無邪気なトムと混乱する街
ヘリと巨大トンボの高速のやり取りは街を更にパニックに落とし入れました。
幾らヘリの機動性が高いとは言え、昆虫のそれには敵いません。
様々なアクロバット飛行を繰り返したヘリでしたが、行く手をビルの林に
取り囲まれてしまい…。
「うわっ!危ないなぁ!」
ビルの一部が炎上する中、トムは空中で立ち止まってその様子を冷静に見ていました。
周りに目をやると遠くから沢山の飛行機が自分に向かってやってくるのが分かりました。
そう、トムを倒そうと軍隊が動いたのです。
その様子をトムは大勢の友達が遊びに来てくれたと勘違い。
飛行機の群れにトム自身が向かっていきました。
軍隊の方はと言えば、トムが自ら向かってくるとは思っていなかったので
対応が追いつかず、みんなバラバラに対応しなくてはならなくなりました。
統制が取れていれば、例え巨大昆虫と言えど軍隊の敵ではありません。
しかし、一機一機がバラバラでは分はトムの方にありました。
トムはただ遊びたかったのです。
銃弾の雨もトムには遊び道具の一つにしか感じられませんでした。
そもそも、バラバラの飛行機はお互いに弾を当てないようにしなければならず
中々攻撃出来ません。
それでいてトムの方はと言えば無邪気に飛行機と戯れようとします。
軍隊の飛行機はトムの動きに放浪され、次々に仲間同士とぶつかっていきました。
次々に落ちていく軍隊の飛行機はやがて街を火の海に変えていきました。
道は使えない、火の手は伸びる、たった一匹の巨大昆虫の前に一つの街は完全に
その機能を停止してしまいました。
「何だか騒がしくなってきたなぁ、僕騒がしいのはちょっと苦手なんだ」
燃え盛る街を見てトムはそう呟きました。
「ここはもういいからもっと別の場所に行こう」
そう言ってトムは山を越え海を越えて別の場所へ飛び立ちました。
今のトムには世界がとても小さく感じられました。
元の大きさの頃は一生先を見る事もないと思っていた目の前の海も今では
水たまりを飛び越えるように簡単に渡る事が出来ます。
トムは行く先々で先に起こした街と同じ状態にしていきました。
トム自身はただ無邪気に遊んでいるだけなのですが、街の人々にはそうは
映りません。
その機動力で何処に現れるか全く予想のつかないトムに国中がパニックに
なりました。
トムは暫くその状況を楽しんでいたのですが、そろそろお腹が空いてきました。
これだけ大きな身体になってしまったのです、元の大きさの頃食べていたものでは間が持ちません。
何を食べればいいだろうと思っていたトムはある動物に目が行きました。
「そうだ!コレを食べればいいじゃないか!こんなに沢山居るんだし!」
トムが目をつけたのは人間でした。
身体が大きくなってしまったトムに人間はただのエサにしか見えなかったのです。