに、製氷皿に水を張るのも忘れている。


 篤郎は慌てて製氷皿を冷凍庫から取り出し、水を張って冷凍庫に戻した。暑さでぼーっとしているためかすべて対策が後手後手になっている。


 今冷蔵庫に押し込んだミネラルウォーターがいつになったら望むような冷たさで飲めるようになるかは分からないが、冷蔵庫がこの暑さに負けじと頑張ってくれれば、今日のいつかにはおいしく飲める時が来るはずだ。


 「あ~、ちょっと持ってて。ここには邪魔者が湧いていて外に出ざるを得ない・・あ~暑い、あ~しょうがない! 食べてていいよ!」


 里村彩さとむらあやは慌てて、手に持っていた棒アイスを篤郎に渡し、篤郎に背を向けると、かけていたとんぼメガネを頭の上にひっかけた。


 通話途中の携帯を持ち、玄関の方に向かうとドアを開け、外の暑さにうんざりしながら出ていってしまった。


 里村彩は同じ大学の同級生だ。


 里村彩の大きな声は網戸越しに部屋の中まで聞こえてくる。慌てて喋っている。


 「・・うん、わかった、わかった、とにかくいま外に出たものの、暑すぎて死にそうだから、貴重な1本しかないアイス、いや“オアシス”も溶けちゃうから、はい、うん、あと少しで終わるの? じゃあ後でねー・・えっ? ああ、それは家にあるから~・・」


 外から網戸越しに彩の声とセミの鳴き声が響いてくる。


 窓からは強い日差しが差し込み、部屋の中に平行四辺形の日向を作っていた。外のそよぐ風の音は全くせず、ブーン....という人工的な扇風機の音だけはひっきりなしに続いている。


 篤郎はふと窓際にある風鈴に目をやった。首を振って部屋中に温風を送り続けている扇風機の風は風鈴についている短冊をわずかに揺らすだけで、鈴を鳴らしはしない。


 引き受けて手に持たされたアイスに目を向けて、どうしたものかと戸惑っていたものの、とても暑く、アイスが目の前でひんやりとトロトロと溶けて誘惑してくる。


 “食べていていい”と許可も得ているし、アイスを少しもらっちゃおうかな・・と考え始めていた。


 篤郎は彩が食べていたアイスをじっと見つめた。暑さでどんどん溶けてきている。よし・・余計なことはなるべく考えないようにして少しいただこう。もうこの誘惑に抗えない。


 実際には色々とかなりこのアイスを食べることに不安要素はあったが、何も気にしないようなフリで、何気ない素振りで口に運んだ。


 ああっ・・冷たくて甘くてうま~♪


 窓際にあった風鈴の音が微かに[チリン♪]と少し鳴って止まった。


 うむ、おいしい・・いつまでたっても彩は帰ってこない。電話の声が外から響いてくる・・まだ話し終わりそうな気配はない・・アイスはどんどん溶け、どろどろと垂れ出してきていた。


 しょうがないな~ともう一口気乗りしない風に食べた。・・帰ってこない・・普通にもう一口・・やれやれまだ帰ってこないのか・・実効支配が始まりもう一口・・溶けたアイスが篤郎の手に溢れてきていた。


 おっと、慌ててすでに自分のものとなったであろうアイスを一口食べた。


 はっ! 気がついた時にはアイスはもうほとんど残っていなかった。


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