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rainy day  作者: ミズキ
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霧雨

 千春に連れられて、近くのショッピングモールに来た。そして、着くや否や、千春はあれやこれやと買い物を始める。日用品から、衣類、アクセサリーまで。そして、それらの荷物は当然。

「俺が持つんだよな」

 なんだよ、この理不尽。あまりにも、あまりにも酷くないか?親父達にどうのとか言って、結局は荷物持ちの為に連れ回しているようなものじゃないか。

 およそ五時間、あちらこちらにひっぱり回されて、もうヘトヘトだった。それでもまだまだ元気な千春に頼み込んで、今は喫茶店に入ってる。

「情けない。まだ五時間しか経ってないっていうのにさー」

「千春のペースであっちこっち連れ回されたら、誰だって疲れるだろ」

「なに、あたしがまるで人に配慮しないみたいに言って」

「してないだろ、現に俺に」

「京介、人だったの?」

「酷いっ!」

 無論千春はそんな事気にもかけていない。全くこっちの事なんて無視だ。全力全開で無視してる。清々しく思えて

「来ねぇよ、全くもって」

 いつまで経っても慣れないこの扱い。本人はそんなこと歯牙にもかけないで、悠々と次に行く店のチェックなんてしてやがる。本当、どういう神経してんだよ、コイツ。スマホを見て上機嫌なのは全く構いやしないけどさ。その笑顔を少しは俺に向けてくれたっていいんじゃないか?いつもの嗜虐的な笑顔じゃなくて。ちゃんとした、優しい笑顔。

「……本当、笑ってりゃ可愛いのに」

「なんか言った?」

「笑ってりゃ可愛いって言ったの」

「ハッ」

 鼻で笑われた。下らない事言うな、と言わんばかりだ。どうにかならないのかその性格。もっとこう、淑やかで、健気で優しくって……。

 ブルッ、想像したら、恐怖で思わず身体が震えた。怖かった。あまりにも怖かった。明らかに裏があるようにしか思えない。

「千春はそのままでいてくれ、うん。きっとその方がいい」

「なんだよ、さっきから気持ち悪いな」

 千春が想いっきり顔をしかめている。そこまで言うか。うん、けど、こっちの方がまだいい。献身的な千春なんて、怖過ぎる。むしろ、その方が気持ち悪いだろう。

「そろそろ行こうか、京介」

「……へーい」

 これから再び地獄の荷物持ちが始まるわけだ。千春はグイグイとショッピングモールを進んで行く。大した量でこそないものの、千春の荷物を持ってると、しんどい、荷物が邪魔で。

「次、ここな」

「ここ?」

 見ればそこはメンズファッションのショップだった。

「京介、いつまでもそのいい加減な服装ってのは止めろ。おしゃれに気を使え。おしゃれに気を使えば当然身だしなみに気を使うようになる。身だしなみに気を使えば、身の回りが綺麗になるし、生活にメリハリがつく。そうすれば、あたしの手間が減る。で、京介は全うな人間になる。うん、素晴らしいプランだ」

「……いや、俺は」

「四の五の言うな。来い」

 そうして中に連行。あれやこれやと服を合わせられ試着させられ、再びはしごを繰り返す事およそ二時間。

「うん、こんなもんだろう」

 千春はようやく満足したようだった。ズボンを一本、シャツを三枚、上着を二枚。俺の財布の中から諭吉が数人消えた。さらば、諭吉。お前達の事は忘れない。

「……俺の、諭吉」

「なんだ、文句あるのか」

 ギロッと睨まれる。……文句、か。文句というならば、まず連れ出さないで欲しい。そして、俺の余計な出費を返して欲しい等等、いくらでもあるが。

 なんていうんだろう。

 千春にこうやって連れ回されてると、雨の日と言う、陰鬱で、嫌な事も忘れられる。それに、いくら俺の親に頼まれたからといって、こうやって、自分の事にあてたいであろう時間を削って連れ回してくれるのを、ありがたいとも思う。それを自己満足と言い切れる程、俺はドライではないんだろう。

 うん、なんだかんだ、楽しいんだろう。俺は。だから、こうやって文句を言わないで連れ回されてるんだと思う。

「……ありがとう」

「……」

 俺の言葉を受けて、千春がポカンとしてる。まぁ、当たり前か。いかにも文句ありますって感じだった俺から、感謝の言葉が出たんだから、おかしな話だろう。

「変な奴。文句あるのかって聞いてるのに、礼を言う奴がいるか?」

 プイッ、と千春はそっぽを向いて、ズカズカと歩いてく。……怒らせたかな?ああ、文句あるかって聞かれてありがとうなんて言ったから、皮肉だと思われたのかな。

「ごめん、そういう意味じゃ」

「じゃ、どういう意味だよ」

 千春は、歩みを止めず、俺を睨むように見る。うーん。怖い。

「いや、なんでもない」

 これ以上言っても、もっと怒らせそうだから、黙る事にしよう。

「ふん。帰るぞ」

「そうだな、もう、夕飯だ」

 全く疲れを感じさせない千春は、そのまま俺の家で簡単な料理をしてくれた。食事を一緒にすますと、俺が食器を洗って千春は帰った。独り家に残った俺は、何をする事もなく、ベッドに潜り込む事にした。

 明日は、曇りだと良いな。晴れると日光が目に痛いから。


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