表裏
今日も掛け布団がずれていた。お腹が痛い。最近、毎日だ。しかし、このお腹の痛みと共に自分は生きていくしかないのだ。ある事情で前住んでいた家を売り払って違う町に来て二週間がたち、家から近くの中学校に通うようになった。はじめの一週間はよかった。しかし、ようやく慣れてきた頃、自分がいじめられていることに気づいた。お腹の痛みは嫌いではない。学校に行かない口実ができるからだ。今日は金曜日、今日を学校に行かずに乗り越えることができれば、三連休だ。本当はずっと休みがいい。昨日は散々だった。母に無理矢理起こされお腹の痛みを我慢して、学校に行った。何も知らない母だからしょうがない。かといって打ちあける気もない。一時間目でダウン。授業中まわりからの視線が気になり腹痛は朝よりひどくなって休み時間にすぐ保健室に駆け込んだ。それだけでは終わらない。いじめの中心人物と取り巻き三人が、保健の先生がいない隙を見て、ベットの近くにきた。言葉通り、挨拶がわりの一発をお腹に。ポケットの財布から金を抜き取られ、一発。先生が入ってきたが、笑顔でかわし出て行ってしまった。なんで。なんで僕がいじめられんだ。
今日も朝から怒鳴られた。昨日塾をサボったからだ。父の前ではおとなしくしといたけどムシャクシャする。父はなんでもできる。町内でも有名な医者で、テレビ、雑誌にもたくさん出てる。怒鳴る父に加勢する母も人生失敗なんか知らないといったような人で、過剰に俺のことを評価している。俺はそんな両親の子供だけどなんでもできる人間には生まれなかった。週五日も塾に通わされても成績は伸びない。そういう子供なのだ。学校に行くとあいつが来ていた。たしか二週間前くらいに転校してきた。名前はゴミ。朝からたまったうっぷんを晴らせると思うと顔が緩んだ。どうも、気にくわない。あの弱気な感じの顔と体。そのとおりの態度。全てが気に食わない。一時間目が終わって、あいつは保健室に行った。ばれないようにキョロキョロしてたけど、バレバレ。うっぷんを晴らしてやった。なんであいつかなんてわからない。別にだれでもいい。俺をいじめにかりたたてるのは、親。親さえいなければ、いじめなんてやめるだろう。いなくならなくてもいい。親が変わってくれればそれでいい。友達の親とそっくりそのまま。
死ぬのはこの世の最高に怖いものだと思っていたがそうではなかったと気づいた。僕は学校が怖い。いじめが怖い。転校していじめられるようになって一ヶ月。最初はシカトだけだったからまだマシだったけど、干渉してくるようになった。いじめをしてくる集団以外にも、僕に干渉する人間は減り、時間がたつと違う方法で干渉してくるという仕組みだった。人間はだれもがそういう仕組みで生きているのだろうか。それ以外にも先生、親がこんなにも鈍感だったということにも気づいた。ドラマのような嘘も真実として伝わってしまう。この頃になると気持ちを保つことが難しくなってきた。自分は弱い人間だったのだ。いじめられるようになって初めて気づくものがたくさんあった。そして、死というものがとても近いということに、最終的に気づく。
いじめているやつが死んだ。飛び降り自殺だった。急だった。遺書には俺の名前が中心人物と書かれていた。俺はとんでもないことをしたと思った。自分は殺人犯なのかという疑問、押し寄せるテレビ取材、死んだあいつの親の顔、自分の親のなんでうちの子供がという顔、一緒にいじめた仲間の顔、クラスのみんなの戸惑い、自分の将来、そして、生きていたあいつの顔。全てが俺にむかってくる。担任の先生の呼ばれ一対一で話しているときに、机を四階の窓から放り投げた。けたたましい音と一緒にガラスが割れ、数秒後、机が地面に当たる音を聞いた。その瞬間この一ヶ月ちかく、いや一年間ちかくやってきたことを溢れる涙の量より多く後悔した。謝った。しかし、なにも戻らなかった。俺は人を殺したんだ。
掛け布団がずれている。今日は月曜日、平日だからお腹の痛みが来る日だ。僕は前の中学校で転校生をいじめによって死なせた。そのことは知られてないはずだが、転校した学校いじめらるようになった。自分は自分をいじめていた。