絶望
クレメンスは看護師からの連絡を受け、すぐに館に戻った。
ロジーナの部屋は固く閉ざされていた。
クレメンスはやむなく開錠の呪文を使った。
しかしそれだけでは容易に開かなかった。
ドアの内側には家具でバリケードが築かれていたのだ。
クレメンスはなんとかバリケードを越えると、暗い室内を見回した。
部屋の隅に、かすかに動く影を見つけた。
「ロジーナ」
近寄って声をかける。
「来ないで。来ないでよ」
頭からすっぽりと布団をかぶった姿のロジーナがいた。
「一体どうしたというのだ」
「止めて。来ないで。ほっといて」
ロジーナはクレメンスから逃れるように壁にぴったりと張り付く。
「放ってなどおけるはずがないだろ」
手をかけようとするクレメンスを拒絶するように、ロジーナは身体を硬くした。
「嘘よ。みんなしてそうやって嘲笑ってたんだわ」
ロジーナは震えるくらい力いっぱい布団の端を握り締め、低い声で言った。
「一体何のことだ」
クレメンスは布団を掴んだ。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ロジーナは金切り声をあげ布団をとられまいと必死に抵抗する。
クレメンスは構わず、強引に布団を引きはがした。
「やめて。見ないでぇぇ」
布団を取られたロジーナは、頭を抱えるように顔を隠してうずくまった。
「ロジーナ」
クレメンスは震えているロジーナの肩を優しく抱く。
「離して!!」
ロジーナはそれを振り払うようにして顔を上げた。
「そうよ、まるで化け物よ。こんな醜い化け物、死んでしまえばよかったんだわ」
叫ぶようにそう言うと「うわぁぁ」と再び伏せて泣き出した。
「ロジーナ。お前を醜いなどと思うものは誰もいない」
クレメンスは穏やかな声で語りかけた。
「嘘」
ロジーナは伏せた状態で、はげしく首を左右に振った。
「少なくとも、私はそうは思わない」
「嘘つき」
ロジーナは拒絶するように強い声で言った。
「ロジーナ。お前がなぜこのような姿になったのか、なぜこのような火傷を負ったのか、みな、よくわかっている」
クレメンスの言葉を聞き入れるつもりは全くないとでもいうように、ロジーナは身じろぎすらしない。
「なぁロジーナ。私は決して醜いとは思わない。それどころか誇らしく思っているのだ」
クレメンスが話し続ける間、ロジーナはずっと「嘘つき、嘘つき、嘘つき」とつぶやいていた。
クレメンスは小さなため息をつくと、それ以上はなにも言わず、黙ってロジーナの様子を眺めていた。
室内にはロジーナのしくしく泣く声だけが響いている。
しばらくすると、ロジーナの泣き声が途絶えた。
それまでじっと動かなかったクレメンスが、突如、ロジーナを強引に抱き寄せた。
ロジーナは驚いたように一瞬顔を上げ、慌てて抵抗する。
「嫌」
クレメンスはロジーナの両腕を掴み、必死に振りほどこうとするロジーナを壁に押さえつけた。
「離して……」
ロジーナは身をよじるようにクレメンスから顔を背ける。
「駄目だ」
クレメンスは震えるロジーナの耳元でそう囁くと、顔の火傷跡に口付をけをした。
ロジーナはビクッと身体を硬くし、目をギュッと閉じる。
クレメンスはロジーナの顔だけでなく、頭部や首筋の火傷跡にも何度も何度も優しく口付をする。
クレメンスはすっかり大人しくなったロジーナの顔を両手で挟んだ。
「ロジーナ。お前は美しい。お前の美しさを理解できぬ者など相手にする必要はない」
「師匠……」
ロジーナの瞳から涙があふれる。
クレメンスはロジーナを優しく抱きよせると、嗚咽をもらすロジーナの背中を優しくさする。
「そろそろ名前で呼んでくれてもいい頃なのにな」
クレメンスはポツリと呟いたが、ロジーナには聞こえていないようだった。




