納品
ロジーナは上機嫌で領主の屋敷から出てきた。
屋敷は小高い丘の上にあり、眼下に街を見渡すことができる。
ロジーナは満面の笑みを浮かべ、軽やかな足取りで坂道をおりていく。
本日の首尾は上々だった。
ロジーナは得意の付与魔法で生計を立てている。
今回の依頼は、領主の鎧への付与魔法だった。
鎧兜にかける魔法は、他の品とは違って複雑だ。
命を守るということだけでなく、戦いにおける能力の増強も求められる。
複数の魔法を複雑に絡み合わせなければならない。
ましてや、今回は領主の鎧だ。
一兵士の鎧とはわけが違う。
とてもやりがいのある仕事だった。
ロジーナでさえ、完成させるのに三ヶ月ほどかかった。
ロジーナは依頼に関しては決して妥協しない。
ちょっとした付与魔法でさえ全力投球で挑む。
魔術師の中には、依頼主を素人と侮って手抜きをする輩がいる。
ロジーナはそういう輩を馬鹿だと思っている。
ちょっと考えれば、なにかの拍子に手抜きが露見する可能性があるとわかるはずだ。
手抜きがバレれば、揉めることになりかねないし、そうでなかったとしても、その魔術師の評判を落とすことになる。
口コミというものはおそろしい。
一旦悪い噂が広まると、なかなか消えないものだ。
ロジーナにとって、口コミは味方だった。
ロジーナの付与魔法は、ちょっと値は張るが、金額以上の出来栄えで、仕事も早い。
そういう評判が上流階級の間で流れている。
お蔭様で、ロジーナは仕事に困ることはなかった。
今回の依頼も、そんな口コミにより得た仕事だ。
依頼主である領主は、いかにも光り物が好きそうな人物だった。
そこで、ロジーナはちょっとした工夫をした。
大きな動きをすると、鎧が微妙に光るようにしたのだ。
案の定、領主は大喜びで、当初の契約に大きく上乗せしてくれた。
予想以上の報酬に、ロジーナの心は浮き立っていた。
これで当分の間、仕事をしなくても大丈夫だ。
好きな研究に没頭できる。
ロジーナは立ち止った。
この街には名産品がいろいろとあったのを思い出したのだ。
今日は奮発して、美味しいものを思いっきり食べよう。
何を食べようかな。
そう思いながら、ふと南の空を見上げた。
一気に強い圧迫感がロジーナを襲う。
ロジーナは息をのんだ。
この圧迫感が何であるのか、見当はついていた。
この方角には例の山がある。
火山活動をはじめたという、大きな山だ。
こんなに離れた距離なのに、ここまでの圧迫感を感じるとは、ただ事ではない。
ロジーナは目をつぶり、意識を山へ集中させてみた。
凄まじい圧迫感の中に、魔力も感じられる。
何が起こっているのだろうか。
ロジーナはすぐさま術を完成させると、魔術師協会本部へと瞬間移動をした。