求婚
クレメンスはロジーナの顔の火傷跡の状態を確認しすると、包帯を取り替えた。
「経過は順調だ。これなら跡は残らないだろう」
クレメンスはそう言ったが、ロジーナはどうしてもそうは思えなかった。
前に比べれば色もだいぶ正常に近くはなってきていたが、ロジーナにはまだまだひどい状態いしか思えなかった。
これが元通りになるとは想像できなかった。
「私の言うことが信用できぬか?」
クレメンスはロジーナの顔をのぞき込むようにして言う。
ロジーナは視線を逸らした。
信用してないわけではなかった。
クレメンスはこういう嘘をつく人間ではないのは知っていた。
それでも、どうしてもロジーナは納得できない。
「心配するな。もし消えなかったとしても、私が責任をとる」
ロジーナは無言で床を見つめていた。
「ずいぶん反応が薄いな。一世一代のプロポーズをしたつもりだったんだが」
ロジーナは視線を上げた。
プロポーズ。
ロジーナは想定外の単語に戸惑った。
どの発言がそれに該当するのか、全く見当もつかない。
ロジーナはクレメンスの言葉を必死に思い出そうとしていた。
「わかりにくかったか。そうか。ふむ。少し研究せねばならぬな」
クレメンスは腕を組みながらそう言うと、視線を落とし、何かぶつぶつと考えはじめたようだった。
ロジーナは首をひねった。
先ほどの発言といい、今の発言といい、ロジーナにはさっぱりわからない。
なんだかキツネにつままれたような気分だった。
「師匠?」
「クレメンスだ」
問いかけたロジーナにクレメンスはそう言った。
「え?」
ロジーナはきょとんとしてクレメンスを見る。
「私の名はクレメンスだ」
クレメンスは戸惑うロジーナに畳みかけるように言った。
「はぁ……」
ロジーナは眉間にしわを寄せた。
どうにも会話がかみ合わなかった。
これ以上会話続けるのは難しい気がした。
ロジーナは黙り込んだ。
「私の名は嫌いか?」
しばらくの沈黙の後、クレメンスがぽつりと言った。
ロジーナは驚いて顔をあげた。
嫌いなわけなどない。
名前を聞くだけで、ソワソワと落ち着かなくなる。
ぎゅっと胸がしめつけられて苦しいのに、とても暖かくて幸せな気持ちなる。
自分をそんな気持ちにさせる名前を他に知らない。
ロジーナはクレメンスを見つめながら、首を左右にふる。
「ならば呼んでくれ。私の名を」
クレメンスの真剣なまなざしに、ロジーナの鼓動が早くなる。
「……ク、クレメンス先生?」
ロジーナは真っ赤になり、上目づかいで小さく震える声を出す。
「敬称はいらない」
クレメンスはじっとロジーナを見つめながら静かに言った。
ロジーナの心臓はドキドキと脈打ち、呼吸が浅くなっていく。
今すぐ逃げ出したい気分になったが、クレメンスの瞳に射すくめられて動けなかった。
ロジーナは意を決して言った。
「クレメンス」
思ったよりも大きな声になってしまい、ロジーナは慌てて口元をおさえた。
「やっと呼んでくれたな」
クレメンスは微笑んだ。
その優しい瞳にロジーナは惹きこまれる。
ロジーナはポーッとしながら、うっとりとクレメンスに見惚れていた。
「ロジーナ」
クレメンスの呼びかけに、ロジーナははっと我に返った。
「残りの人生を共に過ごしてほしい」
クレメンスはロジーナの目を真直ぐに見ながら、静かにゆっくりと言った。
ロジーナは、パッと顔を輝かせたが、すぐに恥ずかしくなって下を向き、耳まで真っ赤に染めながら「はい」と返事をした。




