プロローグ
『インフィニティ』。今日、この日に発売されたフルダイブ型VRMMORPG。β版の時点で、既に今までの作品の倍近くの人気を誇り、全世界へとリリースされた超大作。
今までどんなゲームでも成し得ることのできなかった、ほぼ現実世界と変わらないほどの再現度を誇ると話題が話題を呼んで、即日完売という凄まじい人気を博した。
噂に違わず、圧倒的なディテールに人々は魅了され、その世界を楽しんでいた。
――しかし、
『皆さん、ようこそインフィニティの世界へ』
それはそのものにすれば歓迎の言葉であったのだろう。しかしそれはプレイヤーからすれば絶望でしかない。
後に告げられた言葉は、ある意味で死刑宣告と同じことだった。
『この世界で死んだ場合、記憶をいただきます』
つらつらと事務的に事の説明をする女の声。そして白い閃光が世界を覆う。
光が収束すると、プレイヤーたちの姿が例外無く変化し、その変化に気づいた時様々な反応を見せた。
怒り狂う者。
嘆き悲しむ者。
その場に座り込む者。
ただ泣く者。
そして――妙に冷静な者。
冷静な者の一人。黒いローブを身に纏う、魔導師然とした女が、手に持った杖をくるくると回し、同じく冷静な隣の、皮の装備の剣士に何かを言う。
今後の方針でも決めているのだろう。男は女について行く。
これは、異常だ。
あってはならない事態だ。
それでも、この現状を受け入れられた者だけが生き残る。
そうしなければ遅かれ早かれ――
――いずれ死ぬことに変わりはないのだから。