賭け
クレメンス、ディミトリアス、ニコラス、カルロスの四人が取り残された。
このまま最後のときまで結界を張り続けるか、それとも一か八かの賭けに出るか。
どちらにしても絶望的な状況だった。
それならば、一か八かの賭けに出よう。
一人が時間稼ぎをし、その一瞬の隙に全員避難する。
四人の意見は一致した。
「俺が時間稼ぎします」
カルロスが名乗りを上げる。
「いや。老い先の短いわしが時間稼ぎをしよう」
ディミトリアスが言った。
「無理無理。ディミトリアス先生じゃ時間稼ぎにならないよ」
ニコラスは小馬鹿にしたように言う。
「なんだと」
「だって、今だってしょぼい魔力しか出せてないじゃん。悔しかったらオイラくらい出してみてよ」
ニコラスの言葉にディミトリアスは「ぐっ」っと言葉に詰まる。
「俺が行きます。俺はまだ魔力が残ってますから」
「カルロス。お前の技量では無理だ」
クレメンスは静かにそう言うと、結界の要をカルロスに渡した。
ケタ違いの負荷にカルロスは思わず「うっ」っとうめきを漏らす。
「あひゃひゃ。カルロス先生、頑張って維持してね。じゃ、オイラが行くね」
「ニコ。一か八かの賭けだ。お前が行くより、私が行った方が勝算があると思わないか?」
クレメンスの言葉に、ニコラスは「うーん」と少しの間考えているようだった。
「そだね。この分野はクレちゃんのが得意だもんね」
ニコラスがそう言った。
その時、突然ロジーナが姿を現した。
「ロジーナ、なぜこんなところに来たのだ?」
ロジーナはクレメンスの問いにはこたえず、呆然と辺りをみまわしていていた。
「今すぐ避難しなさい」
クレメンスの言葉に、ロジーナはきょとんとしている。
「おいロジーナ、ぼーっとしてる場合じゃないぞ。ここは危ない。早く避難しろ」
カルロスも大声で言った。
ニコラスやディミトリアスも、口々にロジーナに避難勧告をする。
ロジーナはそんな彼らを不思議そうにみまわすと、なにかを考え込むようにうつむいた。
「ロジーナ。早く避難しなさい」
クレメンスは語気を強める。
ロジーナは顔を上げると、鋭いまなざしでじっと噴火口の中を見据えながら口を開いた。
「今から私が時間稼ぎをしてあげるわ。その間にみんな避難するのよ。私の努力を無駄にしたら許さない」
止める間もなく、ロジーナは魔力を解放し、シールドを張りながら噴火口に飛び込んだ。
結界への圧力が消えた。
魔術師たちは、その一瞬を無駄にしなかった。
一斉にその場から本部へと瞬間移動した。
ただ一人、クレメンスだけを除いては。