明日、
「明日天気になぁれ♪」
窓の外から子供の元気な声が聞こえる。 羨ましいと喉からでそうになる本音をつばと共に呑み込み、 眩しいなとごまかしながらカーテンを閉めた。
まるで自分の未来のように閉ざされた白い部屋の中には、 俺以外誰もいない。 ようもなくテレビをつけては消してを繰り返し、 暇だ。 と呪文のようにつぶやいた。 ふと横をみれば飾られている花が不安そうに頭を下げて、 俺の顔を覗き込む。
馬鹿だな、 俺。 卒業式までもう二ヶ月もないっつうのに、 こんなところにひとりでいて。 大学にいけないのはわかってんだから、 せめて高校くらいまともに卒業しようと思ってたのになぁ…。
ため息と共に思い出されるのは、 痛々しい表情を浮かべる家族の顔。 日に日にやせ細っていく自分の身体をみると、 もう先も長くないことは予想できるが、 そんな家族をみると不安と寂しさがこみ上げ、 締め付けられるような感覚に陥る。
生きたい。
そう思うたび、それは叶わないことだと思い知らされる。 じわりと目に熱いものが浮かぶ。 喉の中はカラカラだった。
せめて…。 せめて、 こうなる前に気持ちを伝えればよかった。
強く握る右手の先に見えるのは、 こないだ仲のいい友達が持ってきたクラスの寄せ書きが飾られている。 ありきたりな言葉から思わず涙しそうな言葉など色々なものが詰まっているそれの中に、 俺がずっと片想いしている人の文字がある。
『 体育祭で大縄跳びを跳び終わったあと、 捻挫で参加できなかった私のところまで走ってきてくれて、 ハイタッチしてくれてありがとう。 すごく嬉しかった。今度は私がいくね。
入院、 辛いと思うけど頑張って。鈴原 梨乃 』
何度も読み返したその文を眺め、俺は心の中、さっきの子供の声を思い出しながらそっと願いをつぶやく。
明日、天気になれ。
明日、君よ来い。